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♯605 中国が先進国になるには

2016年09月15日 | 国際・政治


 8月に入り、日本経済新聞のコラム「やさしい経済学」では、政策研究大学院大学の大野健一氏による「中所得の罠とアジア」と題する寄稿が連載されていました。

 7回目となる8月9日、大野氏は中国経済の現状を踏まえ、今後の中国社会の行方に関し、概括的な論評を加えています。

 (先進諸国との比較において)好調な経済を背景に、「大国」を標榜し政治的・軍事的な圧力を強める中国は、その巨体を持てあますことなく、この先、先進国にスムーズに移行していくことができるのか…この論評における大野氏の視線はそこに注がれています。

 中国経済の規模は、統計上数字の上では約10.4兆ドル、国民1人あたりの所得は7400ドル(2014年現在)とされています。

 気が付けば、日本と比べ経済規模(GDP)は2倍以上に膨張していますが、それでも1人あたりの所得は6分の1程度に過ぎません。無論、これは中国が、日本の11倍という(想像もつかないような)人口を抱えているからにほかなりません。

 1970年代、文化大革命の混乱を収めた中国の指導者鄧小平は、毛沢東の「大躍進」政策や文革で疲弊した中国経済を復活させるため、1970年代終盤から「改革開放」に舵を切りました。さらに1992年頃からは江沢民、胡錦涛の主導の下で本格的な社会主義市場経済が動き出し、経済発展を加速させていきます。

 以来20年間、(多少の変動はあったものの)中国経済は平均で二桁という成長を維持し、戦後日本の高度成長期に匹敵するような経済力の急激な上昇と社会の変化を経験してきたと、この論評で大野氏は説明しています。

 ところが、こうして順調に伸びてきた成長率も、2012年以降6~7%台に落ちていきます。中国政府はこれを「新常態(ニューノーマル)」と呼び、「成長率だけに執着しない」としながらも、経済の構造調整を進めることで一層の改革・開放に取り組んでいくとしています。

 中国はこうして、(安定成長を基調とした)低成長時代を迎えました。一方、振り返れば日本経済は、先進国への仲間入りを果たした1970年代初頭にこの低成長時代を迎えるに至ったと大野氏は説明しています。

 氏によれば、中国の現在の実質所得水準は、ちょうど1960年代初めの日本に相当するということです。

 これは、日本で高度成長が始まって間もない時期に当たるので、今スローダウンするのでは早すぎる。中国経済の専門家たちもこれを「未富先老」(豊かになる前に老いる)と呼んで、様々な形で懸念を表しているとしています。

 実際、1979年から40年近くにわたって続けられた一人っ子政策の影響もあって、(予想される)中国社会の高齢化には世界的に見ても深刻な状況にあります。先進国であっても、格差の拡大や社会保障の増大が大きな社会問題となっている中、中所得のまま国民福祉を充実していくことは非常に困難が伴うということです。

 成長の鈍化以外にも、中国社会の将来にはさらに多くの懸念材料があると大野氏は指摘しています。

 過去の成長の過程で置き去りにされてきた「環境破壊」や「拝金主義」、「汚職」などの顕在化に加え、閉鎖的な国内市場や脆弱な金融システム、そして何よりも政治的な不安定感とそれに伴う人権問題など、ひとつひとつ数え上げればきりがありません。

 政府当局からはそれぞれに対策が打ち出されているが、目に見えるような成果は出ていないと大野氏は言います。とりわけ個人や地域間の格差の拡大は、放置すれば経済を脱線させ、社会不安を増大しかねない深刻な問題だということです。

 さらに大野氏は、中国政府による政治改革の遅れも指摘しています。

 中国の現在の所得水準は、1980年代の台湾や韓国に対応すると大野氏はしています。両者はちょうどその頃、独裁国家から民主化へと移行していきました。

 しかし、中国では未だにそうした兆しは見えてこない。習近平政権は、むしろ批判性威力の弾圧や少数民族への抑圧によって事態を乗り切ろうとしているように見えるということです。

 また、大きな経済力を手にした国は、対外的に攻撃的になるというのが歴史の苦い教訓だと、この論評で大野氏は述べています。

 ましてや、国内にくすぶる政治への不満をかわすため、地政学的な視点から国民(民族)のナショナリズムに訴えるのは権力の常とう手段であり、もしも中国がそのような道を歩むならば、高所得への道、先進国への道は益々遠のくことになるというのが大野氏の認識です。

 「核心的利益」「新型大国関係」「九段線」などという様々な新しいキーワードを駆使し、東・南シナ海を中心に(ある意味子供じみた)地政学的膨張政策に余念がない最近の習近平政権ですが、こうした状況を勘案する限り「中国の前途は多難」と評するこの論評における大野氏の指摘を、私も(世界経済への懸念とともに)興味深く読んだところです。


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