雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

文章比べ ・ 今昔物語 ( 巻24-26 )

2017-02-11 08:43:38 | 今昔物語拾い読み ・ その6
          文章比べ ・ 今昔物語 ( 巻24-26 )

今は昔、
村上天皇は文章(モンジョウ・漢詩文)をお好みになっていたが、『宮の鶯 暁に囀(サエズ)る』という題で詩をお作りになった。
 『 露濃緩語園花底 月落高歌御柳陰 』
 ( ツユコマヤカニシテハ カンゴス エンカノソコ  ツキオチテハ コウカス ギョリュウノカゲ )
 ( 暁、露しとどにして 庭の花に埋もれて 鶯がゆったりと鳴く  月が傾けば 柳の陰で 声高く歌っている )
 
天皇は、菅原の文時という文章博士をお召しになり、この歌を詠み上げさせられたが、文時も同じ題で詩を作った。
 『 西楼月落花間曲 中殿灯残竹裏声 』
 ( セイロウニ ツキオチテ ハナノアイダノキョク  チュウデンニ トモシビノコッテ タケノウラノコエ )
 ( 暁、月西楼に傾くや 鶯花の間で歌う  灯火中殿(清涼殿の別称)に残るや 竹の陰で鳴く )

天皇は、この詩をお聞きになり、「『私の詩は、この題としては抜群の出来である』と思うが、文時が作った詩もまた素晴らしいものだ」と仰せられ、文時を近くに召して、御前において、「私が作った詩を偏見なく、公平に、遠慮なく批評せよ」と仰せられた。
文時は、「御製は素晴らしいものでございます。下の句の七字は、文時の詩に勝っております」と申し上げた。
天皇はこれをお聞きになって、「まさかそのようなことはあるまい。それは世辞であろう。どうであれ、明確に申せ」と仰せられて、蔵人頭[ 欠字有り。名前が入るも未詳。]を召して、「文時が、この詩の優劣を正しく申さなければ、今後、文時が申すことは私に奏上してはならない」と仰せ下された。(蔵人頭(クロウドノトウ)は、上奏を取り次ぐ役目を担っていた。)

文時はこれを聞いて、大変困惑して、「実を申しますと、御製と文時の詩とは同等でございます」と申し上げた。
すると、天皇は、本当にそうであるならば、誓言(誓約の言葉)を立てよ」と仰せられると、文時は誓言を立てることが出来ず、「本当は、文時の詩が一段優れております」と申し上げて、逃げて行ってしまった。
天皇はこの事を誉め、たいそう感嘆なされた。
古の天皇は、文章を好まれることかくの如くであった、
となむ語り伝へたるとや。

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