MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯864 幸せになるにはいくら必要か

2017年09月04日 | うんちく・小ネタ


 昨年9月に発表された厚生労働省の「所得再配分調査」の調査結果によれば、日本の公的年金などを除いた世帯間所得の格差が2014年に過去最大となったということです。

 1世帯あたりの平均所得は392万6000円で、前回調査(2011年)より12万1000円減少。2005年調査との比較では、実に73万2000円減少したとされています。

 また、世帯間の格差を指数で表した「ジニ係数」(格差が大きくなるほど1に近づく)は0.5704で前回よりも0.0168ポイント分格差が広がっており、調査を開始した1962年以降で最も格差が大きくなっていることが示されています。

 調査を実施した厚生労働省では、その主な原因を高齢化で所得の少ない世帯が増え、その分中間層が減少したことにあると見ています。

 一方、同省は、年金・社会保障などの所得の再配分による「改善度」は過去最高の 34.1%に及んでいるとして、こうした(世代間を中心とした)格差の拡大は実態として防止されていると説明しています。

 さて、一般に「所得」と「幸福」の間には密接な関係があると考えられています。もっとも、幸福は「比較」することによって生まれるとの指摘もあるように、周囲の人たちが皆貧しければ、「お金はないけど幸せ」と感じることもできるでしょう。

 そうした意味で「格差」の拡大は、不公平感や不満を引き起こすことで社会に「不幸」の輪を広げる(悲しい)存在と言えるかもしれません。

 6月11日の『日経ヴェリタス』Vol.68では、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が、こうした昨今の格差社会の拡大を踏まえ「幸せに必要なお金、おいくら」と題する興味深いレポートを寄せています。

 このレポートにおいて橘氏はまず、究極の「格差社会」とされるアメリカの経済格差の状況に触れています。

 アメリカの世帯数は1億6500万世帯で、下位90%の1億5000万世帯の平均所得額は360万円。それに対して上位0.01%=1万6500世帯は32億円で下位90%の900倍に及ぶということです。

 資産で見ると、下位90%の世帯の平均純資産(資産―負債)は920万円で、上位0.01%の世帯は4000億円と、その差はなんと4万倍以上に達しているとしています。

 毎年の所得が蓄積されて資産になるため、資産格差が所得格差よりもずっと大きくなるのは、当然と言えば当然と言えるかもしれません。その結果、アメリカでは、上位0.01%の超富裕層が総純資産の11.2%を占有し、下位90%の資産は全体の22.8%に過ぎないということです。

 こうした数字をもって、アメリカを格差社会の最たるものと評する向きも多い訳ですが、しかし、視点を変えればアメリカ社会の違った側面も見えてくると橘氏は指摘しています。

 例えば、所得の分布状況見ると、上位5%~10%の平均所得額は1600万円に達しており、資産分布では上位1~10%の平均純資産額は1億4000万円に上っている。さらに、上位10%と下位90%を分けるボーダーラインは所得で1300万円、資産で7200万円ということですから、アメリカでは10世帯に1世帯が、所得でも資産でもこの水準より豊かに暮らしている(ことになる)ということです。

 橘氏は、こうした「お金」の多寡は幸福感に直接影響するものの、一定額を超えるとそれ以上お金が増えても幸福感は変わらなくなることが、これまでの様々な研究でわかっているとしています。

 暑い夏の日のビールのひと口めはものすごく美味しくても、その感動はだんだん薄れていく。それと同様に、人の感情はほとんどのことに慣れるようになっているため、お金でもこの法則が通用する。これを経済学では「限界効用の逓減」と呼ぶということです。

 それでは、所得が増えても幸福感が変わらなくなる(つまり限界効用が0になる)のは、一体どのくらいの金額なのか。

 橘氏によれば、研究の結果、これはアメリカで年収7万5000ドル、日本で年収800万円とされていて、(世帯当たりの水準で概ね1500万円と)奇しくも日米でほぼ同じ額とされているということです。

 一方、資産では、金融資産(預金や株式など)が1億円を越えると幸福感が変わらなくなるという研究があるということですので、世帯収入1500万円、金融資産1億円というのが、お金のことを気にせず老後の経済的な不安もなく生活するための一つの目安と言えるかもしれません。

 そこで、(少なくとも)データからわかるのは、アメリカでは上位10%の世帯の大半が、所得でも資産でもこの水準を越えていることだと、橘氏はこのレポートで指摘しています。

 地獄と呼ばれるような「超格差社会」は、見方を変えれば国民の10世帯に1世帯(おおよそ10人に1人)が「幸福の限界値」を上回る豊かさを手に入れたユートピアでもあるということ。

 そして、そうであるが故に、そこから取り残されたひとたちの絶望がより深まるのかもしれないこのレポートを結ぶ橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。




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