紫匂う花房の<7>

2017-04-23 | ss(紫匂う花房の)
※<原作8巻その後>をイメージしたお話です。ネタばれ要素を多く含みますので閲覧ご注意下さい。※



瞬きもせずにあたしを見ている鷹男の目を、静かに見返す。

鷹男に会うと決まった時から、絶対に言おうと思っていたことだった。

鷹男が帥の宮をそそのかして、あたしに気がある素振りを高彬に見せたこと、最初に藤宮さまから聞いた時から、あまりに傍若無人な振る舞いだと呆れかえってたから。

あれはね、事件とか帥の宮とかに関係なく、本当にひどい話なのよ。

高彬が愛染明王になって踏み込んで来たのは、そりゃあ直接の原因は煌姫の投げ文だし、実際、守弥はあたしの部屋にいたわけだけど、でも、遠因は鷹男が高彬の不安を煽るようなことをしたからじゃないのさ。

遠因どころか、こと、あの愛染明王に関しては、ずばり、大元と言っていいかも知れない。

もしも、あの時、高彬が持ってきた小太刀で、万が一にも守弥のことを斬っていたらどうなっていたと言うのよ。

それを、ちょっとした悪戯心って言われてもねぇ・・・

「ねぇ、鷹男。あなたは自分に似ていると分かって上で、そう仕向けたんでしょう?」

話題が話題なのでぼかして言うと、隣で藤宮さまが息を飲み気配があった。

鷹男は何も答えず、だけどそれが答えみたいなもんで、あたしは心の中でため息を吐いてしまった。

鷹男はね、自分が帝だと言う自覚がないのよ。

あるのかも知れないけど、あたしに言わせればまだまだ認識が甘いわ。

自分が最高権力者で、臣下からの敬愛の対象で、そしてどれだけ自分に影響力があるのか。

そこんところが今ひとつわかっていない。

高彬なんか身分社会の中でも特にガチガチに身分を重んじる性格だし、その中の最高権力者と言う事で鷹男の帝に心酔してるし、そこら辺のことは鷹男だって充分にわかっていたはずなのよ。

それを踏まえた上でやったことにしては、あの<悪戯>は余りに度が過ぎている。

「右近少将が何か言ったのですか」

鷹男が穏やかな声で言い

「いいえ。何にも」

あたしは大きく頭を横に振り、きっぱりと言った。

「何にも言ってないわ。高彬は鷹男のこと、相変わらず心から尊敬しているし忠誠を誓ってる。この話をしてるのは、あたしだけの判断よ」

「そうですか」

どこかホッとしたような顔で頷くと

「右近少将のことは臣下としても義弟としても、私は可愛がっているのですよ。それでつい気安さもありからかってしまう。私も帝になり、東宮時代よりさらに自由がなくなったこともあって・・・」

「つい、その矛先を高彬に向けてしまったと、そう言うわけ?」

畏れ多くもあたしは鷹男の話を遮ってしまった。

「そうですね。まぁ、これも愛情表現のひとつですよ」

「だからと言って何をしてもいいというわけではないわ」

自由がない自由がない、って言ったって、鷹男は帝と言う身分で、良い思いだってたくさんしてるはずよ。

それをデメリットだけに目を向けるなんて、そんなのは考えが幼な過ぎる。

しかもそれをタチの悪い悪戯で発散させるだなんて。

それでどれだけ高彬が思い悩んだか。

「ねぇ、鷹男。右大臣家には公子妃の他に大姫がいらっしゃったことはご存知?」

いきなりの話題の方向転換に面喰らったようだったけど、それでも鷹男は

「知っていますよ。当初はその姫が入内予定だったと聞いています」

「えぇ、そうね。その通りよ」

「それが何か」

「いいえ、何でもないわ」

首を振って、あたしは口をつぐんだ。

例えばだけど、鷹男は少しでも考えたことがあるのかしら?

どうして大姫の入内がなくなったのか、とか。

急遽、入内が決まった公子妃の胸にはどんな思いが去来したのだろう、とか。

想像力───

そう。想像力なのよ。

大人になって、人は想像力を身に付けて行く。

ああかこうかと想像すると、傍若無人に振る舞えなくなっていく。

鷹男にいくらかでも高彬の気持ちを想像する心があったなら、あんな悪戯はしなかったはずなのよ。

鷹男に欠けているのは想像力なんだと思う。

だけどね、きっと帝ってそんなこと考えてたらやっていけない商売なんだろうな、とも思う。

自分の意志に関係なくたくさんの姫君が入内してきて、大きな国家行事が進行して行って。

あの姫の気持ち、この姫の気持ち、あの臣下の気持ち、なんていちいち考えてられないのよ。

考えてたらやってられないって言うかさ。

帝って最高権力者でありながら、不自由で窮屈で、そして誰よりも孤独なんだと思う。

だけどね、誰でも生まれついたところで頑張って生きていかなきゃいけないわけで、それは鷹男だって、川で溺れかけたあたしを救ってくれた川沿いの漁師夫婦だって同じなのよ。

あの夫婦は、自由がある代わりに権力なんかなくてさ。

鷹男も漁師夫婦も、取りあえず手持ちのカード使って生きてくしかないんだし、ナイもの数え上げてたってどうしようもないんだから。

経験を積んで、人は想像力を養って、そしてその想像力が優しさに繋がっていくんだとあたしは思っている。

あたしだってまだまだこれからだし、きっと鷹男もこの先、色んな経験を通して想像力や優しさを身に付けて行けばいいのよ。

鷹男は帝だし、あたしなんかが絶対にしないような政治的な経験もするんだろうけど、でも、一番、人を成長させる経験って言ったら、やっぱり<身近な人>なんじゃないかと思う。

それは公子妃なのかも知れないし、これから入内してくるであろう他のお妃なのかも知れない。

後宮の女官って可能性もあるし、重臣たちってこともあるんだと思う。

もちろん、宮廷に関係のない人だっていいわけだけど、でも、あたしはその役どころはちょっとご免だなぁ、と言う気がする。

鷹男の御世が安泰であることも願っているし、いつの日か鷹男の心の傷が癒えればいいと思っているけど、でも、もう個人的な鷹男との交流は勘弁して欲しいって言うかさ。






~続きます。


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