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♯679 3号被保険者という存在

2016年12月13日 | 社会・経済


 女性の自立や社会における活躍推進の話題になると必ず話題に上るのが、「103万円の壁」と呼ばれる配偶者控除の問題と、こちらは「130万円の壁」などと言われている社会保険や国民年金の3号被保険者の廃止問題です。

 配偶者控除に関しては、来年度の税制改正に向けて自民党税制調査会において具体的な議論が始められているようですが、一方の3号被保険者の問題は、社会保険制度の在り方や結果として負担増となる経済界の思惑などもあって、未だ手つかずのままと言えるかもしれません。

 年金制度についておさらいをすると、国民年金の「3号被保険者」とは、(厚生年金や共済年金に加入している)サラリーマンや公務員などの雇用労働者である2号被保険者の配偶者(20歳以上60歳未満)として、(夫や妻の)健康保険の扶養に入っている人を指す言葉です。

 全国で約932万人を数える3号被保険者は、(配偶者が2号被保険者として保険料を納めることで)自らは保険料を負担することなく基礎年金を受け取ることができ、また保険者ごと定められたルールに沿って厚生年金の給付を受けることもできる仕組みになっています。

 一方、健康保険の扶養となれない(130万円以上の所得のある)人は3号被保険者となることはできず、自ら国民保険の1号または2号被保険者となって保険料を負担する必要があります。そして、これがいわゆる「130万円の壁」と呼ばれる所以です。

 因みに、3号被保険者が受け取れる年金額は、例えば20歳から60歳まで40年間3号被保険者であった場合、平成28年度の金額で780,100円(年額)となります。これは40年間1号被保険者であった場合と同じ年金額です。

 (私の母親などもそうでしたが)3号被保険者によくある誤解は、「自分の保険料は夫が払ってくれている」というものです。

 しかし、(繰り返しになりますが)3号被保険者の保険料は配偶者が払っているのではなく、夫(もしくは妻)である2号被保険者が加入する年金保険の保険者が支払っているもので、3号被保険者は保険料の負担なく基礎年金を受け取ることができるわけです。

 さて、共稼ぎの夫婦が全体の半数を超えようという昨今では、ひと月16,260円(平成28年度)の保険料を負担することなく基礎年金を受け取れるというこの制度が、(不当な)「専業主婦優遇策」として批判の対象に挙がることも多くなりました。

 そんな折、年金制度の情報や時事的なトピックを提供しているオンライン・サイト「年金情報部」に掲載されていた、「第3号被保険者は保険料を支払っていないから不公平、は本当か?」と題する論評が目に留まったので、この機会に紹介しておきたいと思います。

 まず、3号被保険者と、1号被保険者として国民年金保険料を支払わなければならない自営業者や無職の人との比較の問題です。

 現在の制度では、例えば収入のない女性がサラリーマンの妻になれば保険料を払わなくても国民年金がもらえるのに、自営業者と結婚したら自分で保険料を負担しなければなりません。「これで公平と言えるのか」という議論はもちろん生まれてくることでしょう。

 見方はいろいろあるかもしれませんが、これは、1号被保険者が支払った保険料が3号被保険者の給付に回されることはないということにより説明できる(公平性は担保できる)と、この論評では整理をされています。

 国民年金1号被保険者の保険料は定額で、一方の厚生年金の保険料は報酬額に応じて変わります。このため、一般に厚生年金の被保険者の方が国民年金の1号被保険者よりも全体として多額の(財源となる)保険料を負担している計算になりますが、もちろん負担は違っても保険料納付済期間が同じならば受給できる年金額は変わりません。

 これは言い換えれば、(現実には)1号被保険者の基礎年金給付に対し、厚生年金の(2号被保険者が支払う)保険料から補填してもらっているということになり、1号保険者が3号保険者の給付のための費用を負担していない以上、両者の間に不公平があるとは言えないという考え方です。

 また、基礎年金給付の2分の1は税金で賄われていますが、この条件は1号も3号も変わらないという指摘もあります。

 次に、2号被保険者との比較ではどうでしょうか。

 3号被保険者の保険料を(それでは)誰が負担しているのかといえば、2号被保険者、つまりサラリーマンやOLなどの会社員が給料の中から負担していることは間違いありません。従って、不公平だと物申すことができる人がいるとすれば、それは2号被保険者自身ということになるだろうとこの論評は指摘しています。

 ただし一口に2号被保険者といっても、そこには様々な人がいるのも事実です。例えば、新卒で働きだして数年の間はほとんどの人は独身で、サラリーマン、OLとして厚生年金の保険料を支払い、その一部が3号被保険者の保険料に回されると記事は説明しています。

 しかし、彼ら彼女らが将来結婚し、扶養家族としての配偶者を持ったり、自ら3号被保険者になったりすることで、(多くの場合)この制度の恩恵に預かることになるということです。 特に、被扶養配偶者のいる既婚者は、一定年齢を迎えれば3号被保険者である妻に(保険料を直接支払わなくても)年金が支給されるので、3号被保険者制度の恩恵を直接受けることができることになります。

 一方、社会の変化によって拡大しつつある3号被保険者に関するいくつかの問題点を、併せて記事は指摘しています。

 そのひとつは、生涯独身者の増加の問題です。結婚に対する意識の変化などにより増加を続ける生涯独身者は、生涯にわたり3号被保険者の保険料を負担するだけで恩恵はないので、多くの人は不公平と感じるのではないかと記事はしています。

 この問題に対し、記事は、日本の年金制度は世代間扶養の考えに基づく賦課方式であり、自分が老後に受取る年金はその時の現役世代の働きによるもの。つまり3号被保険者いる家庭が(苦労して)育てた子どもが現役世代になったときに納める保険料が自分の年金になることを考えれば、多少の負担は止むを得ないのではないかとしていますが、そうした冷静な議論に得心できる人は少ないかもしれません。

 また、現代の社会では主流となりつつある、子育てをしながら(夫婦または一人で)2号被保険者として働き続ける人は、さらに不公平感を募らせているのではないかと記事は指摘しています。

 子育てをしながら働くことは大変なことで、特に何らかの事情でシングルマザーとなって会社で働いている人などはなおさら強く疑問を感じるのではないか。3号被保険者としての恩恵を受けられないばかりか、厚生年金の被保険者として他人である3号被保険者の保険料まで負担しなければならないのは余りに理不尽ではないかということです。

 そしてこの問題は、生涯にわたって子供を設けない専業主婦が3号保険者として年金を受給することへの議論にも拡大されると記事は続けます。

 子をもうける、もうけないの選択はもちろん個人の自由であり、様々な事情によって子供がほしくても持てない人が大勢いることは分かっていても、子育ての負担がない専業主婦の保険料まで一律に免除するという制度の在り方に違和感を覚えるのも理解できるということです。

 さて、こうして見てくると、いずれにしても3号被保険者が、夫は会社で馬車馬のように働き妻は母親として家庭を守り子育てに専念するといった、高度成長期の生活モデルに根差した制度であることは恐らく間違いありません。

 一方、独身者の増加や若いカップルの共働きが「普通」になりつつある日本の現状を考えれば、公平や平等といった観点はもちろんですが、子育てをしながら仕事を続ける女性が不公平感を感じないような、女性のさらなる社会参加を促すための制度的な支援を行う必要を、改めて感じるところです。


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