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♯832 性同一性障害と向き合う

2017年07月17日 | 日記・エッセイ・コラム


 3月18日の東京新聞(夕刊)は、心と体の性が一致しない「性同一性障害(GID)」で国内の医療機関を受診した人が、2015年末までに延べ約22,000人に上ったことが判ったと報じています。日本精神神経学会の研究グループが行った調査では、2012末に行われた前回調査と比べ3年間で約7000人増加し、概ね1.5倍の規模に膨らんでいるということです。 

 受診者数増加の原因について、記事は、性同一性障害への社会的認知度が高まったことで当事者の意識が変化し、受診への心理的ハードルが下がったことを挙げています。性同一性障害の当事者は国内に数万人いるとされてきたが、今回の受診者数の調査によりこうしたことが改めて裏付けられたと記事は指摘しています。

 「性同一性障害」とは、出生時に割り当てられた性別とは異なる性の自己意識(Gender identity:性同一性)を持つために自らの身体的性別に持続的な違和感を抱き、自己意識に一致する性別を求め、時に身体的性別を己れの性別の自己意識に近づけるための何らかの対応を要する状態を指すとWikipediaは定義づけています。

 「心の性」、つまり自覚している性と身体の性が一致しない状態と簡単に言ってしまう例も多々見られますが、厳密に言えば、「性同一性障害」とは自身の身体の性別に違和感や嫌悪感を持ち、その性別で扱われることに終生絶え間なく精神的な苦痛を受けることになるため、普通の生活を送ることに支障をきたす状態と考えられます。


 また、そうした意味において、身体の性の変異に関わる性分化疾患や、性的指向に因る同性愛、さらに性同一性とは関連しない異性装とは根本的に事象が異なるものとして受け止める必要があるということです。

 過去には、性別は身体や染色体によって決まるもので身体の性と性同一性は一体のものと考えられてきた時代もあったようですが、性の発達が先天的に非定型的である「性分化疾患」の症例研究が進むことにより、性分化疾患の場合、身体の性と性同一性はそれぞれ必ずしも一致しない場合があることがわかってきたということです。

 胎児期における人間の性分化に当たっては、性腺や内性器、外性器などの性別が決定された後、脳の中枢神経系にも同様に性分化を起こし、脳の構造的な性差が生じるとされています。この脳の性差が生ずる際、通常は脳も身体的性別と一致するのですが、何らかの理由によって身体的性別とは一致しない脳を部分的に持つことにより、性同一性障害を発現したものと現在では考えられているということです。

 さて、日本では、こうした性同一性障害を抱える人々への治療を進めたり、社会生活上の様々な支障の解消を図るため、13年前の2004年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が施行されました。

 この法律により家庭裁判所は、性同一性障害者であって
1. 2人以上の医師により性同一性障害であることが診断されていること
2. 20歳以上であること
3. 現に婚姻をしていないこと
4. 現に未成年の子がいないこと
5. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
6. 他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること
の6つの要件のいずれにも該当する人については、戸籍上の性別の取扱いの変更の審判をすることができるとされています。

 同法の規定では(要件の5及び6にあるように)法的な性別の変更には性別適合手術が求められていることもあって、最近では性同一性障害の人たちは、「治療」の一環として内分泌療法(ホルモン療法)を受療したり、外科的な性別適合手術を受けたりする人も多くなっているようです。

 内分泌療法では、男性の身体的性別を持つ人が体を女性化するために女性ホルモンを使用したり、逆に女性の身体的性別を持つ人が男性化するために男性ホルモンを使用したりすることが一般的で、性ホルモンを注射することによって身体的特徴がより精神的な性別に合致したものに変化していくとされています。

 また、性別適合手術では、陰茎と精巣を切除し膣を形成したり、卵巣と子宮を摘出し太ももや腹部の皮膚を用いて陰茎を形成したりするということです。また、男性への豊胸手術や女性の乳房切除手術などを含める場合もあるようです。

 一般的に、性同一性障害者への内分泌療法や外科的療法は健康保険の適用外であるため、いわゆる自由診療で行われています。また、国内では手術が可能な医療機関も限られているため、費用の安いタイなどの外国や設備の整っていない国内の医療機関で手術を受け、術後に後遺症などのトラブルに成るケースもしばしば発生しているとされています。

 これらの治療が保険適用外である理由について、厚生労働省保健局では「手術の有効性や合併症などの安全性についてまだ議論が必要」と説明しているということですが、今後、一定規模の症例が揃い、術式その他が確立し、さらに認定医制度などが整えば保険適用につながる可能性もあることを示唆する声もあるようです。

 前述の毎日新聞の記事によれば、性同一性障害で医療機関を受診する人は増加傾向にあるものの、多くの専門家は、周囲の理解不足や経済的な事情から受診に踏み切れない人は依然として多いと見ているということです。

 実際、性同一性障害と診断された人の2割しか手術を受けておらず、性別変更へのハードルはまだまだ高いと言わざるを得ないという指摘もあります。

 性同一性障害には、それ自体が命にかかわるような疾病や障害でないため誤解を招きやすい側面があるのも事実です。しかし、それが「個人的嗜好」というような単純な問題ではなく、(そのままで)生きることには大変な辛さが伴う「障害」であることについては、既に医学的なエビデンスがあり、社会の合意も(概ね)できていると言ってよいでしょう。

 22,000人という受診者の数は、様々な価値観を有する社会の人間関係の中で(ともすれば)心の中に深く秘匿されがちなこうした問題に、ようやく正面から向き合う人たちが増えてきたことを意味しています。

 心と身体の性的な不一致を感じる誰もが医療機関を受診し、適合手術を受けるべきとは思いませんが、この際、タブーを乗り越え、さらにオープンな議論を巻き起こす必要があるのではないかと(こうした規模感から)改めて感じるところです。


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