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天文台嗜好症的黄金週間 4:臼田、森の中。深宇宙への入り口

2009-05-14 | 宇宙
夕闇迫る臼田宇宙空間観測所、口径64mパラボラアンテナ

天文台嗜好症的黄金週間 3:バスで大阪水上散歩からの続きです


平成21年5月2日

朝8時半、第二京阪から京滋バイパスを抜け、名神高速に入ったところで恐れていた渋滞に巻き込まれた。
ちなみにこれが、高速道路での渋滞初体験。未経験の運転となるので、焦らず慌てず何よりも先ず安全運転を、と自分に言い聞かせる。
昨夜、googleのルート検索で割り出した京都から長野県佐久市上小田切までの所要時間は約6時間。目指す臼田宇宙空間観測所の見学時間は午後4時までなので、間に合うかどうか…

臼田宇宙空間観測所は、深宇宙へと旅立った探査機との通信を行う為の超大型パラボラアンテナを擁する研究施設である。
1976年のハレー彗星接近を迎え撃つべく、世界各国の研究機関が打ち上げた探査機群「ハレー艦隊」の一翼を担った日本の文部省宇宙科学研究所の人工惑星「さきがけ」と同「すいせい」との通信を確立すべく昭和59年に開設されたもので、反射鏡口径64mのパラボラは東洋一の大きさを誇る。
ハレー艦隊の2機以降は、日本初の火星探査機「のぞみ」やアポロ計画以来最大規模となる月探査を行う「かぐや」、そして人類史上初の小惑星へのタッチダウンを成功させ、地球への奇跡の生還を目指している「はやぶさ」等、数々の宇宙機との通信を行ってきた臼田宇宙空間観測所はまさしく探査機の声を聞く耳であり、話しかける口である。
そこは宇宙の虚空で旅を続ける日本の宇宙船と故郷の地球を繋ぐ為の天文台、即ち深宇宙への入り口なのだ。

関ヶ原辺りで渋滞は終り順調に東名から中央自動車道に入るも、岐阜県に入った辺りから再び強烈な渋滞に捕まった。
何とこの日のこの区間は、日本全国でも最も激しい渋滞に見舞われていたのだ。やはりETC割引効果か、しかし自分もETC車載器を装着したクルマで割引料金で高速道路を利用しているのだから文句は言えない。
果てしなく続く車列に連なり、ジリジリとしか進まない車内で無益な時間だけが過ぎる。
「これはもう、臼田の見学時間には絶対間に合わないな…見通しが甘かった!」
岡谷ICから旧中山道の下道に降りて信州の高原を走り、新和田トンネルを抜ける頃に午後4時を過ぎた。

タイムアウト!

「やっぱり間に合わなかったか、仕方がないな…でも、折角ここまで来たんだ、陽もまだ高い。とりあえず、行くだけ行くぞ、臼田宇宙空間観測所へ!」
国道142号線を「佐久市」方面への行先表示を頼りに走り続け、佐久市街から国道141号線臼田バイパスに入って、午後5時前に臼田地区に到着。

JAXA宇宙科学研究本部のホームページからプリントアウトした見学用アクセスマップによると、JR臼田駅周辺の役場や郵便局のある何やら道がゴチャゴチャ錯綜した辺りから国道141号線を右折して山の上に登っていくと臼田宇宙空間観測所がある、らしいのだが、地図がえらく簡略なものなので何を目印に右折したらいいのかサッパリ判らない。
それでも、何しろ東洋一の巨大パラボラアンテナだ、麓からもその姿が見えるかもしれない。僕の経験と感覚からすると大体、宇宙空間観測所というものは存在感ありすぎるくらい巨大なので、近付けば自ずと何処にあるか否応無しに判るものだ。鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所なんか、内之浦の町に通じるトンネルを抜けた途端に山の稜線にテレメータセンターのパラボラが聳えているのが見えて「ああ、あそこが目指すロケット打上げ基地だな」と一目瞭然じゃないか。
という訳で、右手の山の方を見ながら国道141号線を流していくが…

「ない!どこにも、パラボラなんか見えないじゃないか!」

目指すものが見当たらず、どうしたものかと思っているうちに佐久市を通り過ぎて隣町に入ってしまった。
こういう時は、焦って探し回っても大抵ろくな事にならない。どんどん迷っていって深みにはまって、目的地から遠ざかるばかりなのがオチだ。急がば回れではないが、一旦地図の基準となる地点に戻って道を辿り直すのがいいのだ(これ、海外旅行先でホテルを探す時になんかに散々迷って苦労した経験から得た知恵ね)。
そんな訳で今来た道を引き返し、JAXAの地図の基準点となっているJR臼田駅へ向かう。


JR小海線・臼田駅。
学生時代、青春18きっぷでの「鈍行乗り鉄」に熱中していた頃に幾度と無く通った駅なのだが、何故だか全然印象に残っていない。
まあ小海線自体、車窓の白樺林を見ながら中央本線からの乗換駅の小淵沢で買った「高原野菜とカツの弁当」を食べたこと位しか印象に残っていないのだが。高原の路線は地元熊本の豊肥本線や肥薩線で嫌というほど乗ってるので、印象が薄れたのかもね。


駅前広場の観光案内図には、確かに巨大パラボラのイラストが描かれている。
宇宙研の観測所繫がりで「銀河連邦サク共和国」を標榜しているだけあって、それらしいモニュメントもあるね。
ちなみに駅近くに「日本一海から遠い地点」という気になる標識が出ていたのだが、午後5時を回って陽も傾きかけているので先を急ぐことにして残念ながら今回は素通り。まあまた来ることもあるだろうから、その時また見に行こう。
今は64mパラボラを目指し急げ急げ!

果たして駅前からアクセスマップに従って走ると、すぐに宇宙空間観測所のパラボラはこっちだよと記した行先標識が見つかった。何と国道141号線のさっき走っていた方向とは逆向きの車線に標識があったのだ。これではいくら走っても見つからない訳だ。
何はともあれ、道は解かった。さあ、東洋一の巨大パラボラに会いに行こう、深宇宙への入り口の天文台に行こう!
…しかし、ここからがまた遠かった。臼田の町から更に30分も山道を登らなければならなかったのである。
「…遠い。道が狭い。山がどんどん深くなる。こんなところに本当に巨大パラボラがあるのか~?」
幾つか集落を過ぎると、道は完全に森の奥へと続く一本路になった。離合するのもやっとといった綴れ折の登山道で、こんな険しい道を馬力のない軽のヴィヴィオ・ビストロで走りたくないなー、これは4駆の出番でしょう?
しかも周囲には完全に人の気配が無くなり、ただ唐松の林が続くのみ。日中ならそれなりのハイキングコースと言えなくもないかも知れんが、夕闇迫る黄昏時には余り気持ちの良いものではない。ハッキリ言って怖い。
「何なんだよ、ホントにこんな森の中に巨大パラボラなんかあるのか~!?
…あった。」

あったのである、巨大パラボラが。

唐突に、尾根の向うの唐松の梢の間に白く丸い異様な物体が現れたんである。
夕陽を浴びて森の中にうずくまる巨大な怪物のようなそれは、余りにもシュールで、不自然で、薄気味悪くて、そして哀しい程に美しかったんである。



「夕陽に染まり、うずくまる白い巨人は、宇宙の彼方の健気な宇宙船たちの囁きを聞き漏らすまいと耳を凝らし、その囁きに応え励ましの声を送り届けんとそらへ叫ぶ。
直径64mのパラボラアンテナは、こんなにも遠く離れてしまったこどもたちを見守り続ける優しく哀しい異形の巨人。或いは母?」




「夕暮れに包まれた森の中の天文台、そこは深宇宙への入り口。
宇宙の虚空へと旅立った日本の宇宙船たちを、故郷の地球と繋ぐ場所。」


‐「臼田、森の中。」 mitsuto1976



見学時間の終了から1時間半も過ぎているので当然門扉は閉じられていたが、入り口前からでも巨大パラボラの偉容は充分堪能することが出来る。
いや寧ろ、余りにも巨大な直径64mの反射鏡は敷地内から離れたこの地点でないと視界にもデジカメのフレームにも収まりきれない程だ。
臼田宇宙空間観測所の敷地内には55億分の1サイズの太陽系の惑星模型の配置(それでも木星までしか敷地内に入りきれないらしく、門扉のすぐ向うにトンボ玉のような可愛らしい木星がいた。土星の位置は隣の尾根の向こう側になるそうな)や、栄光のハレー艦隊日本艦「さきがけ」と「すいせい」から始まる臼田での宇宙空間観測の資料がある展示棟もあり、また見学者には記念品として特製キーホルダーがプレゼントされるらしいが、残念ながら立ち入ることは出来ない。
それでも、僕は充分満足だった。この時間に来たからこそ、夕焼けに包まれて美しく輝く臼田のパラボラを見て、感じ入ることが出来たのだ。

「また今度、中に入ってゆっくり見学する為に出直して来るさ!それより今は、この美しい夕暮れのパラボラをもっともっと見ておきたいよ…」



64mパラボラアンテナは、今まさに稼働中らしく耳を澄ますとかすかに地鳴りのような機械の作動音が聞こえ、アンテナ基部にはパトランプが点滅しているのも見える。
巨人の見上げる先の夕空に目をやると、そこには淡く白く輝く月があった。

「月にいる船…『かぐや』か!今まさに『かぐや』と話をしているんだ…」

竹取物語から続く人類の月への想いを引き継ぎ、月の謎を解き明かすべく14種類の観測機器を携え、世界中の41万人の名前とメッセージを乗せて月に旅立った月周回衛星「かぐや」。
順調に月の科学探査を行い素晴らしい成果を上げ、ハイビジョンによる鮮明な「月から見る地球の出」を撮影し、大いなる感動を届けてくれた「かぐや」。
そんな「かぐや」の月からの声は、ここ臼田に送り届けられた。
そして、もうすぐ月に落ちて旅の終りを迎える「かぐや」。
月に帰り消えていく「かぐや」への最後の励ましの声も、やがて臼田から送り届けられることになるのだろう。

「かぐや、臼田からの声は聞こえているかい?…あの“地球の出”は素晴らしかったよ。いいものを見せてくれてありがとう…もうすぐお別れだね。今まで、本当にありがとう。最期までここから見守っているよ…」



そろそろ暗くなる、帰ろうか…
「また来るよ、臼田宇宙空間観測所。森の中の天文台。深宇宙への入り口。」



京都への帰りは佐久ICから上信越道に乗って、長野道経由で中央自動車道へ。
大渋滞だった行きとは違い、スイスイ走って気持ちがいい。それでもこのままだと京都府下の妹夫婦kamimog宅に着くのは夜半過ぎになるので、そんな時間に帰って来られては迷惑だろうと名神高速に入ったところでヴィヴィオ・ビストロを伊吹PAに入れて、今夜はここでビバーク。

天文台嗜好症的黄金週間 5:奈良でオトナの修学旅行に続きます


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