藍のともしび

詩・ポエム☆水月 りら

待ち人

2011-09-29 | 
バスを待っている。いつものようにバスは遅れてくる。
それでも、一度もあやまらない。そんなバスを待っていた。

列車を待っている。ほぼ時刻通りに到着する。遅れるときは
「何分遅れです」とていねいに連絡があるわりには、レールが
破損するとパニックに陥り、到着しない。そんな列車を待っていた。

めんどうだから車を運転する。自ら向かう方角に道は渋滞する。
居座る赤信号とあっという間の青信号に追いたてられ目的地を
見失ってしまいそう。

いじわるな交差点で右と左をまちがえて袋小路につきあたり、
待っている人を待たせたまま冷や汗をかいているうちに、
待ち人は待ち人であることを止めてしまうだろうか。

たちどまる朝もあるきだす午後も今日は笑って明日は泣いたとしても、
乗り物を待っているのではなく、待ち受けているものに向かうために待っている。

たとえ逢えなくても待ち続けていると、記憶の風が吹きぬける。
時を待ちながら時に待たれているよと、よみ人知らずの歌が風に答えていた。
終点は眠れる夢のあなただから。そこから先の行く宛ては、誰も知らないところ。

いつのまにか、バス停のベンチになっている。
アスファルトに舞い立つ砂埃に咳こんで、
見知らぬ顔の過ぎゆく人に声もかけられず。
たまに落ちてくる鳥の糞を「運」に塗り変える。
くたびれたら命を洗濯して、バスを待つものを待ちわびていた。

あなたのまどろみがこしかける瞬間を
からっぽにして