後宮物語<10>

2017-08-13 | ss(後宮物語)
※原作の設定を大きく逸脱した部分を含むお話です。苦手な方は閲覧ご注意ください。





「ダメかな、教えてもらったら。名前」

再度、聞かれ、あたしは頭をフル回転させた。

ここで適当な名前を言うのは簡単だけど、自分の本名を教えてくれた人に、ウソは付きたくない気がする。

どうしよう····

足元にある、月明かりが作った右近少将の影を見ながら考える。

一応、身元を隠して後宮に潜り込んでるわけだし、父さまには誰にも言わないようにと、重々言い含められてもいる。

でも、世間的にあたしは「三条の姫」とか「内大臣家の総領姫」なんて呼ばれてるから、今ここで「瑠璃」と名乗ったところで大して問題はないような気もする。

それで、あたしとバレるわけないんだし。

少し考え、あたしは決断した。

よし、名前、言っちゃおう。

「瑠璃って言うの」

顔を上げ言うと、右近少将は

「瑠璃、か」

と嬉しそうに頷き、その後もあたしの顔を見ながら「瑠璃、瑠璃···」と何度か繰り返した。

瑠璃、と呼び捨てにされドキドキしてしまう。

「うん、撫子よりよほどしっくり来る。これからは瑠璃さんって呼んでもいいかな」

「もちろん、いいわよ」

澄まして答えながら、どこかで失望したりしてる。

なーんだ、呼び捨てじゃないんだ、とか。

「瑠璃さんはぼくを何て呼んでくれる?」

「え」

「高彬の少将なんてどうかな。右近少将はただの役職名だから。せめてさ」

確かにあたしが「瑠璃さん」と呼ばれてるのに「右近少将」じゃおかしいかも·····

「わかったわ。右近の···、あ、えーと、高彬の少将がそれで良いのなら」

「もちろん。じゃあ、近衛府に向かおうか」

また歩きだし、ほどなくすると右近衛府の前に着いた。

近衛府の殿舍は暗闇の中、黒々とシルエットだけを浮かび上がらせている。

「大丈夫なの?あたしが入っても」

「この時間ならね」  

高彬の少将は中に入って行き、少し迷ったけど、あたしも続いた。

書類の積み上げられた部屋があったり、文机がたくさん並べられたりしてる部屋があったりで、いかにも「ザ·男の仕事場」と言う感じがする。

「高彬の少将は、普段、ここで仕事をしてるのねぇ···。大丈夫?何か困ったことない?」

ついつい弟の融に言うような気持ちで言ってしまうと、高彬の少将は、びっくりしたような顔であたしを見てきた。

「え、何?」

あたし、何か変なこと言ったかしら?

「いや、何か、そんなこと聞かれたの初めてだったから。皆、近衛府と聞くと、順調な出世コースで羨ましい限りだ、とか、そんなことばかり言うから」

「ふぅん。そうなの···」

そう言う高彬の少将はどこか淋しげで、あたしは言葉を濁した。

花形公達とか騒がれても、本人にしか分からない苦労があるのかも知れないわねぇ。

「えーとね、高彬の少将。何か困った事や嫌な事があったら、あたしで良かったら聞くわよ」

少しでも元気付けたくてそう言うと、高彬の少将はまたしても驚いた顔であたしを見て、でも少しすると

「ありがとう」

とはにかむ様な笑顔を浮かべた。

殿舍を出て、2人並んで歩いていると

「今度···」

前を向いたまま、高彬の少将が口を開いた。

「文を送っても良いかな」

「もちろんいいわよ。でも、女御さまへのお言付け付けだったら、先輩女房に言ってもらった方が早い···」

「いや、姉上への用じゃなく、個人的に瑠璃さんに、さ」

「·····」

こ、個人的にあたしにって·····

『時には、貴公子から文をもらったりして』

えぇー?!

妄想が現実になるってこと───?!





<続>



妄想in奈良です。奈良、素敵過ぎます。
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