この本は。昭和33年に出版された本だが、
現代詩に興味を持った人にとっては有名な一冊だ。
戦後詩の幕開けとも思われる鮎川信夫の詩篇「死んだ男」の
Mと言われる詩人森川義信の
ビルマ現地での戦病死についてわずかに言及されているからだ。
森川がの命を奪った病は、メッカロンと呼ばれた風土病だった
ということがこの本からわかった。
著者妹尾がここで森川のことに触れているのは、
熱病で混濁した意識の中、森川は
「ジャングルはいい。おまえはここに残れ。おまえが残るなら俺も残る。」
とうわ言を言ったからだろう。
それは、不思議に、著者のその後を予言したかのような言葉だったからだ。
著者はカチン族というビルマ奥地の食人族と交流し、力を借り、
日本軍は奥地へと進軍に成功する。
その後、現地に一人残った著者は一等兵の身分のまま
しばしの現地の王にまつりあげられた。
全く奇想天外な話に思えるが、
英国、中国、インド、日本、ビルマ、とカチン族のような少数民族が
利用し利用され合う状況にあっては、
日本軍の勢力を利用してビルマからの独立を目論む種族があったとしても
何の不思議もなかったのだろう。
そして、戦況は変わり、本隊復帰の命が下り、王国は崩壊する。
調べればビルマ戦線の全体像はもっと多くのことがわかるだろうが、
この本は渦中に巻き込まれた経験から書かれているので
よくその雰囲気を伝えている。
日本軍は一時ビルマを制圧し、やがて反転攻勢に遭い、多くの戦死者を出した。
著者が生きてかの王国を脱出し、その後のビルマ戦線を生き延び、
なおこの本を書き残したと言うことは奇跡的だと思う。
著者が冷静、客観的に自身の経験と当時の状況を把握していたことは
とても不思議に思える。
なぜ、今までちゃんと読まなかったのか。
Mの死の姿を確認するだけでは、あまりにもったいない一冊だ。
また、Mがどのような戦争の中にあったのか。
つまり、どのような時代を生き、
死んだのかを考える機会にもなるだろう。
その状況は
今も根本的には変わっていない、のかもしれない。









