今日の視点 (伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のファイリングサイトにようこそ。

♯608 企業ガバナンスと院政

2016年09月19日 | 社会・経済


 天皇陛下による「お気持ち」の表明に伴い、憲法や皇室典範の改正の是非も含め天皇の生前退位の可能性に関し、メディアや政治の場において様々な議論がなされるようになっています。

 そもそも、皇室典範に生前退位の規定がないのは、一般に「院政」をはじめとした政治的な動きを皇位継承に波及させないための工夫だと言われています。

 天皇が生前退位した場合、基本的には先の天皇は「太上天皇(上皇)」となります。

 日本史の教科書にもあったように、在位する天皇の直系尊属である上皇が、天皇に代わって政務を直接行う形態を「院政」と呼んでいます。特に、白河上皇の1086年から平家滅亡の1185年頃までの時期は「院政時代」と呼ばれ、朝廷の権威や権力の分散が政治の混乱を来した時代として、多くの人々に記憶されています。

 確かに、天皇に比べて政治的に自由な立場の上皇(院)が政治に関与することで、政治の実権を巡って(バックグラウンドにいる権力者の間に)様々な確執が生じることは想像に難くありません。

 しかし、その一方で我が国では、伝統的な家督制度を背景に当主が存命中から隠居して家督を次代に譲り家の実権を掌握し続けるというのは、比較的一般的に行われてきた(権力移譲の)習慣であるという指摘もあます。

 こうした制度がいつ頃から始まったかには諸説あるようですが、日本人の思想に国家ならびに家の概念が固まりつつあった弥生時代には、既に確立されていたとする説もあるということです。

 さて、日本の企業において、引退した創業者や元経営トップなどに「顧問」や「相談役」といったポストがあてがわれているのも、このような日本の古い伝統に基づいているのかもしれません。

 最近では、「社長」のポストを改めて「最高経営責任者 (CEO)」、「最高執行責任者 (COO)」などと位置付けている企業もあるようですが、(その背景には)会長や相談役、株主の顔色をうかがうことを「経営」と勘違いしているサラリーマン社長が多いことも挙げられるようです。

 因みに、英語には「相談役」を直訳する言葉は存在せず、海外の企業文化の中で育ってきた人間にそのポジション(と影響力)を理解してもらうのには、多少時間がかかるという話も聞くところです。

 (前置きが長くなりましたが、)8月22日の日本経済新聞のコラム「経営の視点」では、編集委員の渋谷高弘氏が、こうした「旧トップ」の存在が企業のガバナンスに与える悪い影響についていくつかの論点を提供しています。

 相談役や顧問などの旧トップが何人会社にいるか。現役役員より良い部屋が与えられているか…などについて、上場会社の本当のガバナンス(統治)の姿が透けて見える(判り易い)ポイントだと記事はしています。

 歴代3人の社長が不適切会計を主導したとされる東芝は、2000年代初めに欧米流の委員会等設置会社(現指名委員会等設置会社)に移行し企業統治の優等生と評されていました。しかしその実態は、社長経験者が就く相談役が最多時に5人も置かれ、その他の重役経験者が就く顧問のポストが27もあったということです。

 上場会社の相談役や顧問には、社長経験者らが税法・株主対策上、顧問契約を結び就任することが多いわけですが、彼らには経営責任はありません。渋谷氏によれば、それでも報酬は(驚きの)月250万円程度が相場で、一般に専用の個室、秘書、運転手付きの車が与えられ、接待費も自由に使えるケースが多いということです。

 一方で、確かに就任1~2年目の社長には経験豊富な先輩の助言が役立つことが(もしかしたら)あるかもしれませんが、中には先輩意識で経営や人事に口出しして規律を乱したり、会社に居座り面倒をみてもらおうとしたりする例も多いと記事は指摘しています。

 欧米では通常最高経営責任者が退任後も会社にいる余地はないのに、日本企業で「会社離れの悪い旧トップ」が普通なのはなぜなのか?

 渋谷氏によれば、それは終身雇用を前提として現役時の報酬を抑える代わりに、退任後に(所得を)補う慣行があるからだということです。

 さらに、「序列」で苦労した社長は、自分も相談役になり(会社にしがみついて)余生を過ごしたいと考えるだろう。後輩に苦労をかけたくないから制度を廃止する…とはなりにくいのは当然だと氏は説明しています。

 しかし、最近ではこうして企業内に温存されてきた旧トップを、投資家サイドが問題視し始めていると渋谷氏は述べています。

 花王では(株主等からの指摘を受け)既に2004年ごろを節目として報酬を伴う相談役・顧問を事実上廃止しているということです。また、日立製作所では、今年6月、庄山悦彦氏と川村隆氏が相談役を退任。会計不祥事で批判を浴びた東芝でも、6月に相談役制度を廃止して個室や専用車もないということです。

 「まだ貢献できる」という矜持(きょうじ)と気力を持つ相談役・顧問も多いだろうが、そんな旧トップはぜひ社外取締役に就任し、知見と良識を存分に発揮していただきたいと渋谷氏は指摘しています。

 従順な後継者をまず確保しておいて、自らは傀儡(黒幕)として内部で経営を操りたいという(会社を私物化するような)考え方が、もはや通じない時代がやってきているということでしょうか。

 判断の主体が曖昧で、責任の所在が明らかでないのが日本のガバナンスの特徴だとされて久しいわけですが、900年以上も前から弊害が指摘されていた「院政」の伝統も、そろそろ打ち破る時期に来ているのかもしれません。
ジャンル:
経済
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ♯607 イジメとイジリ | トップ | ♯609 インフレよりも賃金を »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。