瑠璃ガール<7>

2017-05-17 | ss(現代・高等科編)
※本館「現代編」設定の2人です※





高彬の背中にそっと身体を預けた次の瞬間、足が砂浜を離れ、ふわっと身体が宙に浮いていた。

肩に置いてた手に思わず力が入ってしまう。

「じゃあ歩くよ」

そう言うと高彬は歩き出し、バッグが置いてあったところまで来ると少し屈んでバッグを片手で持ち、そのまま自分の肩に掛けた。

高彬が動くたび、その動きがダイレクトに伝わってくる。

あー、汗くさかったらどうしよう。

重いだなんて思われてたらどうしよう・・

こんなことなら朝のシャワー浴びた時、とっておきのシャンプーを使えば良かった・・・

後悔先に立たずとはこのことだわ。

「バッグ、あたしが持つわ。重いでしょ」

「同じことだよ、瑠璃さん」

笑いながら言われ、すぐにおかしなことを言ったことに気が付いた。

そうよね、おんぶされてるんだもん。

あたしがバッグを持ったって、高彬の重さは変わらないんだ。

道路に出るために高彬が向きを変え、ふいに視界が変わった途端

「あっ」

と声が出てしまった。

ほんの少しの間に一段と日没が進んだのか、空一面が燃えるような夕焼けだったのだ。

水平線ぎりぎりにある雲は、溶けだしたロウソクみたいなドレープを作り、今まさに海に滴り落ちそうになっている。

高彬の肩越しに見る、高彬と同じ高さの夕焼け空───

ふいに泣き出しそうになり、高彬からはあたしの顔が見えないのをいいことに、唇を真一文字に引き結んだ。

こうでもしてないと泣きそうだった。

───変なの、あたし。何、泣きたくなってるんだろ・・・

「綺麗だね」

「・・・ん」

泣きそうなことを悟られないように、言葉は最低限にとどめ、ジェスチャーで伝わるように大きく頷いた。

目の前にある高彬の首も、耳も、髪の毛も、全部、夕焼け色に染まっている。

(高彬・・)

顔を埋めたくなってしまい、困った。

高彬が好きなの───

突然、そんなことを言ったら高彬はどうするんだろう。

困るかな?

うん、優しい高彬はきっと困るわよね。

『瑠璃さんのことは幼馴染としか思えなくて・・・』

なんて申し訳なさそうに言って、それできっと

『ぼくが誤解させるようなことでもしたのかも知れないね。ごめん』

なんて謝るに違いないのよ。

それであたしは強がって

『やぁねぇ、何、真面目に答えてるのよ。冗談よ、冗談。軽い気持ちで言っただけ』

なんて言って、でも高彬は少し困った顔して

『瑠璃さん。明日からも今まで通り、幼馴染として友だちでいてくれるよね』

『当たり前じゃない』

でも、あたしはやっぱり今まで通りには振る舞えなくて、それで、だんだん高彬を避けるようになって、それで終いにはまったく口を利かなくなって・・・

「・・・」

あたしは引き結んでいた唇を噛んだ。

そんな風になるくらいなら、あたしはこのままでいいわ。このままがいい。

幼馴染としてでいいから、高彬の近くにいたい。

「やっぱりすごい渋滞だね」

道路に出た高彬は驚いたように言い、確かにものすごい車の量だった。

どの車もライトを付け始め、ずっと先まで光の列が出来ている。

その脇を歩きながら、あたしは知らずに車の反対側に顔を背けていた。

渋滞で停まってる車内の人たちが、あたしたちを見ているような気がする・・・

「・・・」

そりゃあ、そうよね。

子どもでもないのに、通りをおんぶして歩いてるんだから。

どうしよう。

恥ずかしいかも・・

「高彬。あたし、やっぱり下りるわ」

「え、どうして」

「皆が見てるような気がするの」

「・・・」

高彬の目線が、チラッと車の方に動くような気配があり

「目を瞑って寝たふりして、顔を隠してたらいいよ」

「・・・」

「すぐ着くから」

「・・・うん」

高彬の背中に頭を凭れかけ、静かに目を閉じる。

街の喧騒と、カモメの鳴き声と、波の音が聞こえ───

そっと息を吸い込むと、高彬の匂いがした。







<続>


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