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『私は貝になりたい』(読書メモ)

橋本忍(脚本)『私は貝になりたい』朝日文庫
(加藤哲太郎(遺書・原作)『狂える戦犯死刑囚』)

昔、フランキー堺主演のドラマ(たぶん再放送)を見て、子供ながら衝撃を受けたことを覚えている。

本書を手に取って少し驚いた。それは、脚本家の橋本さんが「序に代えて」で述べていることだ。

「昭和三十三年(1958)に東京放送(現在のTBS)で、芸術祭参加のテレビドラマ『私は貝になりたい』が放送されると、視聴者の賛辞が予想外な広がりで高まり、文部大臣賞も受賞したので、東宝で映画化が決まり、監督は私がと申し出るとO・Kになったので、黒澤明氏邸へ初監督の挨拶に行った。「僕はテレビは見なかったが、見た者の評判はなかなかいいよ」と黒澤さんは上機嫌に「結構だ、思い切ってやれ。都合じゃ僕が編集室へ入る」だが私の差し出す脚本を受け取ると、首を捻り、掌に乗せ、目方を計るように少し上下に動かした。「橋本よ……これじゃ貝にはなれねえんじゃないかな」脚本の軽さ…それは根幹に脱落しているものがあり、書き込み不足ではとする懸念である」(p.2)

こうしたコメントを受けて橋本さんが書き直したのが本書である。

徴兵され、上官の命令で捕虜を殺した二等兵が、B・C級戦犯として死刑になってしまうというストーリーであるが、かなりの迫力で引き込まれた

ただし、橋本さんには悪いのだが、読後感が「軽い」のである。黒澤監督が言うように「これじゃ貝にはなれないんじゃないか」と思ってしまったのだ。

ラストの名台詞につながるまでのストーリー展開や必然性が、後半になるほど弱い。ドラマや映画では、俳優の演技がそれらを補っていたのだろう。

何事においても、メッセージと、それを伝える語り手の迫力が大切である、と感じた。



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