MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯376 江ノ電が行く

2015年07月13日 | 日記・エッセイ・コラム


 社会の高齢化や若い世代の経済状況や嗜好の変化などの影響からか、近年、身近な場所で休日を過ごすという、いわゆる安・近・短レジャーへの志向が一層強くなっているようです。

 首都圏で言えば、鎌倉や川越などの古い街並みを有する観光地や、御殿場、軽井沢などのアウトレット施設、浦安の東京ディズニーランドなど、日帰りで一日楽しめる場所での行楽が人気を集めています。

 中でも古都鎌倉は、東京から電車で約1時間の距離にありながら、歴史をはぐくんだ寺社や名勝地、折々の花などが楽しめる首都圏有数地の観光地として非常にポピュラーな存在です。

 さらに、ヒット・メイカーとしてのサザン・オール・スターズの存在感からもわかるように、湘南を代表するマリンスポーツの聖地としての鎌倉・江の島は、石原裕次郎や加山雄三の時代から若い男女を惹きつけてやみません。

 ここ数年は、マスコミの情報番組やテレビドラマ、最近ではアニメ、漫画などにもさまざまな形で取り上げられており、若者から年配まで幅広い年代の人々を遍く魅了していることが、他の観光地とは違ったこの地域の特徴と言えるかもしれません。

 市のホームページによれば、平成25年に鎌倉を訪れた入込観光客数は2,308万人を数え、平成24年の1,974万人を約334万人上回って、前年比で17%の増加となっているということです。

 こうした状況を追い風に、鎌倉-藤沢間を走る江ノ島電鉄(江ノ電)の収益も好調です。「江ノ電」と言えば、営業区間が鎌倉-藤沢間のわずか10kmにも満たないローカル鉄道ですが、現在、年間状況客数1700万人を数え、ここ10数年にわたり安定的な黒字を計上し続けているようです。

 6月26日の「東洋経済オンライン」では、「江ノ電が50年前の車両も使い続けるワケ」と題する記事において、江ノ電がなぜ人々を引き付け、全国的に知られ、愛される存在になったのかについて興味深い解説を行っています。

 記事によれば、現在、観光客を中心に人気を集める江ノ電にも、モータリゼーションの進展に伴いかつては廃線の危機に直面していた時期が続いていたということです。

 他の地域の路面電車やローカル鉄道と同様に、1963年頃から江ノ電でも廃線に向けた具体的な検討が始まっていた。しかし幸いにも、その後、鎌倉周辺地域では(観光客等による)自動車の渋滞が特に問題化し、江ノ電存続の強力な追い風になったとされています。

 さて、そうした江ノ電が現在、年間1000万人以上の観光客に(特に好んで)利用されている要因について、この記事において同社前社長の深谷研二氏は、「江ノ電」という存在自体が観光客に「非日常性」を与える風景のひとつになり得ていることを挙げています。

 深谷氏は、昨今の江ノ電の人気について、沿線地域のロケーションの魅力とレトロな路面電車が走っている風景とが一致して、非日常的な魅力を生み出しているのではないかとしています。

 記事によれば、急カーブをゆっくり走ったり、民家すれすれに通り抜けたりする様子は、ちょうど遊園地の乗り物と同じように感じられるということです。江ノ電側も、本来は短所であるはずの「遅い」という特徴を逆手にとって、観光客のエンターテイメントとして意図的にそこを活用しているとしています。

 また、最近では、昔懐かしい江ノ電の風景を目当てに鎌倉を訪れる人も、次第に増えてきているということです。例えば、これまで何度もテレビドラマや映画の舞台となってきた「極楽寺駅」は昔ながらの木造・トタン葺きの小さな建物ですが、休日ともなれば大勢の観光客がこの駅を目当てに訪れているようです。

 江ノ電では、維持・管理の面からすれば不効率・高コストであっても、あえてこうした駅舎を維持し守っているとしています。江ノ電が走る鎌倉のノスタルジックな風景を壊さないためにも、イメージを守るための丁寧な配慮を続けているということです。

 さらに江ノ電では、代々引き継がれてきた半世紀前の古い車両を毎日走らせるといった努力も続けているということです。例え新しい車両に比べてメンテナンスの手間やコストが倍以上かかっても、こうした車両が持つ魅力には代えられない。この車両が走るだけで、多くの観光客が笑顔を浮かべ、マニア達はその姿を捉えるためにカメラを向けると言います。

 湘南の海沿いのすばらしい景観の中を走る江ノ電には、その代償として、保守点検にはさび対策などの人一倍の苦労があると記事はしています。車両ばかりでなく、保線にしろ、電気・通信信号関係にしろ、現場の苦労は並大抵のものではないということです。

 ただただずっと同じ様に、昔のまま何も考えずに走ってきた訳ではない。首都圏においてその存在感を増す古都鎌倉に(ある意味のんびりとした)色を添え、訪れた人に非日常の経験を与えてくれるローカルな江ノ電にも、走る姿からはなかなか想像がつかない、鉄道マンの努力や苦労があるようです。

 住民や観光客から愛される交通機関としてすっかり定着している観のある江ノ電という存在を、私もこの記事から改めて見直したところです。
 


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1 コメント

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江ノ電 (もののはじめのiina)
2016-05-18 08:29:26
江の島と富士山をいれた江ノ電は、ナイスポイントです。参考にさせていただきます。^^

江ノ電は、ガタゴト走る姿が愛らしくて懐かしさが残るチンチン電車です。

ここを空から眺めてみました。

明日は、江の島を俯瞰します。^^

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