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**R.T.H**1

2016-10-29 | R.T.H
**********


「あーあ、もう、変な文ばっかり!」

そう言うと瑠璃さんは、手にしていた文をくしゃくしゃに丸めてポイと放り投げた。

投げられた文はコロコロと転がり、ぼくと融の間に止まる。

「ね、姉さん、そんなことするとまた父さまに叱られるよ。せっかくの恋文なのに・・」

隣に座る融がぎょっとしたように身を乗り出すと

「恋文が聞いて呆れるわよ」

瑠璃さんは、ふん、と鼻を鳴らした。

「父さまが言ってたよ。姉さんは文をみただけですぐに「こんな奴、あり得ない!」って決めつけるって。返歌でも書いて、そうして何度か文をやり取りしているうちに、お互いの気心も知れてくるものだって」

「あり得ないものは、有り得ないのよ。こんな奴と文のやり取りするなんて時間の無駄ってもんよ。たとえばね、・・・高彬、今、投げた文を取って」

いきなり言われ、びっくりしながらもすぐに転がっていた文を手に取ると

「広げてちょうだい」

更に瑠璃さんは続けた。

瑠璃さん宛ての恋文を開くなんて複雑な気持ちだったけど、でも、好奇心の方が強かった。

誰からの文なんだろう・・

文を広げると、隣の融も覗き込んできた。

「うわー、綺麗な手蹟!」

融が言うのも道理で、文にはかなりの達筆で恋の歌がしたためられている。

(うーむ・・・)

字が下手なぼくなんかじゃ逆立ちしたって書けないような文字で、内心、唸っていると

「なーにが綺麗な手蹟よ。そういう字を書くような男は、絶対に見栄っ張りって決まってるんだから」

瑠璃さんはそう言い切った。

「え」

図らずも融と声が重なってしまい、融は

「字でそんなこと判るわけないよ、姉さん」

と続けたのだけど、だけど、ぼくの「え」は融のそれとは違っていて、ぼくの「え」は

──どうして判ったんだろう。

だったのだ。

確かにこの文の送り主の源是能どのは、もちろんぼくよりもうんと官位は上だけど、でも、瑠璃さんの言う通り、見栄っ張りとして有名な方だ。

「字を見れば、姉さんには大体のことが判るのよ。これなんかはね・・」

瑠璃さんは以前にもらったであろう文をごみ箱から拾い上げると

「こういう字を書く男は、みみっちいに違いないのよ。字の「跳ね」にそれが表れてるわ。こっちなんかはね、これはもうかなりの乱暴者ね。ぞんざいに書いてるのがいい証拠よ」

次から次へと繰り出される瑠璃さんの講釈を聞きながら、その恋文の多さにも驚いたのだけど、でも、瑠璃さんの分析力の鋭さにぼくは舌を巻いてしまった。

どの送り主への「評価」も当たらずとも遠からずで、いや、と言うよりかはむしろドンピシャリ、だったのだ。

ぼくの顔で何を考えてるのかが判ったのか、瑠璃さんは(どう?)とでも言うように眉をあげて見せた。

「あたしはね、なーんでも判るんですからね。だから、こんなのには返歌なんかしなくっていいの。瑠璃は一生、独身を通すんだから」

勝ち誇ったように瑠璃さんは言い、最後の一言には心底がっくりと来てしまったのだけど、だけど、瑠璃さんが宮廷の公達たちをばっさばっさと切り捨てて行くサマは小気味良くもあった。

「ねぇねぇ。じゃあぼくたちの性格は?やっぱり字で判るの?」

面白がって融が聞くと、瑠璃さんは

「何か書いてご覧」

と、ぼくたちに筆を手渡した。

流れに逆らえずに渋々ながら書き、我ながらのヨタヨタ文字をヤケクソも手伝って瑠璃さんに差し出すと、長いこと黙って見ていた瑠璃さんは

「うーん、決して上手くはないけど、でも、もしこの字で文をもらったら『優しそうな人かなぁ』とは思うかも知れないわね」

「えっ。・・・じゃ、じゃあさ、瑠璃さん。もし、ぼくが文を書いたら・・・その、・・返事をくれる?」

思わず期待を込めて言うと

「うーん、どうかしらねぇ。この字みたら高彬からだって丸わかりだし。あんた、ちょくちょく遊びに来るし、いつも会ってるのに今さら文のやり取りって言うのもねぇ・・」

瑠璃さんは肩を揺らして笑い、ぼくは密かにため息をついたのだけど、だけど瑠璃さんの『優しそうな人』の言葉のお陰で、しばらく幸せな気分が続いたのだった。



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瑞月です。

『ミステリー』の中で高彬が言った「瑠璃さんはここぞと言う時の勘と、男を見る目だけはあるのだ」の言葉。

ここぞと言う時の勘はともかく、男を見る目だけはあるのだ、の部分は何だかずっと引っ掛かる言葉でした。

高彬は何を根拠にそう言い切るのかなぁ、と。

「男を見る目」って言ったって、恋人がいたわけじゃないし、それどころか独身主義者で恋愛に無縁だったはずの瑠璃を、どうして高彬は「男を見る目がある」と思ったのか・・・

そんなことをつらつら考えていて、出来たお話です。

高彬の「瑠璃さんは男を見る目だけはあるのだ」には、そこはかとない喜びや嬉しさや晴れがましさなどのニュアンスが含まれているような気がしたので、こんな感じにしてみました。

あ!今、思ったのですが、まさか融のこと?

融のことを「あの子は鈍くさいのよ」と言ったことを受けての「瑠璃さんは男を見る目だけはある」?!

いやー、だとしたら、今、私が書いたお話って一体・・(T_T)

ま、まぁ、可能性は無限にあると言う事でお許しください。

色々と考えていると、ふいに1場面が浮かんでくることがあるので、一編の話として完成してるわけではないですがこんな感じの話をこちらでは時々はアップするかも知れません。

良かったらお付き合いくださいね。

そうそう、タイトルの「R.T.H」は「瑠璃と高彬の話」って意味です。

せっかくなのでDAIGO風にしてみました!

短い話にタイトル考えるの大変なので、連番振っていくことにします。

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2 コメント

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Unknown (ベリー)
2016-11-02 23:02:02
あるある、ですね。
確かに高彬、えらい確信で、男を見る目だけはあるなどと言ってますが。
ねえねえ自分言ってることわかってる?
瑠璃が選んでくれたんだよ、君を。笑 だから自信持ちなさい!---なんて心で思ったり。
瑠璃は自由に吉野で大人たちの中で過ごし、村人、里の人の日々の事、社交も子供ながらに見てたでしょうから、京のうわべだけの付き合いが本当に合わなかったでしょうね。
その中で子供の頃から信用できる幼馴染であればこそ、やっぱり高彬を瑠璃が選んだ重要な要素だったと思いますね。出会っていて良かったね高彬。融、いや右大臣と大納言に感謝。
>>ベリーさま (瑞月)
2016-11-04 08:31:26
ベリーさん、おはようございます(*^-^*)

高彬が言った「男を見る目だけはある」って、自分のことを言ってるのかな??と思った時もあったんですよ。
だけど、どうもそういう感じでもないような気がしたんです。
確かに瑠璃は幼い時に吉野で伸び伸びと暮らしていますし、それに「おばあちゃん子」だったこともあるし、洞察力に優れているのかもしれないですよね~。
平気で村に出没してそうですし(笑)

>右大臣と大納言に感謝。

二人が行き来してなかったら、会っていなかったんですものねぇ・・

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