goo

『シェイクスピア:人生劇場の達人』(読書メモ)

河合祥一郎『シェイクスピア:人生劇場の達人』中公新書

シェイクスピアの生い立ちや、当時の時代背景、作品に流れる哲学を解説した書である。

特に、「シェイクスピアの哲学」を解説した第7章が心に残った。

著者の河合氏いわく、シェイクスピアが重視したのは「心の目(マインズ・アイ)」である。

「ハムレット 父上―父上が目に見えるようだ。
 ホレイシオ どこにですか、殿下。
 ハムレット 心の目にだよ、ホレイシオ。  (第一幕第二場)」
 (p.194)

誰とでも共有できる客観的事実に対し、その人にとってのみ意味を持つのが主観的事実だ。この主観的事実を見るために必要なものが「心の目」である。そして、この心の目でしか見えないものを見せてくれるのが「演劇」であるという。

本書の最後の言葉が沁みた。

「さまざまな人々の生きざまを描いてきたシェイクスピアだが、最後に到達したのは「信じる力」の大切さだった。信じる力 ― それは演劇の本要素であるのみならず、私たちの人生を支える力だ。人は常に明日を信じて生きる」(p.232)

見えないものを信じることが、人生を豊かにするということだろうか。今まで読んだ何冊かのシェイクスピア作品を、改めて読み返したいと思った。




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 唇を制すれば... 口に入るもの... »