MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯68 M字カーブ

2013年10月10日 | 社会・経済

 日本の女性の労働力率(就業者+失業者/年齢人口)を年齢ごとにグラフ化すると、「M字カーブ」という固有の曲線が現れることは広く知られています。

 学齢期を終えた女性が就業(もしくは求職)し、概ね25歳をピークに75%程度まで伸びた労働力率が結婚や出産年齢の到来とともに下がり始め、3039歳をボトムに概ね60%の低い水準で維持される。しかし、40歳を超えたころから労働力率は再び上昇に転じ、概ね50歳前に75%程度のピークを再び迎えるというM字型のカーブを描くというものです。

 このM字カーブは、いったん仕事に就いた女性が結婚や出産に合わせて一時的に離職することにより生じるものですが、こうした状況が社会・経済にもたらす損失は、単に女性の雇用が中断することによりその間の労働力が失われることにとどまりません。

 実際、女性の離職率が高いことによって(いわゆる「腰掛け」との認識から)企業が女性の能力開発に消極的になったり、女性に補助的な業務しか与えられなかったりという雇用現場の実態は、これまでもしばしば指摘されいるところです。企業側のこのような認識は女性のモチベーション(労働意欲)をそぐばかりでなく女性のキャリアアップの大きな障害になっていると考えられており、日本の労働者の労働生産性を低下させる原因のひとつとも言われています。

 一方、こうした女性の労働力率のM字カーブは日本(と韓国)に固有の現象であり、他の0ECD加盟国などの先進国ではほとんど見られないと言われています。 確かに、欧米各国(アメリカ、ドイツ、ノルウェーなど)における女性の労働力率をみても、30歳台から50歳前をピークとしたきれいな山型(台形)を描いています。日本人の感覚ではきわめて一般的な「仕事を辞めて子育てに専念する」というライフスタイルは、グラフを見る限り東アジアの一部の地域にのみ現れるごくローカルな慣行と見ることができそうです。

 さて、この「M字カーブ」を生み出す原因となる結婚や出産に伴う女性の退職は、男女という性差に基づく固定観念(ジェンダー)の問題としてばかりでなく、非効率な日本の労働環境(雇用慣行)を象徴する存在としてもその解消が政策的に求められています。

 男女平等を前提とする教育の成果もあって、「男は仕事、女は家庭」といった前時代的な意識は次第に薄れているとはいえ、会社の中ではいわゆる「寿退社」とか「おめでた退社」という呼び方にもまだまださほどの違和感はありません。しかし、このM字カーブと言う現象、明治の昔から日本国内に共通した現象かというとどうやらそういうことでもなさそうなのです。

 実は、子育て期における女性の非労働力化は日本全体の傾向などではなく、大都市圏にのみ偏在する「地域特定型」の問題であるという指摘があります。「なぜ大都市圏の女性労働力率は低いのか」(橋本由紀・宮川修子(経済産業研究所)2005年)における(M字カーブのボトムラインを形成する)25~44>歳既婚女性の労働力率を都道府県別に比較したグラフが手元にあるのですが、確かに1位の山形県から18位の岐阜県までそれぞれ60%を超えており、世界的に見ても有意に低いということはありません。特に上位の①山形県、②島根県、③富山県、④福井県、⑤新潟県、⑥鳥取県、⑦秋田県、⑧石川県などの日本海に面した各県における労働力率はそれぞれ概ね70%台の高水準を保っており、これらの県の女性の労働力率は、M字カーブというよりは欧米各国と同様のほぼ美しい台形を保っていることがわかります。

 一方、下位の都府県を見てみると、47位、46位の大阪府、奈良県における労働力率は45%、45位の神奈川県は46%、44位の東京都では47%、以下、兵庫県、千葉県、埼玉県と40%台が続き、大都市圏に位置する都府県では女性の労働力率は地方圏と比較して極めて低い水準にあることが明確に示されています。

 これらの大都市圏では20歳代前半の独身者の労働力率が高いことから、M字のくぼみはより明確に、くっきりと表れることになります。さらに、こうした大都市圏の都府県は地方圏よりも圧倒的に多数の若年人口を抱えていることから、大都市圏の女性たちが日本全体の傾向を形づくり、あたかも日本全国の傾向であるかのように見せてしまっているということのようです。

 財務総合政策研究所の宇南山卓氏は、結婚による離職率は都道府県ごとに大きく異なりその格差は25年以上変化していないこと、そして離職率が高い都道府県ほど晩婚化、非婚化傾向が強いことを指摘しています(日経新聞10/8「雇用を考える」)。

こうしたデータは、大変残念なことに結婚年齢にある大都市圏の女性達が、四半世紀にわたり社会から「結婚か離職か」という二者択一を迫られる(結婚・出産・子育てと仕事を両立させることが難しい)状況に置かれ続けてきているという現実を、改めて私たちに思い起こさせます。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿