もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬 若林正恭

2021-04-23 20:49:30 | BOOK
文庫本

キューバ・モンゴル・アイスランド
旅をしながら若林は
今の日本
『新自由主義』と自分の生きづらさをつらつらと考える。

『新自由主義』はただの経済システムなのに
人間の生き方に多大な影響を与えていて
多くの悩み苦しみ生きづらさが生み出されている。
ってことは
違うシステムで動いている国を見てみよう。

それは亡くなった父親の青年~壮年期の日本を知りたいという強い思いから
終戦から今日までの歴史を家庭教師から教わるという
大人としては勇気のいる行動から繋がっている。
自分でも書いているようにファザコンなんだろうが、
親のことを好きなのはいいことな気がする。
父親に
聴きたいことがことが沢山あって
話したいことも沢山あったという思いが
旅のそこここで立ち上がる。

だけど
センチメンタルでも時代を語るでもなく
”若林が旅をした話”なのだ。
キューバでは革命博物館に行き市場に行き闘鶏を見て
葉巻を吸えるようになり
冒険のようにバスで現地のビーチに出かけバカンス気分も味わう。
些細なトラブルにびびる姿には笑えるし
自分だったらどうするだろう、と旅気分も味わえる。

ただ
自分の生きている足元を見てみると
この国のシステムは上手く行って無いんだなぁ
という読後感も強かった。
とても面白い本。

みかづき 森絵都

2021-02-28 23:41:56 | BOOK
図書館本

森絵都はあまり読んでなかったな、と思い借りてみた。
宮部みゆきか宮本輝以外でこんな分厚い本を読むのは久し振りすぎて
読むのに手こずるかとおもいきや
文章のリズムと物語の面白さにどんどん読まさりました。

昭和36年
戦争が終わってから16年しかたっていない頃
すでに政治に翻弄されていた教育について考えに考え
文部省を敵と思い込む赤坂千明は
自身の理想の教育の場所として塾(学習塾)を開くため猪突猛進していた。
その千明に見込まれ巻き込まれ
一緒に塾を運営するばかりか結婚まですることとなる大島吾郎。
二人と千明の子である蕗子、祖母の4人家族の人生を中心に
日本の学習塾の歴史を描くことにより
政治、行政、教員組合、誰かの思惑など
子供に関係ないところでおきる一貫性の無い学校教育の変節を
沢山の資料を基に描いている。
難しい本を読むよりも戦後教育についての概要が分かるうえに
昭和30年代から平成にまで3代にわたり教育に関わった一家とその周辺の人々が
清廉潔白ではなく、
商売敵との駆け引きの生臭さ、
子育ての失敗や感情のもつれに足を取られながらも教育から離れない
その姿に引き込まれた。

一緒に塾をやらないかと誘った時に千明が吾郎に語った言葉
「正義や美徳は時代の波にさらわれ、ほかの何ものかに置きかえられたとしても、知力は誰にも奪えない。
そうじゃありませんか。
十分な知識さえ授けておけば、いつかまた物騒な時代が訪れたときにも。何が義であり何が不義なのか、
子どもたちは自分の頭で判断することができる。
そうじゃありませんか」

この言葉は、今こそ重い。

罪の声 塩田武士

2020-10-02 00:08:33 | BOOK
グリコ・森永事件は覚えている。
お菓子のパッケージの話題になるとネットに誰かが「若い子は知らないのか」と書きこむが
実際事件前はどうだったのかは記憶にない。
お菓子売り場には行ってたはずなんだけれど。

映画化される
それも源ちゃんが出るサスペンスなら観に行こう。
というきっかけで文庫を買ったら
面白くてひと月で2回読んでしまった。

作品の中では『ギン萬事件』とされているが
事件の概要はそのまま描かれている。
確かに犯人からの金の受け渡し指示は子供の声だった。
何も知らずに巻き込まれたであろう3人の子供に作者は物語を与える。

テーラーを営む曽根俊也が父親の遺品の中から見つけた手帳とテープ。
平凡だった日々に突然恐怖が口を開ける。
世間を騒がせた恐ろしい犯罪に子供の自分が加担させられていたのだ。
俊也は父の幼馴染で顧客でもある堀田と共に
誰がテープを録音し『ギン萬事件』に関わっていたのか
その人物は自分とどんな関係なのかをおそるおそる調べ始める。

同じ時期に事件を調べ始めたのは新聞記者の阿久津英士。
社会部の特集記事に援軍で呼ばれて乗り気ではなかったが
事件の真相と深い闇に近づいていくうち
記者魂も目覚め
テープの子供、青酸いりの菓子の標的とされた子供
犯罪に巻き込まれた子供たちの為に真相を知りたいと動く。

もうとにかく面白い。
現実の事件を綿密に取材した展開に
作者の想像で出現した犯人たち、その姿がぴったりと接着されてリアルなのだ。
生まれついての犯罪者
そうならざるを得なかった犯罪者
ベクトルの全く違う動機の犯罪者

たまたま集って起こした大事件。
それらに巻き込まれてしまった家族の悲劇。
一級のサスペンスでした。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー  ブレディみかこ

2020-08-11 00:23:07 | BOOK
図書館本

本を読んだ人の
『息子さんは【エンパシー】を~「自分で誰かの靴をはいてみること」と言ったそうで、秀逸』
という一節が気になっていた。

イギリスの階級社会についてはロックと映画で知った。
サッチャーは稀代の社会制度クラッシャー。
その程度だ。

たまたま地域の良い小学校に通っていた息子が
中学は本人の意思で、以前は荒れていた【元底辺中学校】に通うことになっておきた出来事を
母親であるみかこさんが一緒にバリバリ噛み砕いていくさまが書かれている。
労働者階級、移民、貧困、出自
つまずく問題はそこいらじゅうに転がっていて歩くのが大変だ。

印象深かった部分をいくつか。

英国の教育には演劇が取り入れられていることが多いが
保育士をしていたみかこさんはそれを『感情表現を学ぶためか』と書いている。
問題を抱えた家庭の子供は表情に乏しかったり、うまく感情を伝えられない。
そして、他人の感情を読み取ることもできず、人の嫌がることをやめられない。
そういう現実を体験しているからだ。

これは私も感じたことがある。
親が自分のことや生活に手いっぱいだと(ネグレクト含む)
子供は笑わないし泣きも怒りもしなくなる。

【エンパシー】を
自分で誰かの靴をはいてみること。と学校で書いた息子さん。
これは英語の定型表現で、他人の立場に立ってみるという意味だそうだ。
みかこさんは辞書を引いて意味を調べている。
【エンパシー】
共感・感情移入・自己移入
自分がその人の立場だったらどうだろう<と想像することによって
誰かの感情や経験を分かち合う能力。
知的作業
【シンパシー】
他人の感情や行動を理解すること。
感情作業。


シンパシーという言葉は使うことがあるが
エンパシーは単語として読んだことがあるくらいで
意味の違いなど考えたことがなかった。
言葉の意味を知って使うことはコミュニケーションの基本だとは思っていたが
頭が揺さぶられた。
(頭なところが自分の弱点)

多様性・差別・政府のあり方など考えるきっかけが多く
そしてとにかく面白いのでお薦めです。

コンビニ人間 村田沙耶香

2020-01-24 00:06:29 | BOOK
今頃ですが、図書館の棚にあったので。
面白すぎて小一時間で読み終わってしまった。

コンビニのマニュアルや仕事という型にはまることで
日常生活を送ることが出来る恵子。

子供時代のエピソードにびっくりしたが
親や周囲が言う「治す」とは何だろう?
確かに恵子の行動は異様だし人に危害を加えている
話して聞かせても解らない我が子をなんとかしたかったのだろう。
でも「治す」もなにも
恵子は生まれた時からそのままだ。

自分が周囲と違うことはわかるので擬態を始めて
埋没することで生きて来た恵子に
コンビニは
こう振る舞えばいい
を全て与えてくれた。
フツーの人々が口にするフツーと
すり合わせがなんとかかんとか出来るなら
それはそれで良かったのに
フツーの人達は容赦ないね。
そして白羽はクズ中のクズだね。

「キャパの十字架」「キャパへの追走」 沢木耕太郎

2019-05-17 23:33:38 | BOOK
図書館本 GWに読んでました

最初に「キャパの十字架」が発表されて、当時論議を呼んだ作品だ。
キャパの代表作品『崩れ落ちる兵士』が
戦闘時の劇的瞬間を撮影したものでもキャパの作品でもなかった
ということを調べ上げた作品。
しかし、マグナムは写真の使用を許可したが、その説を認めた訳ではない。
そりゃそうだろう。
「ちょっとピンぼけ」も読んだしもちろん写真展にも行ったこともあり
そして
沢木氏が翻訳した「キャパ その青春」「キャパ その死」も読んでいる読者としても
「はあ?」って話だ。
真実を突き止める、またそれによって名をあげる
そういうことではなくて
ただただ知りたい、その一心の恐ろしいしつこさで沢木氏は写真が撮影された場所を探し、
写真の撮られた位置、方向を幾度も試し
人々に話を聞き、カメラの特性を探り
古い雑誌に載った写真を見る為に手を尽くし
ついには事実であろうことにたどり着く。

沢木耕太郎のノンフィクションは好きで、文庫だけではなく新書でも何冊か持っている。
硬質な文章が好きだった。
でも、この作品に浮かび上がる
知りたいことをただ知りたいという執拗さは
私が発売当時に興味をひかれなかった一因だろう。


「キャパの追走」

そもそもはこちらが取材のきっかけであった作品。
キャパが撮影した有名な写真の『現場』に行き、同じ構図で写真を撮るという雑誌の連載企画。
こちらを単独で読めば沢木氏の好奇心に疑問を挟まなくても済んだのに
と思ってしまった。
マグナムの写真展で観たキャパが日本で撮った写真
私が好きだと感じたものを凡庸だと書かれたことすら
へー、そうなんだ。沢木耕太郎と好みが違うわ。
で済んだのにね。

南三陸日記  三浦英之

2019-04-11 23:17:06 | BOOK
東日本大震災の時に新聞記者だった著者が
震災後一年間
南三陸に住み生活し
週に一度全国版に書いたコラムだ。

ひとつの文章は長くはないが
土地の人々に寄り添い綴られている温度と
添えられている写真の雄弁さに
心が動かされる。

どれくらい復興したかなんて
外からは語れない。
光りばかりあてられる部分と見ないふりをされる部分があることを
想像しながら報道には接していこうと思う。
昨年北の大地が受けた被害も
片付いてさえいない場所が沢山あるのだが
報道されない地域では
終わった災害と思われていそうだ。

「違うこと」をしないこと 吉本ばなな

2018-10-27 22:59:19 | BOOK
小説じゃないばなな本は久し振りに買いました。
エッセイでもない。
しかーし
スピリチュアル成分が私には多すぎで
一回では読み込めないのでした。

書いてる中身はうなづくことが多いんですが。

そう
どんなに好きな作家でも
「ここはちと違うな」と感じたらそのままに
嫌いになるわけではなく
違う人間だものそりゃ考えが違って当たり前。
面白いのは
嫌いな作家がたまに同意できること書いていても
「そーですねー」で終わること。

スピは本当に合わなくて
パワーストーンすら全く興味ない。
案外身に着けてる人が多くてびっくりよ。

秋の雨はなんだか切ない
はずが
何事?ってくらい降るとそれどこじゃないわ。

結婚  橋本治

2018-08-16 23:45:59 | BOOK
図書館本

さすがに「桃尻娘」でデビューした橋本治。
28歳の倫子(りんこ)が結婚というものと対峙して自分のものと考えはじめ、
自分は結婚したいのか?
どうやってみんな結婚していくのだ?
と、一つ一つ問いにぶつかって解きほぐし
婚活もしてみて到達する小気味いいラストまで
見事である。

冒頭の倫子が27歳の花蓮に『卵子老化』の話をしだすところから
自分がその年でこれを聞いたら「なんだかわからないが、子供は早く産んだ方がいいのか」
と思っただろうな、という気持ち。
(実際は高齢出産の年齢で結婚した友人が多い)


以下抜粋

話はまた振出しに戻った。花蓮の結婚は決まったが、倫子の結婚は決まらない。それ以前に、
結婚相手の候補になる男がいない。「結婚て、なんだ?」と考えたって、それで相手が出て
くるわけではない。「どうすればいいんだ?」と考えて、話はまた振出しに戻った。

――――――「どうして私には”結婚”がやって来ないのだろう」

「私が結婚できないのは、性格やを容貌に欠点があるわけではなく、その相手がいないからだ」

「しようと思えば簡単にできるはずもの」だから、「結婚」というものを我が身に引き寄せ
てあれこれと考える必要がなくなった。そのおかげで「結婚」というものが我が身に備わら
なくなって、倫子と同じような「結婚に関するアマチュア」が増えてしまう。

 実際的な現代人は「結婚」のことをあれこれと考えない。その結果、「結婚」というものが妄想的な方向に傾いて、
実際的とは懸け離れた「愛に満ちた美しいもの」になってしまう。

~~~~~


ごく一部だが
30代までの自分の内面を言語化されたのかと思った。
今だから読み物として終われるのだなぁ、うん。


屍人荘の殺人 今村昌弘

2018-06-04 23:40:58 | BOOK
ミステリーは最近読んでなかったのですが
ゴロデラに出た時の作者の印象と
あまりにも絶賛されているので読んでみました。

面白い。
途中で止められない面白さ。
密室ものだけど
ミステリーを研究して書いたと作者が言ってただけある
『密室ってあんたそりゃあそうだけど、ギャー!』でした。

現実味のあるストーリーと非現実の接合点が
なだらかなんだよね。

ミステリーを読まなくなった原因の一つに
人が殺されるのを活字で読むのもキツい時期があったからなので
個人的に後味は良くないけれど
ポップすぎたりしないので
シリーズ化もあるのかなぁ。