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そうだ、ロケット見に行こう!~H-IIAロケット15号機打ち上げ日帰り弾丸ツアー

2009-01-25 | 宇宙
平成21年1月23日12時54分00秒(日本標準時)、
三菱重工業株式会社(MHI)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、種子島宇宙センターから
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)7つの「あいのり衛星」を搭載したH-IIAロケット15号機(H-IIA・F15)を打ち上げた。

H-IIAロケット15号機による温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の打上げ結果について(JAXAプレスリリース)

いぶき/H-IIAロケット15号機の当初の打ち上げ予定日は1月21日
このことは昨年から公表されていたので、平日だが何とかして熊本県の自宅から打ち上げを見に行けないかと調べてみたところ、
打ち上げの時間帯が真昼なので現地までの往復の旅程が組み易いことから「日帰り」での打ち上げ見学が可能なことが判った
それならば、と思い立って勤め先に有給休暇の取得を申請したところ何と「ロケット休暇」が認められ、日帰り弾丸ツアーでの種子島行きを決意したのである。

ロケットを見に、行くぞ種子島へ!

しかし、やっぱりというか案の定というか、冬のロケットの天敵「氷結層」の発生が予想されたことにより打ち上げは翌22日に延期された
「今更有休も取り直せないし、ああ~やっぱり見に行けないか~。残念!」
この時点では僕も一度は諦めたのだ。

だが幸運は再び訪れた。
打ち上げは23日に再延期され、半ばヤケクソで強引に頼み込んだ「ロケット休暇」の延期再取得も認めて貰えたのだ。
宇宙作家クラブのニュース掲示板に書き込まれる打ち上げ最新情報や現地入りしている人たちのブログ記事をチェックすると、
23日の天候は決して良好ではないが、昼過ぎの打ち上げ時間帯に出現が予想される“一瞬の晴れ間”を狙って打ち上げる気満々で準備が進められているとのこと。

これはもう、行くしかない!行くぞ種子島!さあ、冬のロケットを見に行こう!!

かくして1月23日未明、仕事を終えて帰宅した僕はシャワーを浴びて目を覚まし直してそのままクルマで鹿児島港へと向かったのです。

当初の予定では高速道路は使わず、下道の国道3号線をのんびり走って時間調整しながら種子島行き高速船トッピーの始発便の出航時間に合わせて通勤渋滞が始まる前までに鹿児島市内入りしようかと思っていたのだが、チンタラ走ると居眠りの危険があると思い直し、自宅最寄の九州自動車道八代ICからそのまま鹿児島ICまで走りきってしまうことにした。
途中のサービスエリアごとに休憩しながら、安全運転で夜明け前に無事鹿児島港トッピーのりばに到着。


快晴の冬空に聳える桜島、幸運を予感させる朝陽が錦江湾に昇る。
よし、今日は絶対飛ぶぞ!待ってろよ冬のロケット!!

午前7時30分。
出航したトッピーが浮上航行を開始し、一路種子島目指し南下するのと同時に、僕は眠りに落ちた。

目が覚めると、もう種子島。
1時間半程で無事、西之表港に到着。
港にはロケット見学ツアーと思われる観光バスや、JAXAに招待されたVIP客用と思われるハイヤーが多数待機していて、いかにも打ち上げ間近という雰囲気。
僕も早速、桟橋前に停車していた路線バスに乗り込むやいなや女性運転手さんから「お客さん、どちらへ?」と聞かれる。
「え~っと、長谷展望公園までですけど」
「ああ、長谷ですね、どうぞ」
その後もロケット打ち上げ目当ての乗客が多数乗車し、定時よりかなり遅れて西之表港を出発。
一路、宇宙センターのある島の南部、南種子町へ。

「錦江湾は晴れていたけど、予報通りに雲が多くなってきたねぇ…それに、風が強いから白波が立ってるよ」

ところで、バスに乗るときに行先を聞かれた理由が分かった。
この路線バスでは、停留所の案内放送が一切無いのだ。
乗るときに運転手に降りるバス停を事前申告しておくと、そこに停まってくれるシステムらしい。
この前に種子島に来た時もバスに乗ったけど、あの時は車内アナウンスがあったような気がするけどなぁ…バス会社が違うのかな?
ともあれ、バス車中でもまた寝てこれで徹夜運転の寝不足はすっかり解消。
西之表港から1時間ちょっとで、長谷展望公園の最寄バス停「長谷」に到着。
「ロケット見に来られたお客さんはこちらで降りられて下さい~」と女性運転手さんから声がかかり、同好の士が数人下車する。
バス代は1350円也。



国道から脇道に入り、展望公園目指してぞろぞろ歩く。
それにしても、風が冷たい!空もすっかり鉛色!
「一瞬の晴れ間なんて、あるのかなぁ…?大丈夫か?」


道の途中には溜め池やサトウキビ畑が広がり、南国ムード満点。
この前行ったタイとラオスの国境の街を想い出すような風景だが、如何せん寒い!

震えながら歩いて、午前11時頃に長谷展望公園に到着

「ロケット打ち上げ予定日」の表示は、再々延期のせいで日付を書き直した跡が残っている。


長谷展望公園はまさに「ロケット打ち上げを展望する為の公園」のような場所で、
サッカー場程の広さの芝生広場があり駐車場とトイレも完備。
芝生広場の先には、遥か3キロ程先に広がる種子島宇宙センター大崎射場の全景が見える。



目を凝らすと、VAB(大型ロケット組立棟)の左端に打ち上げを待つH-IIAロケット15号機の姿が確認出来る。



打ち上げまであと2時間ばかりあるが、既に打ち上げ見学者が集まり始めている。
僕も早速、芝生公園先端の生垣際の最前列にポケット三脚を立てて居場所を確保。
周囲にいる人たちはバズーカ砲のような望遠レンズを取り付けた1眼レフカメラを通称「ゲバ棒」と呼ばれる大型三脚にセットして構える中、
おもちゃの様な携帯用三脚にコンパクトデジカメを付けただけの装備なので少々気が引けるが、気にしないことにする。

さあ、ここまで来たらあとは待つのみ!
雲はますます厚く、風はますます強く冷たくなるが、「H-IIAは飛ぶ!」そう信じて待つしかない!

打ち上げ時間が迫り、観衆も増えて長谷展望公園の芝生広場は満員御礼となった。
「早めに場所を確保しといて良かった。それにしても寒いな、って雨かよ!」
何と打ち上げ30分前になって雨が降り始めた
みぞれのような、凍った冷たい雨だ。慌てて傘をさすが、強風にあおられて氷雨が容赦なく打ち付ける。
「…つらいなー!こんなにきつい打ち上げは初めてだ!」
さすがに泣き言の一つも云いたくなるよ。

打ち上げ10分前には雨も止んだが、相変らず冷たい強風が容赦なく吹き付ける。
JAXA放送の打ち上げライブ中継が始まり、打ち上げ準備状況がアナウンスされる。
それによると、この強風と悪天候でも打ち上げ準備は順調に進められ、既に最終確認が行われている模様。
カウントダウン音声も流れ始めた。

「何てこった…
“一瞬の晴れ間”どころか、この大風と雲の中に打ち上げるつもりなのか…!?
正気なのか!?
…いや、やるからにはやるんだろう。何にしろ「ロケット屋」はやるつもりなんだ。絶対にうまく打てると確信してるから、GOを出したんだ。

いよいよ飛ぶんだ、飛ぶんだH-IIA!!」

打ち上げ30秒前。
中継のカウントダウン音声が長谷展望公園に響く。
誰もが息をつめて、遥か彼方に鎮座するH-IIAを必死に凝視している。

打ち上げ10秒前。
秒読みの大合唱が始まる。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…0!」

H-IIAロケット15号機、リフトオフ!!













静寂の中、彼方に暖かい紅い燈りが一つ灯った。
次の瞬間、燈りは膨れ上がり、舞い上がる。
爆裂する噴射炎の裾を優雅に翻し、光の天使が空へと昇っていく。

「ああ、行ってしまう…」

それはすぐに雲の中に吸い込まれ、消えた。
まるで一瞬の夢の中の出来事のようだった。

「行ってしまったのか…」

次の瞬間、雲の中から衝撃波が降り注いできた。
身体を直に揺さぶられるような、叩きつける様な音の攻撃を全身で受け止める。
興奮と喜びが、全身を駆け巡る。

「飛んだ…飛んだぞ!行けH-IIA!宇宙へ飛べH-IIA!!」

平成21年1月23日12時54分00秒(日本標準時)、H-IIAロケット15号機(H-IIA・F15)は打ち上げられた。

H-IIAロケット15号機による温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の打上げ結果について(JAXAプレスリリース)

打ち上げが終われば、この寒さなので皆すぐに帰り支度を始めて撤退してしまった。
長谷展望公園の芝生広場には、JAXA放送を中継するテレビだけがポツンと残された。

すぐには帰り難くて、もう暫らく打ち上げの余韻に浸っていようとJAXA放送を見ていたら、H-IIAロケット15号機の搭載していた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)の分離を確認したという第一報が入ってきた。
打ち上げは成功だ!…おめでとうH-IIAロケット15号機!」
7つのあいのり衛星…その中には、僕が「うどん1号(U-don1)」というふざけた名前を愛称応募して見事ボツった香川大学の「KUKAI」も含まれる…の分離はこれからだが、とりあえず「いぶき」の誕生を確認したのでこれで長谷展望公園を後にする。
さあ、帰ろう!

また長谷のバス停まで歩いて、西之表行きのバスに乗り、15時半発の鹿児島行きトッピーに乗船。
さあ後は鹿児島港に着くまで一眠りして帰りの高速道路ドライブに備えるか…と思っていたら、
岸壁を離れたトッピーは港の中をグルグル旋回してなかなか外海に出て行かない。
何と、海上の風が強すぎてジェットフォイルが浮上出来ないとのこと。
何度か浮上を試みるも、今度は海水取り込み口にゴミを吸いこんでしまい、逆噴射でゴミを取り除くという。
結局、1時間半も港内を旋回した挙句、やはり出航は無理と判断されたらしく港に再接岸してしまった

「あちゃ~、こりゃ今日中の離島は無理かな?しかしロケット関係者で旅館もホテルも一杯だろうし、今夜は港の待合室で夜明かしか?それに、これから寒気が押し寄せて来るはずだから明日も海は大荒れだろうし、無理を言って仕事を休んだのに明日も出勤できないとなると仕事に穴開けることになるなぁ…」
などと思案していると、「船が浮上出来ないのは船底の汚れのせいだと分かった。今から代りのトッピーが入港してくるので、そちらに乗り換えて下さい」と案内がある。

よく分からんが言われるままに別のトッピーに乗り換えると、今度はいきなり快調であっという間に浮上して鹿児島に向かい航行を始めた。
隣の席のおじさんによると、乗り換えた「トッピー7」は以前くじらと衝突する事故を起こして改修されているので重量が軽く、その分飛びやすいのではないかとのこと。
そういうものなのかな?

ともあれ、海は既に大荒れで波に強いはずのジェットフォイルのトッピーも時に木葉のように揺れ、
船酔い寸前の惨めな気分に悩まされながらも何とか鹿児島港に辿り着いた。


そのまま港の駐車場に停めておいた愛車に乗り換え、高速道路に乗ったら宮崎と熊本との県境の山越えで雪が降り始めた。
夏タイヤでチェーンも持っていないので、積雪するなよ路面が凍結するなよと祈りながら走り続けて、何とか日付が変わる前に熊本県八代市の自宅に帰り着いた

「ああ~疲れたけど何とか日帰り出来た!打ち上げも成功したし、さあ一風呂浴びてから祝杯だ!」

その後、「いぶき」は順調に飛行を続け、太陽電池パドルを展開した。
7つのあいのり衛星たちもそれぞれ分離に成功し、日本記録となる衛星8機の同時打ち上げは見事に成功を収めたのである。
やっぱり、自分が見守った打ち上げが成功すると何とも云えない喜びを感じる。

打ち上げは成功したが、衛星の運用が始まるのはこれからだ。8つの星たちにはこれから思う存分成果を上げて、軌道上で輝き続けて欲しい。

今回は悪天候と寒さで本当につらい打ち上げ見学となった。
H-IIAロケットの飛翔を直に目で見た時間もほんの一瞬。
でも、だからこそとても印象に残る、とても美しい打ち上げだった。

「ロケットの打ち上げって、あんなに幻想的なものだったんだね!」

(終)


2 コメント

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南の島で極寒 (bbsawa)
2009-01-25 20:06:46
こんばんは。
想像を絶する待機中ですね。こちらは会社で昼寝してる人も居るので、音を絞って見てました。
臨場感は負けますが、住み易さでは勝ちます。もし、私が行ってたら年寄りの冷や水。風邪を貰って帰ります。春秋の打上げを希望します。
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まさに「雨ニモマケズ風ニモマケズ」 (天燈茶房亭主mitsuto1976)
2009-01-25 20:48:33
おばんです。

ええ、本当に大変でした。種子島があんなに寒い島だなんて知りませんでした!

それでも、ロケットの噴出す火の美しさを見ると全ての苦労は吹き飛びます。
寒さと疲れ、空腹(昼食抜き…)のせいで精神的に殆ど「フランダースの犬の最終回状態」だったので、ロケットが舞い上がる天使に見えたのかも知れません(苦笑)

今後、打ち上げ制限は緩和されると聞きます。気候の良い時期にまったり打ち上げを見られそうです。
次はH-IIBによるHTV初号機打ち上げだー!
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