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♯830 ポスト公共事業

2017年07月15日 | 社会・経済


 現在、国や地方自治体の財政危機が懸念されている最も大きな要因は、(外でもない)社会保障費の膨張にあると考えられています。

 実際、国の2017年度予算では一般会計予算97兆4547億円のうちの32兆4735億円、つまり約3分の1を社会保障関連予算が占めており、2016年度に比べても4997億円増加して過去最高を記録しています。

 特に、今回(2017年度)の予算編成においては、人口構成の高齢化の進行に伴う社会保障関連支出が医療関連で11兆5010億円、年金関連で11兆4831億円とそれぞれ2.0%と1.5%伸びており、さらに「一億総活躍社会の実現」に向け、保育士の処遇改善などの財源も増やしているのが特徴と言えるでしょう。

 こうした国の社会保障関連の政府支出を1990年度と比べると、この四半世紀で実に3倍程度にまで膨らんでいることが判ります。社会保障費全体が毎年1兆円規模で増加している一方で、保険料収入は横ばいで推移していることからもわかるように、増加分の多くが税金と借金で賄われている状況にあると言えます。

 そうした中、高度成長期には経済対策として花形的な存在であった公共事業費は、2017年度予算案では土木分野で5兆9763億円、その他の施設費を合わせても総額6兆5956億円に留まっており、(インフラの老朽化が懸念されている中)社会保障関連予算のほぼ5分の1の規模感に過ぎません。来年度は、2016年度当初予算と比べて26億円(0.04%)の増とはいえ、金額的にはほぼ横ばいの状況で推移しています。

 振り返れば、公共事業関係費(決算ベース)は、1991年のバブル崩壊後の経済対策として1993年度に13兆6800億円でピークを打った後、2001年度まで10兆円規模を維持していました。しかし、2002年以降、(6億~9億円の間で多少の増減はありますが)緊縮財政の下、基本的には減少傾向が続いています。

 特に2010年度から2012年度にかけての民主党政権下では「コンクリートから人へ」の掛け声の下で公共事業への世論の風当たりが強くなり、5億8000万円にまで大きく落ち込んだのは記憶に新しいところです。

 さて、人類史上でも未曾有と言われる高齢化に直面している現在の日本において、限られた財源のもとで国民の社会保障を安定的に維持していくためには、可能な限り(社会保障のための)費用の膨張を抑えていくことが求められているのは事実です。

 しかしその一方で、3月22日の日本経済新聞(連載「ゆがむ分配」(6))によれば、社会保障費を抑制すれば地方が疲弊するとして、地域経済の観点から医療や介護などに対する政府支出の削減を警戒する動きも生まれているようです。

 全国各地の特に「地方」には既に医療や介護、年金などにかかるお金が染み渡り、それを削れば地方経済も道連れになる。公共事業という糧を失った地方では、経済を「人質」に、社会保障のコスト削減を牽制する声も上がっているということです。

 記事では、公共事業の抑制により経営に苦しむ建設事業者などが、次々と(通所介護サービスや老人ホームの経営、サ高住の建設・管理)などの福祉・介護分野に進出している地方の現状を紹介しています。

 公定価格の社会保障サービスは価格競争に巻き込まれにくく、収入は安定しています。地方にはお客さんとなる高齢者も多く、競争のない制度の下、人、モノ、そして公金が社会保障の分野に流れ込むことで、街の一大産業にまで発展し地域経済を支えている例もあるでしょう。

 確かに、地方の都市などを歩いていると、大きくて新しい建物は大抵、特養ホームや老健施設、デイサービスセンター、そして病院などであることに気づきます。広い駐車場を備えた4から5階建ての少しやさしめの斬新なデザインが、周囲のさびしい景色の中でその存在感を発揮しています。

 また、地方のハローワークで求人情報などを見ると、その多くが介護施設のヘルパーや介護士、看護師などの福祉や医療に関係する職であることにも改めて驚かされます。

 こうした状況を踏まえ、記事は、地方によっては既に供給過多の状態を来していて、過剰な需要を生んでいるのではないかとの指摘を行っています。

 例えば、市内に300を超える病院や診療所が軒を連ね全国有数の医療都市と知られる高知市の75歳以上の後期高齢者の1人あたりの医療費は120万円を超え、全国平均を30万円ほども上回ると記事は指摘しています。

 これは、本来は在宅介護や特養ホームに頼るべき高齢者が病院への入院に誘導されていることが原因と考えられますが、過剰と言われる病床削減の動きに対し高知市長の岡崎氏は、「安易に病床を削減すれば地域経済に悪影響を及ぼす」と反論しているということです。

 因みに、高知県と言えば、1人当たりの国民医療費が全国で最も高い県(42万1700円:2015年)であり、その額は最も少ない埼玉県(27万8100円)の1.5倍以上に達しています。一方、高知県の人口10万人当たりの病床数はこちらも全国で最も多い2492床で、全国平均(1215床)の約2倍、最も少ない埼玉県(863床)の実に3倍近い数であることがわかります。

 さらに言えば、中でも高知市の病床数は(高知県内でも頭ひとつ抜きんでた)2967床に及んでおり、医療資源の集中度は全国屈指の水準に達しています。

 高知県の例ばかりでなく、記事は、高齢化が進む島根県や奈良県、愛媛県などでも年金所得が家計消費支出の2割を超えていることを挙げ、社会保障費という「公金」が地域経済を実質的に動かし支え始めている地方の実態を指摘しています。

 高齢化が進む地方の人々の暮らしを支えるための社会保障費が「ポスト公共事業」化することで、様々な「ゆがみ」を社会に与え始めているのではないか…、そう懸念するこの記事の問題意識を、どうやら私たち重く受け止めていく必要がありそうです。

ジャンル:
経済
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