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♯794 振り向けばいつも逆張り

2017年05月14日 | 社会・経済


 少し前の記事になりますが、トランプ相場で大儲けする個人投資家が続出していると、3月16日の「週刊現代on line」は伝えています。トランプ政権が始動してから1ヵ月以上。この間、上がったり、下がったりの揉み合い相場の様相を呈していた日本株市場で、大儲けする投資家が続出しているということです。

 記事では、短期投資に徹することで利益を上げたという佐藤某氏を紹介しています。氏によれば、前日に値上がりした銘柄から米国で値上がりしている銘柄に似た銘柄を買い続けることでこの1ヵ月で約200万円稼いだということです。

 買った株は長く持っても3~4日で売り、基本的には一日で売買を完了させる。逆に、買ってから3~4日で値下がりした場合は、確実に損切りする。こうして、同じ銘柄を何度も売買しながら利益を積み上げた結果が(前述の)200万円だということです。

 相場に不透明感があるときほど、(このように)短期売買で稼ぐのは投資プロたちの間ではよく知られた「鉄則」で、佐藤氏はそれを忠実に実行したことで短期間に大きな利益を手にしたと記事は指摘しています。

 また、個人投資家の武藤某氏は、日経平均株価連動型の上場投信を何度も売買することで利益を上げたということです。値下がりした時に買って、値上がりした時に売るということを繰り返しただけで、簡単に利益を得ることができたと記事はしています。

 トランプ・ラリーと呼ばれる動きの激しい投資環境の中で益々活発化する個人投資家による市場参入ですが、もとより情報の限られた個人投資には様々なリスクが伴います。当然、個別銘柄の短期的な売り買いに関しては、(細かな値動きに対する)投機的な思惑が強くなることも仕方のないことでしょう。

 2月6日の日本経済新聞では、そうした日本の個人投資家の投資スタイルについて、「振り向けばいつも逆張り」と題する興味深い記事を掲載しています。

 国内株式売買代金の2割程度を占める個人投資家。市場の活力を高めるためにもこうした層が厚くなることが期待されているわけですが、実態を見る限り彼らの行動原理には不思議な面も多いと記事は指摘しています。

 例えば、今年の1月4日。日経平均株価は大発会として4年ぶりの上昇を見せましたが、個人の売買動向のみに注目すると結局売り越しに終わっていたということです。

 もう少し期間を広げてみても、米大統領選後の東京市場では、売買代金の7割を占める外国人投資家が9週間で2兆円余りも日本株を買い越したことが原動力となって大幅な株高がもたらされました。しかし、個人投資家に着目すればその間でさえ3兆円強を売り越していたと記事は指摘しています。

 さらに年間で見ても、2016年まで過去10年間のうち実に8年で、日経平均の上げ下げと個人の売り買いは逆方向だった。個人の多くは上げ相場で売り下げ相場で買う、いわゆる「逆張り」だったということです。

 こうした傾向に対し、記事ではネット証券「ワンタップバイ」の林和人社長が「個人を動かしているのは「安い」か「高い」かという水準感だけであり、まるで値ごろ感のある服を買うかのように株を買う」と評しています。

 一方、外国人など機関投資家は年単位の運用成績が評価につながるため、相場の流れに乗る「順張り」が多いと記事は指摘しています。

 日本の個人投資に関し、行動ファイナンスに詳しい慶応大学大学院の小幡績准教授は「相場やファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を信じていない」ことをその特徴として挙げています。日本の個人投資家には、企業価値よりも自らの相場観を信じる(「投資家」というよりも)いわゆる「相場師」が多いという指摘です。

 なぜそうなるのかと言えば、一つには、米英独の株価指数が最高値を更新するのに日本株だけ上げ下げを繰り返していることがあると記事は説明しています。

 日経平均はなおバブル期の最高値の半値にとどまっています。株高になっても「(きっと)また下がる」と不安になり、売りに走ってしまう。これは、回転売買を推奨してきた証券業者の負の遺産も残っているのかもしれないと記事はしています。

 一方、記事によれば、「値ごろ感」で売買するこのような個人の行動原理が、思わぬ副作用を産んでいるという指摘もあるようです。

 例えば、昨年末、大手運用会社アセットマネジメントOneに対し、ある金融機関が「基準価格を1万円まで下げられないか」と相談をしたということです。基準価格は運用開始時に1万円に設定され、高いほど好成績。従って、高ければ高いほど買いが入るはずなのですが、日本の個人投資家には2万円の投信では割高感が嫌われ、かえって売れにくくなるのだそうです。

 記事は、こうした状況が、結果的に割安に見える新規投信の乱立を招き、さらに株高になればすぐに「売り」に出されるため、短期志向もより強くしていると説明しています。実際、ニッセイ基礎研究所によれば、2015年度の個人の株式平均保有期間はわずかに3.9カ月。直近のピークだった2004年度との比較でもさらに3.1カ月縮んでいるということです。

 こうして逆張り一辺倒の日本に比べ、米国の個人の投資行動は多様だと記事は指摘しています。米連邦準備理事会(FRB)の統計によると、米国では株価が上げた年に家計から株式へ資金が流入する年もあれば流出する年もあり、まちまちで、それだけ(個人の)様々な相場観と投資スタイルが混然としていることが判るということです。

 同じように利益を求めながらも、日米では「投資」という行為そのものに対する感覚がずいぶんと違っているのかもしれません。

 余剰金のマネーゲームとして、また資金の「運用」として(その場の状況に反応し)同じ方向に向かいがちな日本の個人にも、もっと多様な投資スタイルが広がってもよさそうだと結ぶこの記事を読んで、日本の「投資文化」の現状と資本主義社会における投資家の役割や責任というものに、私も改めて思いを馳せたところです。

ジャンル:
経済
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