雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

黒牛と成る (2) ・ 今昔物語 ( 12 - 24 )

2017-04-06 08:21:24 | 今昔物語拾い読み ・ その3
          黒牛と成る (2) ・ 今昔物語 ( 12 - 24 )

      ( (1) より続く )

このように四、五日の間、多くの上中下の人々がこぞって参りに集まってきたが、関寺の聖人の夢にこの牛がお告げして、「我はこの寺の事を勤め終わった。もはや明後日の夕方に帰ろうと思う」という。夢から覚めて泣き悲しんだ聖人は、三井寺の明尊僧都(ミョウソンソウズ)のもとに参り、この夢のことを話した。
明尊僧都は、「この寺にもそのような夢を見たと語る人がいる。有難いことである」と言って、涙ながらに尊んだ。
すると、この事を多くの人が聞き継いで、ますます参詣する人であふれた。
その当日になり、比叡山や三井寺の人が集まってきて、阿弥陀経を読む声は山を響かせた。昔の沙羅林における釈迦入滅の儀式が思い出され、悲しいこと限りなかった。ようやく夕暮れ方となってきたが、牛は露ほども悩みわずらう様子がない。この集まってきている者の中にも、不信心な者たちは、「牛は死なないままだろう」と言ってあざけっている。

やがて、ようやく暮れ方となると、伏していた牛は立ち上がって走り、堂の所に来てその周りを三度回ったが、二度目の時に、突然苦しむ様子を見せ、伏せてはまた起き上がった。二、三度そのようになりながら三度回り終わった後、牛屋に返り着いて、頭を北にして横たわり、四つの足をさし伸ばして眠るように死んでしまった。
それを見て、集まってきている多くの上中下の僧俗男女はことごとく声をあげて泣き合った。阿弥陀経を読み、念仏を唱える声がいつまでも続いた。
やがて、集まってきていた人たちが皆帰ってしまうと、牛を牛屋から少し高い所に移して土葬にした。その上に卒塔婆を立て、周りに柵を廻らした。夏の事なので、土葬だとはいえ、少しは臭いがするものだが、全くそのような臭いはしなかった。
その後、七日ごとに経文を読んで供養した。四十九日、さらには翌年のこの日に至るまで、多くの人がそれぞれに仏事を行った。

この関寺の本尊は弥勒菩薩でおわします。ところが、その仏堂はみな壊れ、本尊も朽ちてなくなってしまったので、人々は、「ここは昔の関寺の跡だ」などと言って、あるいは礎石だけを見て、そこが関寺跡と知る人もあり、知らぬ人もあるという状態であったが、横川(ヨカワ)の源信僧都が、「これを何とかもとのように再建したいものだ。尊い仏が跡形もなくなっていらっしゃるのが、本当に悲しい。特に、このように逢坂の関の向こうにおいでの仏なので、行き交う諸国の人で拝まない人はいない。『仏に向かい奉り、ほんの少しばかり頭を下げた人でさえ、必ず仏になり得る縁がある。まして、手を合わせ、一心に深い信仰心を発(オコ)して拝む人ならば、必ず来るべき弥勒出現の世に生まれ合わせるであろう』と、釈迦仏のお説きになっていることであるので、仏の教えを信じる人は、このお言葉を疑ってはならない。それゆえに、このお寺の再建は最も大切な事なのだ」と思われて、横川に[ 欠字あり。名前で「延鏡」あるいは「延慶」らしい。]という仏道心深い聖人がいたので、源信僧都はその人に相談して、浄財の寄進を募って仏を造ることになったが、ようやく仏のお姿に刻み上げられてきた時、源信僧都は亡くなってしまった。
そこで、この[ 欠字あり。前述と同じ僧名が入る。]聖人は、「亡き源信僧都のご遺言があるので、このまま捨てておくわけにはいかない」と言って、仏師好常(コウジョウ)に懇切に頼んで、仏をお造りしたのである。

堂は源信僧都の遺言のように、二階建てに造り、上の階から仏の御顔が見えるので、多くの道行く人たちは拝み奉ることが出来るのだが、堂の建築が進むにつれて、材木が思うように手に入らないようになってきた。仏に箔を押し終えることも出来ない。
すると、この牛仏(黒牛に関する逸話が伝えられていたらしい。)を拝みに来た多くの人が、みな品物を持ってきて奉納した。これらを集めて、計画通りに堂ならびに大門を完成させた。さらにその残りで僧房を造った。さらに、なお残る物がたくさんあったので、供養を行い大々的に法会を行った。
その後も、壊れる所があると、喜捨を募って修理を加えた。

およそ、この寺の仏を、諸国の行き交う人々は拝み奉らないということはないが、一度でも心をこめて拝み奉る人は、必ず弥勒菩薩がこの世に出現なさる時に生まれ合わせるという縁を、確実にすることになる。
こういうわけで、こうした功徳を人々に作らせるために、迦葉仏が牛の姿に化して人々に信心をお勧めになったことは、まことに有難く尊いことである、
となむ語り伝へたるとや。

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