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♯754 高齢者の定義 (その1)

2017年03月21日 | 社会・経済


 65歳以上を高齢者とする従来の定義を「医学的根拠はない」とし、「75歳以上」を高齢者と区分すべきとした日本老年学会のワーキンググループの提言に、1月18日の「週刊ポスト」誌が噛みついています。

 同提言では、
(1) 現在の70代の知的機能は10年前の60代に相当。60代は40代~50代に接近していること
(2) 65歳以上の通常歩行速度は男女とも11歳若返り、握力は男性4歳、女性10歳の若返りが確認できること(1992年と2002年の比較)
(3) 歯の数が20本に減る年齢が1957年には男50歳、女45歳だったが、2011年には男女とも65歳になったこと

などを根拠として、現在の高齢者は10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の出現が5~10年遅延していると指摘。65~74歳の前期高齢者の多くは心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めている(なので、高齢者は75歳からで大丈夫)と説明しています。

 こうした指摘に対し記事は、誰でも「まだまだ現役、隠居する年じゃないですよ」と言われたら(お世辞だとしても)うれしいものだが、いきなり「高齢者の定義そのものを変更します」という話になると喜んでばかりもいられないと記しています。

 現在、日本の65歳以上の高齢者は約3393万人、高齢化率は約27%と過去最高。少数の現役世代が多くの高齢者を支え、年金財政は危機に瀕し、医療費も年々拡大の一途を辿っています。

 そこで高齢者の定義を見直し、65~74歳の約1752万人を「高齢者」から外せば、高齢化率は一気に約13%へと半分に減る。「まだまだお若い」とおだてて74歳まで働くようにすれば、高齢化に伴う財政コストを大きく減らせるうえに「現役」の増加で税収アップまで可能になるということです。

 しかし、だからと言って高齢者の定義をいきなり10歳引き上げる(という掟破りの裏技を繰り出す)のは、何が何でも乱暴すぎると週刊ポストの記事は訴えています。

 法令が、65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と定めているのは、生物学的な老化ばかりを理由としているわけではない。例え生物学的に日本人が平均5~10歳若返っているとしても、誰もが楽しみにしている「老後」ゴールテープの方を後ろにずらすという今回の提言は、(きっと)社会保障費の赤字解消を目論む「国家の裏切り」に違いないということです。

 こうしてにわかに脚光を浴びることとなった年金受給年齢引き上げの議論に関し、日本若者協議会代表理事の室橋祐貴氏が、1月19日のYahoo newsに「年金制度改革、受給開始年齢引き上げより厚生年金適用拡大を」と題する興味深い論評を寄せています。

 氏は、65歳を高齢者の一つの目安としている社会保障制度における年齢の定義を見直すことは、企業の雇用慣行や国民の意識も踏まえ慎重に議論すべきだと考えています。

 少なくとも年金財政の観点からは、年金の受給年齢を引き上げる必要性は高くない。日本はそれほどには「高齢化」が進んでおらず、他国よりも変動制に優れた年金制度を持っているからだという、意外な指摘がそこにはあります。

 その理由として、室橋氏はまず、日本人の「平均余命」があまり伸びていないことを挙げています。

 言うまでもなく「平均寿命」は0歳時点から見た平均余命のことで、長生きばかりではなく乳幼児死亡率が大きく関係しています。 実際、1891~98年の平均寿命は42.8歳で、2010年には79.6歳まで(倍近くに)伸びたが、75歳時点の平均余命で見ると、1891~98年は6.2年(=81.2歳)、2010年は11.5年(=86.5歳)と5年程度しか伸びていないと指摘しています。

 つまり、平均寿命が大幅に伸びたのは乳幼児死亡率が大きく改善されたからで、肉体的に長生きできるようになったからではない。さらに健康年齢に関しては、2001年から2013年までの12年間でたった1年しか伸びていないということです。

 さらに室橋氏は、年金受給年齢を(あわてて)引き上げる必要がない理由として、変動性に優れた日本の年金制度の仕組みを挙げています。

 現在の日本の年金制度では受給開始の基準年齢が65歳になっているが、60歳~70歳まで選択可能なものとして運用されている。つまり、早く受給を開始した人には年金額を低くし設定し、遅くなればなるほど高く設定することで既に調整が行われていると氏は説明しています。

 せっかく受給開始年齢を(柔軟に)選択できる優れた機能を持っているのに、「70歳にならないと受け取れない」と制限する必要性は感じられない。ただでさえ低年金者の存在が問題化している中で、受給資格を70歳以上に制限してしまっては中間層が細くなり悪影響が残るだけだという指摘です。

 いずれにしも、結果として日本の年金制度が破たんすることはあり得ない。年齢に応じて受給できる金額は変動するにしても、負担に応じた年金の支給は保証されているとするこの論評における室橋氏の指摘を、私も改めて興味深く読んだところです。 


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