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♯836 改めて「草食化」を考える

2017年07月23日 | 社会・経済


 2月22日の毎日新聞の紙面において、日本家族計画協会クリニック所長の北村邦夫氏が、日本における人工妊娠中絶の現状について説明しています。

 昨年11月に国が発表した人工妊娠中絶統計によれば、2015年度の中絶届出数は17万6388件で前年度よりも5517件減少し、統計史上初めて18万件を割り込んだということです。1955年度の中絶数が届出数だけで約117万件だったことを考えればまさに隔世の感があると、北村氏はこのレポートに記しています。

 氏によれは、中絶は妊娠の結果であり妊娠は性行為によっておこるわけなので
(1) 確実な避妊が行われている
(2) 出生数が増えている
(3) 性行動の停滞
などが、昨今の中絶減少の要因として考えられるということです。

 それでは、この60余年の間に日本人に一体何が起こったというのでしょうか?

 日本家族計画協会が昨年実施した調査(第8回「男女の生活と意識に関する調査」)によれば、ピルや月経困難症の治療薬である低用量ホルモン代の使用者は調査対象のわずかに4.2%で、緊急避妊薬についても中絶実施率に影響を及ぼすほどには普及していないと氏はしています。因みに、フランスやオランダではピルの使用率は(対象年齢の女性の)4割を超えているということです。

 一方、妊娠能力が一定であるとすれば、中絶実施率の減少は出生率の増加を招くはずですが、2016年の出生数は1899年の統計開始以来初の100万人割れが話題になるなど(少なくとも)増加の事実はないと北村氏は指摘しています。

 こうして、出生率の低下や、定点報告から見た性感染症の罹患率の低下、中絶率の減少などを考え合せると、(消去法的に)性行動の停滞がこうした結果をもたらしていると考えざるを得ないというのが、日本における中絶数の減少に対する北村氏の認識です。

 さて、昨年9月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の調査(第8回「結婚と出産に関する全国調査」)によれば、交際相手のいない未婚者が男性で7割、女性でも6割に上っていることが判ります。これは5年前の前回調査に比べて男女とも10ポイント近い伸びになっているうえ、交際自体を望んでいない人が未婚男性の約30%、女性の約25%に及んでいることも見て取れます。

 さらに、性交渉の経験がない(いわゆる「童貞」「処女」の)独身者の割合も男性が42%、女性で44.2%と男女とも増加傾向にあり、30~34歳に限っても、男性の約4分の1(25.6%)、女性約3分の1(31.3%)が性経験がなかったということです。

 また、前出の「男女の生活と意識に関する調査」では、性交渉の頻度にも踏み込んでいます。(性経験がない人を除いた)約1000人に過去1カ月間の交渉回数を聞いたところ、男性の53.4%、女性の48.8%が「しなかった」と回答し、その割合は5年前に比べ、男性で5.1ポイント増加、女性では1.3ポイント減少と、特に男性で(いわゆる)セックスレス化が進んでいることが顕著に表れています。

 さらにこれを既婚者(655人)の回答に限ってみても、47.2%(男性47.3%、女性47.1%)が「この1カ月間性行為をしなかった」セックスレス状態にあることが判ったということです。

 こうした既婚者に対し、性交渉に積極的になれない理由を聞いたところ、男性では「仕事で疲れている」が35.2%、「家族(肉親)のように思えるから」(12.8%)、「出産後何となく」(12.0%)が上位に。また、女性では「面倒くさい」(22.3%)、「出産後何となく」(20.1%)、「仕事で疲れている」(17.4%)の順に多かったということです。

 調査報告書によると、男性では「仕事で疲れている」が16年に急増。「家族(肉親)のように思えるから」が増加傾向で、「面倒くさい」は減少。一方、女性では「面倒くさい」が(同様に減少傾向にはあるものの)4回連続でトップで、男性と比べ15.1ポイントもの差があるとされています。

 なお、男性の週平均労働時間とセックスレスの関係を調べたところでは、労働時間と性交渉の頻度の相関は見られない一方で、男性の場合、世帯の年間収入が1000万円以上の人でセックスレスの割合が高い傾向にあったということです。

 さて、20代から40代と言えば、人生の中でも最も心身ともに充実し、(繁殖に適した)脂の乗った安定した時期と言えるでしょう。そうした年代の人々の(遺伝子を次代に繋ごうという)生物的な意欲が「何者か」に奪われつつあるのが、現在の日本の状況と言えるのかもしれません。

 人間関係が淡白になる中で、どうすればエネルギッシュな若者が育っていくのか。

 思えば日本人が狂乱した「バブルの時代」であっても、出生率はそれほど高かったわけではありません。「時代の空気」と言ってしまえばそれまでですが、ベビーブームの到来には(おそらくは)その契機となる出来事が必要で、景気が良ければ(それで)安心して子供を産めるといったものでもないでしょう。

 やはり、このような(20~40代の)世代の人々が未来に希望を持てるようにすること、彼らが社会の主役になって人生に向きあえる環境を作ることなどが重要なカギを握っているのではないかと、(漠然とではありますが)私も改めて感じている次第です。


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