乃南アサ女史の音道貴子刑事シリーズ第1作目。
直木賞受賞作品。
音道刑事シリーズは『鎖』から入っちゃいました。
といいますか・・・
乃南作品そのものを『鎖』から入っちゃったんですけどね。
音道刑事のデビューが本書の『凍える牙』なんですけどね。
「野獣との対決の時が近づいてきた・・・」
表紙裏のあらすじにこんな怖いこと書いてます。
びびっちゃってびびちゃって。
いつまでたっても手が出ませんでいた。
でも買いました。買ってよかった。読んでよかった。
動物とはフレンドリーな関係をいつまでたっても築けない。
特に犬嫌いのこのわたくしが『疾風』という名のオオカミ犬に涙・・・。
いや、だからといって
今後の自分の人生で動物との関係がどうのこうのとはなりませんが。
哀しい凶器・・・
『疾風』の圧倒的なその存在感。
飼主への忠誠心。
自分の使命とその役割。
その生き様と潔い覚悟に美しさを感じてしまった。
なんて愚かなんでしょうね。人間は・・・
なんて往生際が悪いんでしょうね。人間は・・・
それを思い知らされたりもした。
しょっぱなから深夜のファミレスで男が燃え上がる。
その現場のビルが大火災となる。
その男は発火装置を仕掛けられていた。
そして新しい傷の跡が大腿部と足首に残っていた。
それは何らかの獣にかまれた傷だった。
捜査にあたるのが女刑事の音道刑事。
彼女とコンビを組むのが中年刑事の滝沢刑事。
初顔合わせ。どちらもやりにくそうだ。
難航する捜査・・・
やがて同じ獣による咬殺事件が続発する。
しょっぱなから黒焦げ死体。
かなり衝撃的な事件でおはなしが始まります。
そして野獣にかみ殺される人間。
異様な事件そのものにもめっちゃびびる。
凍える夜に忍び寄る牙をむき出しにした獣を想像してしまう。
オオカミの遠吠えが聞こえたような錯覚にすら襲われる。
それほど3月に入った今も夜は凍える。わたしはびびる。
ただ残念なことにこれほどまでの事件でありながら
いまひとつ犯人像とかその動機が地味すぎたのが少し物足りない。
だからと言って面白くなかったわけではない。
やはり、さすがは乃南さんだ。読ませる。
音道刑事と滝沢刑事のコンビ。
牽制しながらも無理に自分を抑えてちゃてる。
滝沢刑事はこんなもんじゃないんですか。
いや。まだやりやすいオヤジですよ。
面倒なだけで、ただ戸惑っているだけでそこには悪意もない。
ベテラン刑事には自分のリズムってのもあるんじゃないですか。
音道刑事が女であることを少し意識しすぎなのではありませんか。
男の目線だけで女を見る。女の目線だけで男を見る。
お互い不器用なだけ。似たもの同志なのよねきっと。
なんか音道刑事がうらやましい。
警察という男社会での立場。
私生活でもかなり辛いこともある。
それでも事件は待ってはくれない。
女性刑事の孤独な闘い・・・
その孤独感と息苦しさが
千載一遇のチャンス・・・
ひとつの目的を達成する者たちが走る凍てつく深夜の高速。
連帯感とともに流れてゆく熱いほどの爽快感。
わたくしも『疾風』とともに深夜の高速道路を走りました。
わたくし、自転車にしか乗れませんが・・・
あの一体感が自分自身のどこからあふれてきたのかもう夢中でした。
無線のやり取りでさえ熱くなりましたからね。
相棒を褒められたときの素っ気なさ。
それがまたたまりませんでしたよ。滝沢刑事さん。
事件解決後、音道刑事と滝沢刑事のコンビは解消しました。
不器用なふたりらしくすんなりまともな会話を交わすことなく・・・
曖昧な余韻を残して・・・
だけど確かな信頼感を手に入れたような音道刑事。
だからと言って二度と組みたくもないとも思う音道刑事。
彼女の孤独な闘いはまだまだ続くのだろう・・・
相棒。犯人。オオカミ犬。
それぞれの出逢い。皮肉なめぐり合わせ。
「違う形で出逢えたら、よかったな。」(本文より)
滝沢刑事さん。だからこそ貴方のその言葉が重かった。