雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

道長の大法会 ・ 今昔物語 ( 12 - 22 )

2017-10-06 10:36:46 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          道長の大法会 ・ 今昔物語 ( 12 - 22 )

今は昔、
後一条院の御代、関白太政大臣(藤原道長)が寛仁二年(1018年。但し、史実としては寛仁三年が正しいらしい。)という年の三月二十一日に出家されて後、四年という年の三月二十二日に建立された法成寺(ホウジョウジ)ににおいて、天皇(後一条天皇)の御祈願のために、百体の丈六の絵仏を描かせなさって、金堂の前の南面に南向きに掛け並べて供養なさったことがあった。

その中に、高さ三丈の大日如来の像を、飯室(比叡山横川あたり)の[ 欠字あり。僧の名で「延円]か?]阿闍梨に描かせて、これを中尊として掛けた。その前に長い天幕を張り、その中に入道殿(道長)を始めとして、その次に御子の関白内大臣殿(藤原頼通)、左大臣顕光(アキミツ)、右大臣公季(キンスエ)、並びに納言・参議の公卿たちが数多く着席されていた。その後ろには、殿上人がすべて着席している。
また、この天幕の左右にも長い天幕(前記の天幕とは種類が違うらしい。)を張り、衆僧の席としている。その南に、太鼓、鉦鼓(ショウゴ・雅楽に用いる打楽器の一種)をそれぞれ二つを美しく飾って置き、その南に絹屋(絹製の仮屋)を二つ造り、唐樂・高麗楽の楽屋とする。
その儀式はまことに珍しく、興味深いものであった。

やがて供養が始まる。南大門の外の左右に天幕を張って、多くの僧衆が集まっている。唐樂・高麗楽の樂人が、楽屋から南大門に出て行って僧を迎える。大勢の僧たちは、樂人を前に立てて列を作って門を入り、南大門の壇上に上って立ち、北の方向を見やると、百体の丈六の仏が掛け並べられていて、それが風に吹かれて動いている様子は、まるで生きている仏のようで貴いことこの上なかった。
[ 欠字あり。装飾具の名が入るらしいが不詳。]糸幡(イトハタ・仏道の装飾具である幡の一種。)が庭に立て並べられていて、風に吹かれて動いているのも見事なものである。また、二つの太鼓の荘[ 欠字あるも不詳。]光を放っているかのようである。
まことにこれ等は、仏の浄土と思われるほど貴いことである。

また、僧たちが見ると、天幕の中におられる入道殿の上座に、香染の僧衣を着た僧がいるので、「あれは誰だろう。仁和寺の済信(セイシン)大僧正であられるのだろう」と思って、僧たち皆が歩いて行き、しだいに近付いていくと、その人が見えなくなった。
「席をお立ちになったのか」と思って、僧たちはそれぞれ座に着いた。僧の誰の目にも同じように見えたので、前もって香炉箱を座において控えている従僧たちに、「あの天幕の中に坐っておられた香染の衣を着た僧はどなたでしょうか」と尋ねると、従僧たちは、「そのような方はいらっしゃいません」と答えた。
僧たちはこれを聞いて、「不思議な事だ」と思った。そこで僧たちは、「これは、きっと仏が姿をお変えになられたのか、あるいは、昔の弘法大師がおいでになったのか」と、僧たちは言い合った。
一人が見たことならば、見間違いということも疑われるが、大勢が同じように見ていることなので、疑う余地はない。

末世であるといっても、このような尊いことがあるのだ、と皆が言い合った。きっと、後に入道殿にお伝えしたことであろう。
不思議な事である、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆



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