雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

金貨を握って生まれる ・ 今昔物語 ( 2 - 10 )

2017-06-17 08:29:35 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          金貨を握って生まれる・ 今昔物語 ( 2 - 10 )

今は昔、
天竺の舎衛城の中に、一人の長者がいた。家は大きく豊かで財宝はたくさん持っていた。
その家には一人の男の子がいた。その子供は、容姿が世に並ぶ者がいないほど優れていた。その子は、生まれてくる時に、両手を握りしめて生まれてきた。父母がこれを開いて見ると、子供の二つの手のそれぞれに、一つの金(コガネ)の銭が入っていた。父母がこの銭を取ると、すぐにまた、同じように金の銭を握っていた。
このように、次々と取っても、同じように次々と金の銭が現れ、尽きることがなかった。瞬く間に金の銭が倉に満ち溢れた。父母は喜ぶこと限りなかった。
そういうことから、子供の名前を金財(コンザイ)と名付けた。金財はしだいに成長して、出家の志があり、やがて仏(釈迦)の御許に参って、出家して羅漢果(阿羅漢果に同じ。原始仏教における最高の修業階位。)を得た。

アナン(阿難)はこれを見て、仏に申し上げた。「金財比丘は、前世においてどのような善行を行って、富貴の家に生まれて、手に金の銭を握り、取れども取れども尽きることなく、今、仏(釈迦)にお会いすることが出来、出家して早々と悟りを開かれたのでしょうか」と。
仏はアナンに仰せられた。「昔、果てしない過去世の九十一劫(前々話を参照いただきたい。)という時に、仏がこの世に出現された。毘婆尸仏(ビバシブツ・過去七仏(釈迦とそれ以前にこの世に出現した六仏の総称)の第一仏。)と申される。
その当時に、一人の人がいた。たいへん貧しく、世を過ごすために薪(タキギ)を取ってきて売るのを生業としていたが、その人が薪を売って二枚の金の銭を得た。その時に、仏(毘婆尸仏)と比丘(ビク・出家者のことで仏の弟子)たちに出会い、その銭を布施として奉り、来世の往生を祈願して去っていった。
この時銭を供養した貧しい人というのが、今の金財なのである。この功徳によって、その時よりこの方九十一劫の間、悪趣(悪道に同じで、地獄、餓鬼、畜生の三道を指す。)に堕ちることなく、天上界・人中(ニンジュウ・人間界)に生まれて、生まれる所には常に金の銭を握っていて、財宝は自然にほしいままに集まり尽きることがない。今、私に出会って、出家して悟りを開いたのである」とお説きになった。

これを以て思うに、我が身に大切な宝があり、たとえ惜しいと思うことがあっても、三宝(仏・法・僧。つまり仏教の教え。)に供養し奉れば、必ず、未来世において無量無限の福を得ることは疑いない、と知るべきである、
となむ語り伝へたるとや。

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