MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯934 子どもの肥満

2017年12月04日 | 社会・経済


 世界肥満連盟が定めた「世界肥満デー」にあたる10月11日に合わせ、世界保健機関(WHO)は2016年に世界で肥満の子供(5~19歳)が推定1億2400万人に達しているとの調査結果を発表しました。

 調査は、WHOと英インペリアル・カレッジ・ロンドンの共同研究として行われたもので、体重と身長から算出する体格指数(BMI)を用い、200カ国・地域の子供たちのデータを比較・分析しています。

 その結果、1975年には肥満の子供は約1100万人で割合も1%未満だったものが、2016年には約1億2400万人と10倍以上になり、割合としては女子で約6%、男子で約8%が「肥満」のカテゴリーに入る水準だったということです。

 また、さらに2億1千万人の子供は肥満ではないものの太り気味に区分されるということであり、糖尿病やがんなどの(いわゆる成人病の)リスクが世界的に高まっていると報告書は警告しています。

 地域別に見ると、太平洋島諸国で肥満の割合が特に高く、ナウルとクック諸島ではそれぞれ女の子と男の子の30%以上が肥満となっている。中国や中東諸国でも増加が目立っており、米国でも依然高い水準が続いているということです。

 報告書は、この傾向がこのまま続くと2022年には世界の肥満児童・青少年は中度・重度の低体重者の数を上回るだろうと予想しており、砂糖を多く含む清涼飲料水や加工食品などの取り過ぎが原因だと指摘。各国政府に子供を不健康な食事から守る対策を呼び掛けています。

 しかしその一方で、報告書によれば、痩せ気味と痩せすぎの子供も発展途上国を中心に計1億9200万人存在するとされ、特にインドでは深刻な状況にあるということです。

 こうした状況について報告書は、新鮮な野菜や果物の摂取が重要と指摘。WHOの担当者は「貧しい地域では健康な食事が手に入らないのが現実。学校や家庭での配食や、消費を減らすための清涼飲料水への課税を検討すべきだ」としていると報じられています。

 さて、そうした中、日本の子供たちの状況はどうかと言えば、文部科学省の調査(学校保健統計調査)によると、我が国でもここ30年の間、肥満傾向のこどもは2~3倍に増えており、9~17歳の男の子の10人に1人は肥満に該当するとの数字が出ています。

 特に、男子では15歳で13.5%、女の子では12歳で9.8%と最も高い肥満出現率が示されており、「太りぎみ」まで含めれば男子の22.6%、女子の25.4%が該当すると考えられています。

 その原因は様々に想定できますが、例えば子どもたちの生活リズムを見ると(日本小児保健協会「幼児健康度調査」)、「22時以降に就寝する」こどもの割合は1歳6ヵ月児で55%、2歳児で59%、3歳児で52%といずれも半数を超えており、10年前(それぞれ25%、29%、22%)と比べ2倍以上に増加するなど、夜型傾向が強まっているのがわかります。

 また食生活でも、夕食を19時以降に食べる小中学生が46.2%と、12年前の36.2%から10%増。うち20時以降に食べるこどもは7.1%で、12年前(1.7%)に比べ5.4%増加しているということです。

 さらに、朝食欠食児童は、7~14歳までの男の子では6.5%、15~19歳になると18.4%、20代になると30%と年齢とともに上昇していることからも、親たちの世代に比べ、子供たちの食習慣が大きく変化していることが判ります。

 経済協力開発機構(OECD)が今年の5月に発表した肥満率に関するデータによれば、OECD地域全体では大人の実に2人に1人以上、子どものおよそ6人に1人が太り過ぎ[体格指数(BMI)≧25㎏/m2]または肥満(BMI≧30㎏/m2)で、15歳以上のおよそ5人に1人が肥満状態にあるとされています。

  因みに、15歳以上の成人の状況を国別に見ると、米国の肥満率は38.2%で世界で最も高く、次いでメキシコの32.4%、ニュージーランドの30.7%、ハンガリーの30%、オーストラリアの27.9%と続き、ヨーロッパ各国のほとんどが20%超という結果となっています。

 一方、成人の肥満率が最も低かったのは日本でわずかに3.7%。次いでインドの5%、韓国の5.3%、インドネシアの5.7%、中国の7%と続いています。

 さて、肥満は糖尿病や肝臓がんをはじめとする各種のがん、動脈硬化などによる虚血性疾患などの多くの生活習慣病の危険因子となることがエビデンスとして立証されており、先進諸国では病気の主要原因が肥満によるものと考えられています。

 特に、子供の肥満は、循環器系に負担を与えたり代謝機能を抑制したりするばかりでなく運動習慣を妨げたり精神的にもコンプレックスやストレスの原因になるなど、成長への影響が強く懸念されるところでもあります。

 子どもの肥満が(世界中で)増加している原因としては、当然、子供の生活習慣の乱れや高脂質、高カロリーなジャンクフードへの依存などが考えられますが、当然その背景にある「貧困」や「ネグレクト」などの家庭の問題から目を背けるわけにはいきません。

 世界的に見て、日本人の肥満度はまだまだ低いとは言うものの、子どもに視点を当てれば、その割合が急激に増えつつあるのはどうやら事実のようです。

 子どもの健康は社会の健全さを映す鏡であり、社会のひずみがもたらす影響が相対的な弱者である子供に向かうのは、それはそれで当然と言えるかもしれません。

 「子供の肥満」に関しては、そうした視点から社会全般の問題として捉えることが必要であると、私も今回の報告から改めて感じたところです。