MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯791 「卸売市場」のお勉強

2017年05月10日 | 社会・経済


 建て替え問題から最近何かと話題に上ることの多い「築地市場」は、東京都中央区築地に1935年に開設された公設(設置者:東京都)の「中央卸売市場」です。

 江戸時代から東京の食品流通を担ってきた日本橋魚河岸をはじめとする市場群が1923年の関東大震災で壊滅したことを受け、隅田川や汐留駅といった水運、陸運に恵まれていた旧外国人居留地を海軍省から借り受けて、東京市(当時)が魚市場を開設したのが始まりだということです。

 ここで言う「中央卸売市場」とは、卸売市場のうち卸売市場法に基いて農林水産大臣が認可・監督をする、都道府県や人口20万人以上の市(またはこれらが加入する一部事務組合など)が開設する比較的大規模な卸売市場で、北は北海道から南は沖縄まで全国に64市場が設置されています。

 なお、同法に基づいて都道府県知事が認可・監督する市場もあって、こちらは「地方卸売市場」と呼ばれ、民間(企業や組合など)開設のものも含め全国に多数存在しています。

 築地市場は東京都内に11か所ある東京都中央卸売市場のひとつで、取引規模は「世界最大」と言われています。

 23haに及ぶ敷地の中では7つの卸売業者と約1000(うち水産約820)の仲卸業者によって通年せりが行われており、年間の取扱数量及び取扱金額(2014年実績)は、水産物では452,415トン、4350億2300万円、青果物では292,462トン、863億6200万円。1日当たりでも、水産物で16億1100万円、青果物で3億2300万円もの取引が行われています。

 また、都内には平成元年に整備された主に青果を扱う大田市場もあって、こちらは40haと面積で言えば世界一となるようです。

 さて、日本国内には中央・地方合わせて1156の卸売市場があり、私たちの日々の食卓に欠かすことのできない生鮮食料品等を国民に円滑かつ安定的に供給するための基幹的なインフラとしての役割を担っています。実際、青果の6割程度(国産に限れば9割程度)、水産物の5割強がこうした卸売市場のどこかを経由して流通しているということです。

 しかしその一方で、一口に「卸売市場」と言っても、(市場関係者以外の)一般の消費者には、なかなかイメージがわかないのも事実でしょう。

 おさらいをしますと、卸売市場では、農協や漁協、個人、企業などの出荷者からそれぞれ持ち込まれた集荷物を、全国に1459社ある卸売業者がいったん引き受けて競りにかけるなどし、仲卸業者などの買受人に売り払います。商品を競り落とした仲卸業者は(小分け、梱包などを行ったうえで)製造業者や小売業者、外食業者などに販売し、最終的にはそこから消費者の手元に届くという仕組みです。

 一般的に、こうした役割を担う卸売市場には4つの機能があると言われています。

 第1に「集荷(品揃え)」機能です。全国各地から多種・大量の物品を集荷し、荷捌きをし、選別することなどによって、実需者のニーズに応じ(それぞれが必要とするな品目、量、質へと)分荷する機能です。

 第2に「価格形成機能」です。競りなどによって、需給を反映した公正で透明性の高い価格形成を行うというものです。

 第3に「代金決済機能」が挙げられます。市場を通すことによって、販売代金の出荷者への、信頼性の高い迅速・確実な決済が可能になるということです。

 そして第4、最後の機能が「情報受発信機能」というものです。需給を反映した公正で透明性の高い価格形成需給に係る情報を収集し、川上・川下それぞれに伝達するという機能を指しています。

 そうした様々な機能を持つ卸売市場ですが、その一方で、(社会の変化などに伴って)最近ではいくつかの(大きな)課題を抱えるようにもなっているようです。

 まず、食料品の市場経由率が、加工品など卸売市場を経由することが少ない(言い換えれば、加工者と小売業者の直接取引が多い)物品の流通割合の増加等により、総じて低下傾向で推移しているこということです。

 特に、食料消費・小売形態の変化や消費者ニーズの多様化に伴って、量販店や食品加工業者等からは、単に青果物や水産物を収穫又は水揚げした状態のまま販売するのではなく、カット加工や小分け包装など一歩進んだ加工処理に対するニーズも高まっています。また、地場野菜や地魚、顔の見える商品や規格外品等の多様な品揃えなどの新しいニーズに対する対応についても、卸売市場は遅れを取りがちだということです。

 さらに、青果などの生鮮食品でも大手スーパーなどの量販店では契約農家との間で直接取引を行ったり、自社農場で生産を行ったりするようなケースも増えており、(特に小規模な卸売市場では)固有の機能が発揮しづらくなっているのが現状のようです

 こうした状況は、市場に(質・量ともに)思うように集荷が進まないという状況を生み、品質が均一な荷をコンスタントに求める小売業者との間でミスマッチが顕在化することが多くなっているということです。

 また、価格面でも、直接取引に慣れた出荷者や集荷者は卸売業者や仲卸業者のマージンにも神経質で、市場を経由させることによる(硬直した)のコストの存在などの課題も新たに浮き彫りになりつつあるとの話もよく耳にします。

 加えて、仲卸業などの卸売市場関係業種は新規参入が難しい部分があり、市場の機能を担う「目利き力」を有する後継者の不足なども課題の一つに浮かんでいるようです。

 消費の多様化や大規模量販店のシェア拡大などに伴う市場外流通の増加は、今後もますます加速化していくことでしょう。しかしその一方で、昨今の少子高齢化の進展などを考えれば、市中の小規模店舗や専門外食店への消費者のニーズも重要視していく必要があるのは言うまでもありません。

 小規模流通事業者の経営環境が悪化する中、そうした(市井の)人々の日常の暮らしをどう守っていくのか。

 市場関係者が相互に十分な意見交換を行いながら、(これまでの慣習の束縛から逃れ)卸売市場の機能や特徴を生かす道筋を柔軟に考えなれば立ち行かない時代が、(気が付けば)すでにそこまでやって来ているのかもしれません。




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