ぽれぽれ百綴り

犬好きおばさんのんびり雑記。

シロの最後

2016-04-20 10:15:12 | いぬ・シロさん
1週間が経ちました。

この世界にシロさんがいないなんて、いまだ信じられない。


一日中、シロさんの写真を見たり、3つしかない動画を見たり、
過去ブログを見たりして、ぼーっと過ごしています。


(お世話になったクリニックから届いたお花)


時々は遺品のブランケットに包まったり、

首輪のくっさい残り香を嗅いで悦に入ったり、
最後のブラッシングで集まった抜け毛のモフモフ具合を確認して恍惚状態になったり…

もはや変質者です。


(最後にシロさんを包んでいたブランケット)


(亡くなる1週間前までつけていた首輪)


(シロのモフ毛。残り香は惜しいけど、長期保存のためエマールで洗いました。)

シロさん、いっちゃったんだなあ。

もういないんだなあ。

泣くだけ泣いて、やるだけやったら少し落ち着いたので、
シロさんの最後のことを書きとめておきます。



4月11日、月曜日。

その日の夜からシロさんは嘔吐を繰り返すようになりました。

1週間も食べてないのに、
吐きだすものもないのに。

一晩中苦しそうに嘔吐していました。

息は荒く、離れていても小さな心臓の鼓動の音がトクトクと、
大きく、速いのがわかるくらい。


シロは逝く。

もうすぐ逝ってしまう。

それはもう止められないようでした。


シロの背中をさすり、
彼女が吐瀉物で寝床を汚すことをためらっているのを手で受け止めて、

「シロ、もう少しやから」

「もう少ししたら、犬の神さま、迎えに来てくれはるから」

「シロ、よくやりましたね、って迎えに来てくれはるから」

私は何度も繰り返しました。

がんばって、とはもう言えませんでした。

つらい一夜でした。



12日、火曜日。

日曜日から泊まり込んでいる私が帰る日。

予約していたので、お昼前にクリニックに行きました。

検査結果を聞くためです。

結果は「多発性骨髄腫」でした。
これでシロさんは抗がん剤治療を始められます。
でも本人はもう人生を終わらせようとしている。

シロの呼吸が苦しそうなのと鼓動が速い理由。

肥大化した下垂体と副腎腫瘍が血圧のコントロールを失われせ、
多発性骨髄腫が血液を粘性化させているからだそう。

心臓には相当な負担がかかっていると。

シロの体は悲鳴をあげているのです。

血圧のお薬と痛みを抑えるステロイド剤は併用できません。

痛みをとることを優先しました。

「痛みと吐き気を抑えてあげれば楽になり、
食べられるようになるかもしれません」

ドクターはまだそうおっしゃってくださいましたが、信じられず。

そうなればどんなにうれしいか、と聞いていました。



帰宅してお薬を飲ませると、シロさんの嘔吐は止まりました。

少し楽になったようです。

でも食べる気配はない。

「帰るのをやめようかな」

私は言いました。

今日帰るともう二度とシロさんに会えないような気がしました。

「もう一度来ることにして、約束なんだから一度は帰り」
母は私に促しました。

私がずるずると実家にいることで、
シロクマ相方との関係が悪化する、と母はずっと恐れていました。

そんなことは絶対にない、

はず、

と思うのですが。


「帰るの、やめるわ」

「一度、帰りなさい」

やり取りは繰り返され、
結局、私は母に従い、帰ることにしました。

病院のこと、治療のことで母にはたくさん譲歩してもらったので。

シロは体を丸めて横たわっていましたが、
私たちのやり取りを聞いくように、頭を上げていました。

「シロ、吐き気、おさまったやろ。

また美味しいもの、食べような。

たくさん作ってもらって、ばくばく食べような」

帰りぎわ、私はそのやせて小さくなった頬に頬ずりしました。

シロはもう食べることはない、そう思いながら。

ほっぺの柔らかいお肉は落ちたけれど、
それでも白くてふかふかのシロの頬。

「無理言わんといて。

まずは重湯からやろ」

母がシロに代わって応えました。

「シロ、またすぐ戻って来るから」

「また会おうな」

どこかで、もう会えない、と聞こえました。

左の頬をシロに頬ずりし、
両手でシロの反対側の頬と頭をなでました。

シロは少しだけ頭を揺らして私に応えてくれました。

その力なさが悲しかったです。

それがシロとの最後になりました。


13日、水曜日。
ずっと寝不足だったせいか、
私は晩ご飯の準備をしたらソファーで眠ってしまいました。

目を覚まして、ももの夢を見ていたなあ、と、おぼろげに思いました。

シロが大変なときに、

何年も前に亡くなったももの夢を見るなんて。

不思議でしたが、
夢の中のももはにこにこしていたので、
いい夢だったのだと思います。


(先住犬もも。メニエール症の直後のしんどそうな写真でごめんね)



シロクマ相方が帰宅して、
遅い晩ご飯を一緒に食べて、

テレビを見ながらくつろいでいると、

10時20分すぎ、電話が鳴りました。

それでわかりました。


シロは逝った。

逝ってしまった。

ああ、ももはそれを知らせに来たのか。

「シロ、あかんかってん」

母はしゃくりあげていました。

「シロ、逝ってしまってん」

雨の音が聞こえました。

「8時45分くらいやと思うねん。
お風呂に入ってる間に逝ってしまってん」

そこからこのひとはずっと泣いていたのか。

母はシロの最後について泣きながら話してくれました。


その日は朝からシロは激しい嘔吐に苦しんでいました。


お水を飲むのもしんどそうだったとか。

母はほとんどつきっきりで、
背中をさすったり、
お水を飲むのに介添えしたり。

ドクターのアドバイスで、ポカリスエットを飲ませたり。

「そんなにしんどいのに、
あの子、おしっこは外でするってきかへんねん」

それでは体が参ってしまうと思って、
母は買っておいたおむつを初めて履かせようとしたらしいです。

「弱りきってるはずやのに、
どこにそんな力が残ってるのん?
ってくらいに抵抗するねん」

断固拒否されたもよう。

そんなにしんどいのに。

外は雨なのに。


「シロは強いなあ」

「賢い子やねえ」

やっとの思いで外でおしっこをすませたシロを、
感心した母は本心からほめてあげました。

午後になって、ますます嘔吐は激しくなりました。

お薬も吐きだしてしまったようです。

吐いた後は少し楽になるのか、深いため息をつきました。

母はずっとつきっきりで、世話をしました。

「大丈夫か?」

「しっかり!」

「ほらこれ飲んで…」

母もシロにはたくさん話しかけます。

そんな母の介添えする手をシロはなめたそうです。

シロの感謝の気持ちをそうやってあらわします。

「ありがとう」と言っているのです。

そんなにしんどいのに。



やがて夜になり、

シロの症状はほんの少し落ち着いたように思えました。

「ちょっと待っててや。 すぐ戻って来るから」

8時半頃、

母は素早くお風呂に入って、

あわててシロに添い寝する準備をして戻ってきました。

8時50分を少し過ぎていたそうです。

「シロ、一緒に寝ような」

近づいてシロをなでようと手をかざすと、

シロはもう息をしていませんでした。

体は温かく、
ほんの少し前に息を引き取ったとわかりました。


シロはひとりで逝ってしまいました。


お風呂場はシロの寝床のすぐ隣。

母が添い寝の支度をしていたのもシロのすぐ近く。

物音がしたらわかるし、
クンとでも鳴いてくれたらわかるのです。

それなのに、
シロは黙ってひとりで逝ってしまいました。

「シロ!」
「シロ!」
「シロ!」

母は温かいシロの体を抱き上げて、
うっすら開いている茶色の瞳をのぞき込んで、
何度も呼びました。

何度も呼んで、その体をゆすり、なで、さすりました。

でも、シロは応えてくれませんでした。

シロは戻ってこない。

母はシロの目を閉じてあげました。

シロはずっと苦しんでいたのに、
目を閉じると眠ってるような穏やかなお顔になって、
ホッとしたと母は言いました。

「やっと楽になれてんな」

それからずっと泣いて。

10時をまわってやっと少し落ち着いた母は、
私に知らせることに思い至ったようです。



シロさんはもともと滅多に鳴かない子でした。

ワン、とも鳴かなければ、

きゅん、とも、くんくん、とも、鳴かない。

女の子なのに口数が少ない。

ももが、
ワンワン、きゃんきゃん、くんくん、
いつでも口うるさく何か訴えているのとは対照的。


おばあさんになってからのシロさんは、
さらに口数が少なくなりました。

若い頃はドタバタとがさつでしたが、
おばあさんになってからはいつも物静か。

おとなしくてやりやすい子でしたが、
何か辛抱させてないか、無理してないか、
心配になることも。

こちらに心配かけないようにとの配慮だったのでしょうか?

手をなめたり、体をくっつけてきたり。

お礼や甘えは控えめなボディランゲージであらわしてくれました。

最後まで静かな子でした。

最後まで静かに「ありがとう」を言ってくれました。


15年前の春の日に突然、
ひとりでわが家にやって来たシロは、

また春の日に、ひとりで去っていきました。



14日、木曜日。
朝から私が帰ると、シロはまだ温かかったです。

「ゆうべは一緒に寝てん」

母がうれしそうに言いました。

寝顔のように穏やかなシロの横顔は、苦しさから解放されたようでした。

口元は口角が少し上がっていて、微笑んでるみたい。

そのお顔を見ていると、私は救われました。

シロを救ってやれなかった苦しさから、
シロは私たちも解放してくれました。

シロは私たちを許してくれたのでしょうか。



「シロの体が傷んでいくのはイヤだから」
「シロがどんなふうに扱われるかわからないから、お預けするのもイヤ」

母の強い思いから、
私は今日中に火葬してくださる葬儀社を探しました。

当日中に私たちの目の前で火葬してくださるところはなかなかありませんでした。
夜になるけれど移動火葬車で家まで来てくださる、というところが見つかりました。

暗いなかでお別れするのでは、シロがかわいそうにも思いましたが、
うちの裏、わが家の敷地内で火葬してもらえるなら、
空に帰っていく彼女も淋しくないと思ってそこに決めました。
予算オーバーには目をつぶりましょう。

お別れまでしばらく時間ができたのはありがたく、
私は最後にシロに添い寝しました。

シロに体をくっつけて、シロをなでながら、色々話しかけました。

シロのピンと立った耳の向こうに見えた桜は、もう葉桜になっていました。

それからシロの体を丁寧に清めました。

シロは元気だった頃はとてもきれい好きだったから。

その頃にはシロの体はほとんど冷たくなっていましたが、
どこまでも愛おしくて、愛おしくて。

もうすぐこの姿も失われるのかと思うとたまりませんでした。

たった1日のことなのに、
シロは私が最後に見た姿よりさらにやせていました。

やせ細った体は、痛々しくて、寒そうで。

無水シャンプーで洗って、丁寧にブラッシングしたシロの体は、
真っ白でツヤツヤになりました。

やせたせいで一層手足が長く見えます。

シロはこんなにきれいな犬だったんだなあ。

しみじみ思いました。

16年近くを生き抜いたおばあさんには思えません。


「あんまりやったったら、シロ、ハゲるで」

何度も何度もしつこくなでていると、
母に注意されました。

手を止め、シロの体にブランケットを掛けました。

ベビーピンクの花柄のふちどりが、
真っ白なシロによく似合いました。

それは去年10月、
シロが前庭疾患を発症した時に、友人がお見舞いとして送ってくれたものです。

お天気がよかったので、その後はシロとよく歩いた道を散歩しました。

シロも良く匂いをかいだ原っぱや土手のタンポポを摘みました。

シロに持たせてあげよう。

帰ってから、早めの夕食をすませて、庭に出ました。

ハナミズキ、オオテマリ、コデマリ、シラン、スイセン、
クリスマスローズ、トキワマンサク、シロバナマンサク、キンセンカ…

桜が咲く頃から5月までがわが家の庭のいちばん美しい季節です。

2月、3月は、家にいることが多くなったシロは、
お庭の中で散歩を楽しんでいました。

庭中の花を摘み、眠っているシロのでそばに飾りました。


最後にこの花でシロを送るのです。

シロの体を、シロが見た花、その匂いをかいだ花で埋め尽くそうと思いました。

母はシロのご飯と大好きなおやつを紙袋に詰めました。

シロはお弁当も持っていくのです。


夜7時15分、葬儀社の方がいらっしゃいました。

母とふたりで泣きながら、鼻水を垂らしながら、支度しました。

こんな汚いおばさんふたりの対応をしなくちゃいけない葬儀社の方も大変です。

シロを移動火葬車に運び、
その体を花々で埋め尽くし、
前足の近くにお弁当袋を置きました。

何度もシロに頬ずりをしました。

しつこいくらいにその体をなでました。

「シロ、また自由になったやん」

「シロ、走れ!走れ!」

野良犬として辛い思いをしながら放浪した末に、わが家にたどり着いたシロ。

「シロ、ありがとう!」

見返りを求めず、たくさん、たくさん、私たちに与え続けてくれたシロ。

「シロ、また会おうな!」

いつかまたシロに会える、そう信じています。


よく晴れた夜でした。

月がきれいで、明るすぎて、星はまばらでした。

火葬は深夜までかかったので、あたりは静かでした。

登っていくシロは、

「こんなところに住んでたんやー」

「この道、よく散歩したなあ」

とか思いながら、

わが家の一員になってから初めて見る夜景を、楽しんだと思います。


解放されて、自由になって、
弾丸ムスメだった若い頃のように、
リードを持つ母や私を市中引き回しにしたあの力強さで、
夜空を勢いよく駈けあがっていったと思います。

わが家で最後の愛しいケモノはこうして旅立ちました。


(若かりし頃のシロさん。弾丸・怪力のデストロイヤー)


先に逝った犬や猫、動物たちは、
虹の橋のたもとで飼い主さんたちを待っているといいます。

若い頃、元気な頃の姿でみんなで楽しく待っているそうです。

何年か先に飼い主さんが到着したら、
目を輝かせて駈け寄って、
一緒に天国へ向かうんですって。

順番からいうと先に到着するのはきっと母。

シロは、母と一緒に行っちゃいそうだなあ。

結局、わが家の歴代の動物たちを最後までお世話したのは母だもの。

犬猿の仲(犬ですのに!)のももや、初代の茶々丸、猫のドラちゃんと、
わいわい騒ぎながら、
母だけ待って、狂喜乱舞でみんなでそのまま行っちゃいそう。

それもいいかな。

私は生涯飼い主のいなかった犬と一緒に行くわ。


飼い主の生涯見つからなかった犬や猫たち。

それは大抵苦難の人生だったと思うのですが、
そんな子たちも虹の橋のたもとにはいるんですって。

そこに到着したひとと出会って、一緒に天国へ向かうそうです。

最終的にシロに会えるなら、それでいいわ。

その子をシロやみんなに紹介するわ。

シロ、

それまでしばらくお別れやね。



(1年前のシロさん。穏やかなおばあさんになりました。)



シロさん、そちらはどうですか?

ご覧いただきありがとうございました。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿