今日の視点 (伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のファイリングサイトにようこそ。

♯713 介護報酬見直しの視点

2017年01月25日 | 社会・経済


 安倍晋三首相は11月10日、首相官邸で開かれた「未来投資会議」において、介護保険制度について、介護を必要とする人の自立支援を中心にした制度へ転換を進めると表明したと新聞各紙が報じています。

 「未来投資会議」は、政府内で新たな成長戦略の検討を進めるため安倍総理を中心に官房長官など関係閣僚により構成され、「未来への投資」に向け官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔と位置付けられています。

 会議において安倍総理は、「介護保険にパラダイムシフトを起こす。介護が要らない状態までの回復を目指す」と述べたと記事は伝えています。こうした官邸の意を受け、今後、厚生労働省など関係省庁で具体策が検討される見込みです。

 高齢化の進展による社会保障費の膨張に直面し、政府は介護保険制度の上で「自立支援」にインセンティブを与えることにより重度の要介護者を減らし、長期的な介護費の抑制につなげたい考えです。

 具体策としては、2018年度の介護報酬改定で要介護度を改善させた事業所の報酬を引き上げたり、18年度以降には、自立支援や回復に後ろ向きな事業所の報酬を減らすこともなども検討するとしています。

 また、介護報酬にメリハリを利かせるため、来秋までに「自立支援」と位置づける介護の内容を整理し直し、介護関係の資格の教育課程にも自立支援強化に向けた政策を反映させるということです。

 一方、政府が示したこのような介護保険制度の見直しの方向性に関して、11月15日の毎日新聞は「介護報酬 成果主義は似合わない」と題する論評(社説)を掲載し、これに(ある意味真っ向から)異を唱えています。

 高齢者の要介護度を改善状況に応じて介護報酬を引き上げたり引き下げたりする、(いわば)介護保険制度への「成果主義」の導入について、この論評では(政府の意図どおりに成果が上がるような)制度設計はそう簡単ではないだろうとしています。

 自立できそうな高齢者は事業所から歓迎され、自立が難しそうな人は敬遠されることになりはしないか。どんなに自立支援に励んでも、加齢に伴って心身が衰えていくこと自体は避けられない。人生の最晩年にまで自立を求められる高齢者の心情を思うと、成果主義の導入は慎重に考えざるを得ないという指摘です。

 しかしながら、(心情の問題はともかくとして)政府も指摘するように、確かにに現在の介護報酬のあり方には制度上の問題がある様な気もします。

 要介護度の高い人ほどサービス提供事業所への報酬は多く、要介護度が低くなると報酬が下がる。これでは、要介護度の高い人をベッドに寝かせきりにしている施設が高い報酬を得る一方で、質の高いサービスで要介護度を改善させた事業所は報酬が少なくなるということになってしまいます。

 毎日新聞の論評も、確かにそういう観点に立ては、介護サービスによって高齢者の心身がどう変わったかという「結果」で報酬を決めること自体は(決して)間違っていないと説明しています。しかしその一方で、改善の成果が介護サービスによるものか、高齢者本人や家族の努力によるものかはそう簡単にわからないということです。

 この論評によれば、このため現行制度では、利用者の要介護度とともに事業所の職員配置や有資格者の数などに基づき報酬額を算定する方式を採用し、客観的な数値を基準にすることで報酬体系の公平性を担保しているということです。

 こうした基準に加えて、最近では障害者や幼児の福祉と一体的に高齢者の介護サービスを提供し、要介護度の改善に成果を上げている事業所なども増えてきた。また、そうした取り組みに独自の加算を付けている自治体もあるということです。

 毎日新聞の論評では、(制度の見直しに当たっては)このような福祉現場での多様な試みを支援し、その結果として要介護度の改善につなげていくことが大切な視点となると主張しています。個々の高齢者や事業所の状況を把握しやすい立場にある自治体の取り組みが反映できるような、柔軟な制度設計に期待したいという指摘です。

 そう考えれば、政府が介護保険の報酬体系において全国一律に「成果」を反映させようとしても、それはやはり容易でない道のりになるだろうというのがこの問題に対する同紙の認識です。

 介護費抑制のために「成果」を求め、結果的に自立困難な高齢者が取り残されるのであればそれは本末転倒と言わざるを得ない。介護報酬制度の見直しに当たっては、(あくまで)介護を受ける高齢者の立場に立った慎重な制度設計を求めたいと結ぶ今回の(毎日新聞の)論評を、私も改めて興味深く読んだところです。

『社会』 ジャンルのランキング
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ♯712 豊洲市場問題の後始末  | トップ | ♯714 都心回帰とベッドタウン... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。