大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

筆界特定制度の運用―費用の問題

2013-09-27 08:50:08 | 表示に関する登記

某県の知人の調査士から筆界特定手続きのなかにおける「測量費用」の問題についての報告・相談を受けました。

彼が代理人を務めている筆界特定手続きにおいて、十分な調査・測量をおこなったうえでそれらを提供して申請しているにもかかわらず、手続きの中における「測量費用」として「50万円」を予納するように、との話があった、ということです。しかも、「測量内容」は、申請人代理人の提出した測量成果の「点検」だということであり、「手続きの過程で測量費用が必要になるのだから、代理人はあまり測量などしない方がいい」というようなことまで言われているそうです。

もしも、このような運用がおこなわれることが常態となってしまうようなことがあるとすれば、制度そのものがダメになってしまうような、そういう問題を孕むことであるように思えます。

そこで、筆界特定制度とその中における「測量費用」の問題について、少し考えてみることにしたいと思います。

まずは、一時期「はやい、安い、うまい」という牛丼のようなスローガンが筆界特定制度について使われることがあり、これにはあまり私は賛同できないのですが、「安い」=国民の費用負担の軽減については、私たち土地家屋調査士の関与を含めて、従来の手続きに比べて優位性を持っているだろうし、その運用が適切になされるべきなのだと思います。

  この点については、筆界特定制度の創設にあたっての国会付帯決議において、「筆界特定制度において申請人が負担する申請手数料及び手続費用については、筆界の有する公共性にかんがみ、国民に過大な負担を強いることのないよう、公費負担を含め、十分な検討を行うこと」とされていますし、法務局の筆界特定のリーフレット(Q4)でも、筆界特定制度の特色として、筆界特定制度を活用することにより,裁判よりも迅速にトラブルを解決することができ,費用負担も少なくてすむ、とされているのであり、運用にあたっては、このことを踏まえての運用に心掛けるべきだと思われます。<o:p></o:p>

もうすこし具体的に言うと、法務省民二第2760号平成17126日民事局長通達89(1)ウにおいては、「申請人又は関係人その他の者から測量図の提供があった場合において、現地と照合し、現況把握調査における測量結果に代わるものと認められるときその他現況を把握することが可能な図面が存在するときは、ア(現地の測量)を要しないとされています。

その解説(『平成17年 不動産登記法等の改正と筆界特定の実務』登記研究編集室編 テイハン)において、「筆界特定の申請時又はその後において、申請人又は関係人その他の者から測量図その他の図面があった場合において、これを現地と照合し、現況把握調査における測量結果に代わるものと認められるとき、(中略)現況把握調査のための測量を要しないとされている。例えば、土地家屋調査士が代理人となって筆界特定を申請する場合には、申請にあたって代理人があらかじめ対象土地について測量を行い、現況把握調査に代わる図面の作成を行うことが考えられる。とされています。

これらは、筆界特定制度を設けた趣旨から当然にでてくる運用方針であると思えますし、ごくごく常識的なあたりまえのこととさえいえるようなことだと思われます。

 

このようなことから、法務局の筆界特定のリーフレット(Q6)では、手続を迅速に進めるため,お手持ちの資料をできるだけ提出していただけると助かります、として申請人等関係者からの資料提供を促し、それらを有効に利用することによって、迅速で低負担な手続きの実施を求めているのだとおもえます。

要するに、申請人・関係人において必要な資料を提出した場合には、その事項に関して手続過程で別の費用を必要とさせないような運用を行うことが求められている、ということです。<o:p></o:p>

相談のあった件においては、代理人が測量した基準点測量成果、周囲境界標等の座標データ及び測量点の写真の提供がなされている、ということですから、、筆界特定手続の中で別途の費用(測量費用の予納の費用)を発生させないような運用が求められている、と考えるべきでしょう。 

もちろん、申請人から測量成果の提供があったからと言って、筆界調査委員や筆界特定登記官が、それを無前提に正しいものとみなすようなことをするべきだと言っているわけではありません。その点検はしっかりと行うべきです。それは、筆界調査委員なり補助職員なりのところでやればいいことです。測量能力のある筆界調査委員が選任されて事件の調査にあたっているのには、こういうことができるから、ということもあるのでしょう。

また、もしも申請人の提供したデータでは不足がある、というのであり、なおかつそれが筆界調査委員などにおいて測量するのには過大であったりして困難である、というのであれば、まずは申請人代理人に対して追加の資料提供を求めるべきです。それが不能であるところで、はじめて「測量費用」に関する問題が出てくる、と考えるべきなのだと思います。

筆界特定制度は、その創設から7年半余が経過し、これまでは相応の成果を残してきた、と言えると思います。しかし、その上での「馴れ」が「慢心」につながってしまうようでは、制度そのものの意義を疑われるようなことにもなりかねません。一つ一つの手続きの中における適正な実施、ということを、私たち土地家屋調査士も制度を支える者の一人として注意してみていく必要があるのだとあらためて思いました。