Googleやインテル、ゴールマンサックスやナイキなどの名だたるアメリカ企業の社員研修に、マインドフルネス」と呼ばれる(一種の)瞑想法が取り入れられているそうです。
このマインドフルネスは、ビジネス界だけでなくスポーツの世界でも注目されており、欧米のいくつものオリンピックチームで導入され、成果を上げているということです。
身近なところでは、今年1月の大相撲初場所で優勝した琴奨菊関も、それまでの精神的なもろさをマインドフルネスなどのメンタルトレーニングによって克服したという話も聞きました。
有名になった「琴バウアー」もマインドフルネスの一種であり、決まった動作をすることで自分の身体に注意を集中し、ベストパフォーマンスを発揮しようとするものだそうです。
資料によると、マインドフルネスは1979年にジョン・カバット・ジン米マサチューセッツ大学名誉教授が、「禅」の修行法としての瞑想から宗教的要素を取り除き、ストレス緩和に適用したのが始まりとされています。
マインドフルネスは、日本語では「気づくこと」「注意深いこと」「意識すること」などを意味する瞑想法の一種です。
具体的には、「今ここで起きていることをきちんと感じ取る」というシンプルな方法で精神を安定させて幸福感を高め、感情のコントロール力を身に付けるというもの。精神を集中することでストレスを軽減し、免疫力の向上も期待できるということです。
今年2月29日のPRESIDENT ON LINEでは、脳科学者の茂木健一郎氏が「世界一の発想法」と題するコラムにおいて、この「マインドフルネス」を紹介しています。
「瞑想」という行動を伴うかどうかは別にして、「今、ここ」で起こっていることをきちんと感じることは、大切であると同時に案外難しいものだと茂木氏はこのレポートで評しています。
「今、ここ」で起こっていることの中には、周囲の環境はもちろん、自分自身の気持ちや向き合っている他の人の感情も含まれます。そして、そうした(自分の内外で起こっている)ことをしっかりと受け止めなければ大切な情報を見落としてしまうかもしれないし、感情に無理な圧力がかかって心のひずみが生まれるかもしれないと茂木氏は言います。
氏によれば、人間の脳が受け止める情報は、「かけ流しの温泉」のようにいつもあふれている「オーバーフロー」の状態にあって、その全てきちんと認識することは不可能だということです。
しかも、そこにさまざまな思い込みや、固定観念があると、せっかく受け止めている情報も、見落としたり、適切に評価し損なってしまう。「今、ここ」で起こっていることをできるだけフラットに拾うことは、多くの場合困難を極めると茂木氏は指摘しています。
一方、「マインドフルネス」でしばしば強調される「瞑想」は、自分の呼吸の様子に注意を向けるなどして「今、ここ」で起こっていることを感じることができるようにするための、一種のトレーニングだということです。
当然、マインドフルネスが必要とされるような状況は、(瞑想の最中などではなく)日常の様々な場面にやってきます。
家庭や職場などで、周囲の状況が「ちゃんと」見えているか。自分のことや、他人のことがわかっているか。そうした「見え方」ひとつで、「気付き」の「歩留まり」も変わり創造性も影響を受けると茂木氏はしています。
氏が指摘するように、マインドフルネスにおいて最も重要なポイントは、安易に価値を判断したり、決めつけたりしないということに尽きると考えられます。
判断をとりあえずは棚上げにしておいて、予断なくそのまま素直に状況を受け止めること。良い、悪い、正しい、間違っているといった判断とは無関係に、ありのままの現状を受け止めるマインドフルネスは、生きるうえで必要な情報を的確につかむための、一つの「コツ」のようなものと言えるかもしれません。
さて、マインドフルネスの最初のエクササイズでは、よくレーズン(干しブドウ)が使われると聞きました。
レーズンを1個つまみ、まずよく見てじっくりと観察する。次に目をつぶって香りをかぎ、鼻の奥に感じられるレーズンの匂いを十分に感じ切り、さらに口に入れて先ずは噛まずに下の上でレーズンの表面のザラザラした感触や表面の味を味わうのだそうです。
それからゆっくり一回噛み、その後ひと噛みずつ中からどんな味が中から出てくるか確認し、十分に味わい尽くしたら最後にゆっくりと飲み込んで、喉を通って食道を下りていくのを感じるのだということです。
そこには過去の後悔や興奮もなければ、未来への不安・恐怖も気持ちの高ぶりも入ってくる余地はありません。
ただ、今この瞬間にあるものをそのまま受け容れ、今この瞬間を生きているという実感を得る。そうして落ち着いた心から、日常からは浮かぶはずもない驚くような発想が(もしかしたら)生まれてくるかもしれません。