我家には、13歳の雌の甲斐犬がいる。甲斐犬は、主人に対しては従順であり、頭もよい犬と云われているが気性が荒い。これが定説である。我家で甲斐犬を飼うようになったのは40数年前からで、これが3代目の犬である。2代目までは雄犬で父が飼っていたが、2代目の途中から父に代わって私が散歩などに連れて行っていた。その2代目の犬も父が他界して10日ほど後で死んだ。2匹とも番犬として頼れる犬であった。そして3代目の犬は三島の弟が生まれて間がない子犬を持って来てくれた。この犬は成犬になっても喧嘩することもなく、気性の優しい、人懐っこい犬になった。しかし根は猟犬であり、猫や鳥などに向っていくときは、野生の本性を表わす。寒さにも強く、元気な犬で定期検査以外は病院に行くこともなかった。
しかし今は老犬になって、以前のような敏捷性や長い距離を走る持久力はなくなった。それでも一日朝夕の散歩には1.5Km×2の距離はしっかり歩いていた。私が散歩の時間になっても、連れて行かない時は、普段の吠え声とは違った催促するような声で私を呼ぶ。その仕草が可愛い。また知らない人が我家に来ると、強く吠えて家族に知らせるなど番犬として頼もしい犬である。しかし12月28日朝散歩に連れて行こうと、固定しているリードを離したが、いつもなら脱兎のごとく走って門のところまで行くが、今日はそこから動こうとはしなかった。少し様子がおかしいと思ったが、そのままにし、餅つきのため三島の弟のところに行った。
餅つきから帰った夕方、再度散歩に連れて行こうとリードを外したが、そこから動こうとはしなかった。顔をなでると鼻水なのか冷たいものに触れた。その日はそのまま犬小屋に戻した。妻に聞くと「日中も元気はなく、小屋の中にいて、誰かが来ても吠えなかったし、夕食もあまり食べなかった」と云った。29日に病院に連れて行く心算であったが、一日中雨が降っていたので、取りあえず様子を見ることにした。犬は小屋から出ることはなく、眠り続けていたが夕食時に柔らかめのものを少し与えると食べた。明日は病院に連れて行こうと思った。
30日起きて犬小屋を見ると、私を見て尻尾を振った。少し元気が出てきたようだ。リールを外すと、門のところまで走っていった。顔もどことなし元気が出てきたようだ。そこで登呂遺跡までゆっくり歩いた。その後犬小屋に入れたが、近所の人が訪ねてきたときは吠えた。その後は日向に出てきて、元気な姿を見せるようになった。これなら病院に連れて行くこともないと思いそのままにしておいた。老犬であり心配したが元気になった。病院に行かなかったが、この犬種は以前野生犬であった。その治癒力に驚かされた。