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遙かなり、ペーネミュンデ 2011-2012東ドイツ・ポーランド紀行 8、再びV2

2012-02-04 | 博物館・美術館に行く
ベルリン、ドイツ技術博物館 新館の航空機展示


遙かなり、ペーネミュンデ 2011-2012東ドイツ・ポーランド紀行 7、ベルリンの蒸気機関車たちからの続き

ドイツ技術博物館のエントランスホールがある、屋上に飛行機の載った建物は、航空と船舶の展示室のある新館。
鉄道の展示にどっぷり浸った後は、こちらも覗いてみる。




新館の下層階は独特の雰囲気の、船の展示。
実物の汽船やスクリュー等の巨大な展示物のほか、模型の展示がとにかく充実している。
また、ナチス関連と並ぶ「ヨーロッパの歴史の、負の遺産 」として、アフリカから黒人奴隷を「出荷」していた奴隷貿易船の船倉をそのまま再現した展示もあった。

そして上層階は、建屋の中を埋め尽くさんばかりの飛行機の群れ!
蒸気機関車の実機展示も凄かったが、航空機の実機展示数も桁外れなのだった。







翼を折り重ねんばかりの密度で詰め込まれた飛行機たちに、ただただ圧倒される。
どれも皆、歴史上名高い名機なのだろうけれど、生憎と飛行機に関する知識が無いのでただ感心しながら眺めるばかりだ。






戦闘機と並んで、ペーネミュンデでも見た飛行爆弾V1が展示されていた。

そして、V1の奥には…


見憶えのある、奇妙なかたちの機械。
宇宙ロケットA4、V2のエンジンが、復元され組み立てられた状態で置かれていた。

ペーネミュンデの歴史技術博物館で出会ったV2との、首都ベルリンでの再会である。


ペーネミュンデでは壊れたエンジンの燃焼室上部、燃料噴射ノズルのカットモデルを見たが、
ここドイツ技術博物館にあるのはエンジンの完成品である。
複雑な形状の、光沢のある液体燃料のパイプ類が接続された燃料噴射ノズルは、日本で見たH-IIAロケットのメインエンジンLE-7Aにも脈々と連なる液体燃料ロケットの始祖としての独特の雰囲気をまとい、鎮座していた。

そしてその隣には、朽ちたエンジンがある。
連合国空軍による度重なる空爆を受けたペーネミュンデの研究開発施設の跡地か、或いはドイツの敗戦間際まで報復兵器V2を大量生産していたハルツ山脈南東の地下工場ミッテルヴェルク から掘り出されたものであろうか。







変わり果てた姿となったロケットエンジンが、宇宙ロケットの背負った宿命を静かに語りかけてくるようだった。











V2の開発過程で使用されたのであろう、風洞実験モデル。
それは奇しくも、日本が独自に開発した宇宙科学研究所の固体燃料ロケットの始祖、ペンシルロケットととてもよく似ている。
だが、V2とペンシルロケットではそれぞれが背負うものは天と地程も違う。
生まれながらに報復兵器としての側面を持たされたV2とは正反対に、ペンシルロケットは純粋に人類の幸福と進歩に貢献する科学の申し子として、戦争が終わった平和な空に翔び立ったのだ(但し、最初は水平方向への飛翔だったのだが…)。

だがしかし、V2もまた、やがて人類の進歩の為に翔び始める。



V2のエンジン復元モデルの奥には、巨大な液体燃料ロケットエンジンがあった。
戦争の呪縛から解き放たれ、報復兵器ではなくなったV2は真の姿へと進化を遂げた。
NASAのアポロ計画で使用されたサターンI/サターンIBロケットの第一段目エンジンとして使用されたH-1エンジン
それはやがて更に巨大で強力なF-1エンジンへと進化し、人類を月へと送り届けるサターンVロケットに搭載されることとなる。


そしてV2の展示室の出口に置かれていた観測ロケット、petrel 1とSuper Loki、Skua。
ドイツのロケット技術を元に開発されたイギリスとアメリカの固体燃料ロケットで、気象観測や大気の観測を行ったという科学ロケットだ。
固体燃料ロケットは日本以外の各国では主に軍事用のミサイル技術として用いられるのが普通だというが、学術目的の観測ロケットとしても大いに平和利用されている。

結局、空を翔ぶものが遙か宇宙を目指すロケットとなるか、人々の頭上に墜落するミサイルとなるかを決めるのは、
人間なのだ。

ロケットを、決して墜としてはならない…

それが、空を翔ぶ術を手にした人間に課せられた絶対の義務なのだと思う。

そこまで考えた時、謎が解け始めたような気がした。
ペーネミュンデで、そしてベルリンで、V2がそのことを僕に教えてくれた。
このことを決して忘れはしない。そして、これからも考え続ける。ロケットが生まれた本当の意味とは、一体なんなのだろうかと…




元日の午後を過ごしたドイツ技術博物館を出ると、外はもう日が暮れていた。
ホテルに帰る前にベルリンの正月気分を味わいたくて、西ベルリンの繁華街クーダムへ寄り道してみる。
3日前、ドイツに到着した晩に泊まった地区だ。




ちょうど、zoo駅前にあるカイザー・ヴィルヘルム記念教会が午後6時の鐘を打ち鳴らし始めた。
教会の周辺にはクリスマスマーケットがまだ営業を続けている。
今夜は暖かな明かりを灯した屋台を巡って、ベルリン名物の立ち食いカリーヴルスト(カレー風味の焼きソーセージ)を味わって行こうと思う。

遙かなり、ペーネミュンデ 2011-2012東ドイツ・ポーランド紀行 9、ベルリンの休日 エピローグに続く


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