雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

鉄条網 ・ 小さな小さな物語 ( 894 )

2016-10-12 09:19:30 | 小さな小さな物語 第十五部
ハンガリーを旅する番組をテレビで見ました。
中部ヨーロッパに位置するこの国は、七か国と国境を接した海のない国です。国民のほとんどはマジャール人で、アジアにルーツを持っているそうです。
中部ヨーロッパということは、ユーラシア大陸のまんまん中に位置するということでもあり、古来 、民族の異動や、覇権を廻る戦乱などでも常に影響を受け続け、近代においては、ソ連の影響下となり、東西冷戦の東側の最先端国として厳しい状況下にあったようです。

そして、東西冷戦終息の象徴的な事件としては、ベルリンの壁の崩壊を思い起こしますが、そこに至る発端となった事件は、この国のある町で起こっているのです。
社会主義経済や、それに伴う政治体制にたまりかねていた人々は、ある集会において、数百キロに渡って張り巡らされていた鉄条網の一画を破って、西側諸国に一歩を踏み出したことが、東西間の鉄のカーテンを開くことになり、やがてはベルリンの壁さえも倒して、冷戦終結に導いたのです。
現在は、この国はEUの一員として、西側ヨーロッパの繁栄を享受しているのでしょうが、長年の社会主義経済による近代化の遅れなどは回復しきれていないと思うですが、テレビの番組で報道されている姿を見る限りは、穏やかで豊かな生活を送っているかに見えます。

ところが、その番組には、再び鉄条網が登場するのです。
アフリカや中東からの難民が、主としてドイツに向かうための通路としてこの国に殺到してきたようです。この国の人々は、祖国を離れてまで自由を求める人たちに大きな同情を寄せたようですが、難民の中には、同国内で犯罪行為を働いたり、農地や私有地を荒したり汚す人たちも混じっていたようです。
そのため、苦肉の策としてでしょうが、国境に数百キロに渡って鉄条網を設置したのです。
かつて、命の危険を犯して切り裂いた鉄条網を、今度は我が身を守るために鉄条網を敷いたのです。造る側も造られた側も、哀れとしか言いようがありません。

わが国は四方を海に囲まれていることもあって、国境線というものに対して関心が薄いように思われます。
尖閣諸島周辺は、毎日のように領海やそのすぐ近くまで外国船に侵入されています。北方領土と言われる辺りでは、その国境線さえ確定できないまま長い年月が過ぎています。小笠原諸島近辺も、かなり我が物顔で外国船が漁をすることがあるようですし、日本海でもわが国が主張する国境線が侵されていますし、直近では、ミサイルまでもがすぐ近くに打ち込まれています。
これらの多くは、先の大戦でわが国が敗れたためだという人がいますし、現に国連では、わが国は依然敗戦国として位置づけられています。
私たちは、大陸内の国家のような国境線というものは経験がありませんが、海の水がいつまでもわが国を守ってくれるものではないということを今少し認識する必要があるように思うのです。
そして、出来ることなら、鉄条網という手段でない方法で、国境を守り抜きたいものです。

( 2016.09.18 )
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