雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

方違え ・ 小さな小さな物語 ( 852 )

2016-10-12 13:53:56 | 小さな小さな物語 第十五部
平安時代の古典の中には「方違え(カタタガエ)」という言葉がよく登場してきます。私の大好きな『枕草子』はもちろんのこと、小説や日記文学と呼ばれるものなどの中にも、必ずと言っていいほど記されています。
「方違え」とは、その言葉の通り、方角を変えるという意味ですか、当時の生活の中に深く溶け込んでいて、重要な意味合いを持っていたようです。
これは、陰陽道に基づくものですが、現在の私たちから見れば、単なる迷信と受け取ってしまいがちですが、どうしてどうして、それほど簡単に判断してしまってよいものではなさそうです。

自宅から出かける時、あるいは帰える時などに、向かう方角が障りがないかを調べ、障りがある場合には、別の方角の然るべき場所で一夜を過ごし、それから目的地に向かう必要があるわけですから、ちょっと出かけるといっても、知識も時間も費用も必要としたわけです。さらにこの「方違え」は、単に出かけるということだけでなく、宮中行事や、造作の開始、戦の開始、などにも影響を与えたそうです。
この「方違え」、ちょっとばかり調べてみますと、相当大ごとだということが分かります。障りのある方角というのは、その方角に方位神という神がいるため、その方角に行けばわざわいを受けるためです。しかも、その方位神にはいくつかの種類があり、しかもじっとしていないで移動するというのですから大変です。主な物を挙げてみますと、
「天一神(テンイチジン)」は、同じ方角に五日間留まっている。
「太白(タイハク)」は、毎日位置を変える。
「大将軍」は、三年間留まるので、三年塞がりとなる。ただし、遊行日(ユギョウビ)というものがあり、その日は障りがないとされる。
「金神(コンジン)」は、一年間留まる。
この他にもあるようなので、複数の方位神が様々な法則によって方角を塞いでいたので、わざわいを避けて行動することは、簡単なことではなかったと思われます。

「方違え」が、一般庶民にまで広がっていたかどうかは分からないのですが、少なくとも朝廷や貴族の間では相当厳密に行われていたようで、「方違え」のため一夜泊る場所に寺院が選ばれることが多く、そのため大寺院はどんどん裕福になっていったそうです。上級貴族の外出となれば、おそらく何十人という従者や女房が従ったでしょうから、寺院には大変な実入りとなったことでしょう。
そんな迷信に振り回されていたんだ、と思われる人も少なくないと思わますが、決してこの時代だけのことではなく、「方角が悪い」とか、「鬼門の方角」などという言葉は現在も健在であり、意識・無意識にかかわらず、少なからぬ影響を受けている感があります。
また、現代においても、方角を重視することは少なくありません。航空機においては、風や気候の変化をよんでルートを設定することは重要であり、同じコースを走っているように見えるマラソン競技においても、相手選手を風よけにしたり、日蔭の側を選んだり、カーブやコーナーのコース取りの工夫が勝敗を分けることがあります。これらも、方位を選んでいるともいえます。
それは同じことではない、という意見もあることでしょう。一方は迷信に基づくものであり、一方は科学的根拠に基づくものである、というのがその理由だと思いますが、さて、平安貴族たちが真剣に取り組んだ「方違え」と、現代社会の科学とやらを比べてみて、現代科学が勝っていると考えるというのも、どんなものでしょうかねぇ。

長かった人も、細切れだった人も、全く関係なかった人も、ゴールデンウィークは終わりました。
一年で言えば、今日から前半の仕上げの期間となります。野球で言えば、先発投手が勝利投手の権利がかかるイニングになります。敗戦投手になる場合でも同様ですが。
だから頑張らなくてはならない、というのも単純すぎる発想ではないでしょうか。
四月を新年度としてスタートした場合、スタートダッシュの背伸びのメッキが剥げかけてきており、しかも連休で気が緩んだ直後から、「それ頑張れ」となれば、ダメージを受けないのが不思議です。むしろ、この期間は、背伸びし過ぎていた部分を調整し、しっかりと地に足をつけた歩き方を身に付けることこそが大切なのです。
五月病と言われる症状の発生の多くは、上司や教師や家族などの不用意な発言が影響することがあるそうですから、くれぐれもご注意下さい。

( 2016.05.09 )

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