今年に入り中国では、これまではあまりポピュラーではなかった「生態文明」という言葉が(北京を中心に)俄かに流行語のように語られるようになっていると、9月24日の「The huffington post(日本版)」は伝えています。
ソウルにある慶熙大学教授のエマニュエル・パストリッチ氏によれば、昨年9月に中国国务院が「生態文明体制快活総体法案」を公表し、産業政策だけではなく、思想と理念、社会の原理と目標として「生態(=環境)」を重視する方針を示したことから、中国の官僚たちは突如として環境問題について真剣に考えるようになったということです。
もちろん中国は依然として多くの石炭を燃やしているが、最近の勢いをみれば変化の速度は速い。日本では、経済に対する「環境」の再定義の動きはまったく見えない状態にある中、習近平主席は「青い水と緑の山はまさに金銀の山と同じ」と述べ、環境の経済的な価値の再確認を着実に進めていると記事は指摘しています。
パストリッチ氏は、10月18日に開かれる中国共産党の全国代表大会を契機にこれからの中国の発展の大きな方針が動くとして、現在、多くの(指導的立場の)中国人が緊張の度合いを高めているとしています。
既に北京市では、全てのタクシー(7万台 )をガソリン車から電気自動車に切り替えるために9兆人民元(約13億㌦)の補助金を準備している。さらに近い将来、国内の全域において電気自動車を大々的に導入するという計画も、今後の中国の新エネルギー戦略の一角にすぎないと認識されているということです。
さて、改めて説明するまでもなく、こうした変化の影響が世界に与えるインパクトは、中国市場の規模を想像すれば非常に大きいと言えるでしょう。環境対策に関する政府の強力なリードは、中国の企業に成長する大きなチャンスをもたらすことは火を見るよりも明らかです。
これからの世界市場を考えた場合、日本が(このタイミングで)そのような斬新な決断ができないことはあとで深く後悔するのではないかと、パストリッチ氏もこの記事に記しています。
日本における「経済の発展」という概念は、必要なエネルギーは(いまだ)既存の発電システムに頼り続けるという事を揺らがぬ前提として存在しているとパストリッチ氏は言います。
それに対し中国は、2020年までに新再生可能エネルギーの開発に3,600億ドルを投資することを決めており、太陽光や風力エネルギーの再生や開発の分野で世界のどこの国よりも先頭を走っています。
一方、(そうした状況を知らずに)今よりも更に性能の良い新しいスマートフォンの開発や自動車を製造すれば今後もさらに豊かになると信じている多くの日本人は、現在進行中である歴史的な変化の規模を把握できていないという厳しい指摘がそこにはあります。
パストリッチ氏は、アヘン戦争でイギリスに侵略される以前の中国の経済は、世界で最も大規模で洗練された中央集権的な行政と貿易機構を備えていたと説明しています。さらに明清時代の中国は、全国に普及させた先進的な灌漑システムを専門的に管理し合理的な長期農業政策をも推進していたということです。
氏によれば、その背景には家柄や身分に関係なく誰でも受ける事のできる公正な試験による人材の登用システムである科挙制度があり、さらに言えば、全国の知識人を政府で生かす公正な政府の構造があったということです。
ところが19世に入り、イギリス(そしてその後、フランスとドイツ)は石炭によって発生されるエネルギーを基盤とする新たな経済システムを取り入れたとパストリッチ氏は時代の動きを説明します。
石炭は、木材や肉体労働に比べて遥かに多くのエネルギー提供が可能で、これにより大量な製品を生産できる工場を稼動できるようになった。中国式のシステムは新たな経済と競うことができず、火力発電を積極的に軍事活用したアヘン戦争当時、中国やアジア諸国は全体的に屈辱感を味わうことになったということです。
しかし、さらに時代が進むと、大英帝国を導いてきた石炭を基盤とする経済も永遠には続かなかった。アメリカは20世紀初め、石炭よりはるかに効率的な化石燃料である石油を基盤とする経済インフラを迅速に構築していったと氏はしています。
1920年代のアメリカにそれを可能にさせたのは、石油を基盤とした経済を具現化するための制度の柔軟性に加え、アメリカ経済が過去のイギリスのように石炭に依存していなかったことがあるというのがパストリッチ氏の認識です。
これによりアメリカは、自動車を中心とする新たな世界経済の中心的役割を果たすことになった。世界の派遣は、ついにユーラシア大陸から(早期に石油資源の開発が進んだ)アメリカ大陸に移ったということです。
しかし、まだゲームは終わっていないと氏は言います。
中国は近年、太陽光や風力発電の分野で効率的で、かつ画期的な発展を成し遂げつつある。それらを最大限に活用して化石燃料を使用しない経済の具現を推進しつつ、また、既存の世界経済システムへの挑戦を(本気で)続けているということです。
中国が太陽光や風力エネルギーの生産技術を支配して、これを統制するようになった場合、世界経済には根本的な変化が起きるはずだとパストリッチ氏は指摘しています。
英・仏は既に、2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出している。ドイツも近年 、新再生可能エネルギーへの転換に全力を注ぎ始めている。そうした中、先行してエネルギー政策のパラダイムシフトに取り組む国々を前に、日本はどうしていくべきなのか。
19世紀、中国がそうであったように、立ち遅れた経済システムに縛られた他の国と共に墜落してしまう恐怖から目を逸らしてはいけないと、パストリッチ氏は(日本の指導者たちに)警鐘を鳴らしています。これはまた、私たちが、人々のライフスタイルの変化が必要な状況の中にいるという事への認識を促す、時代の警鐘とも言えるでしょう。
氏の指摘を待つまでもなく、今、世界が、経済・社会の基盤となるエネルギーの選択に関し、大きな変化のうねりの中にいることは恐らく間違いありません。
で、あればこそ、新たな再生可能エネルギーのパラダイム採択に必要なのは、新しい日本(の姿)を想像できる日本人であるとこの記事を結ぶ パストリッチ氏の視点を、私も改めて重く受け止めたところです。