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エジプトでパスポートを失ってから、帰国するまで 1日目

2009-08-22 | 旅行
僕は2000(平成12)年2月にパスポートを取得して以来、10年近くに渡って世界各国を旅行してきました。
パスポートは使い込まれ、多数のページが入出国スタンプで埋まって期限もあと半年ほどとなり、これが更新前の最後の旅になるなと思いながら臨んだ今年の夏休みのエジプト・シリア旅行の最終日に、エジプト・カイロ市内でパスポートを盗まれました。

正直、これまで僕は「海外で命の次に大事なパスポートを失くしたり盗まれたりする人がいるなんて信じられない。余程うっかりした人が世の中にはいるんだな。」などと思っていました。
で、何のことはない。自分自身がまさにその「うっかりしたおバカさん」だったのです。
そして、実は「パスポートは確かに大切だけど、命と違ってパスポートを失っても頑張って対処すれば何とか生きて帰国することは出来る」ということも学びました。

以下に、僕がエジプトでパスポートを失ってからどうやって帰国したかを書きます。
自分自身への戒めとして、
そして僕の体験談が、世界を旅する人たちの危機管理のお役に立てれば…。

2009年8月14日金曜日(トラブル発生当日)

エジプトのカイロを経由してシリアのダマスカスまでの今回の旅も、いよいよ最終日となった。
出発前、知り合いからは散々「シリアって旅行に行っても大丈夫なの?テロ支援国家だし、危険じゃないの~?」とか言われていたのだが、ダマスカスに行ってみたら何ということはない、実に平和でのんびりしたところだったのだ。
今までのところ何の問題も無く、後は今朝早くに到着したカイロで飛行機の乗り継ぎ待ちで1日時間を潰して、夕方発の東京成田行きエジプト航空に乗れば旅も無事終了となる。

乗り継ぎ待ちの間、せっかくだからエジプトに入国してギザまでピラミッドを見に行こう。これも当初からの予定。
入国審査前の銀行窓口で15USドルでビザシールを購入し、パスポートの空きページに貼り付け、イミグレで消印のようにシールにスタンプを押してもらえば入国OK。
カイロ国際空港ターミナル1の前にあるバスターミナルから、市内行き冷房バスに乗り込めば、1時間もかからずカイロ中心部ラムセス・ヒルトン前のバス広場まで行ける。料金はたったの2エジプトポンド。
ここでギザ行き冷房バスに乗り換えて、やっぱり1時間もかからず2エジプトポンドで有名なギザの三大ピラミッドの下に到着。

ギザのピラミッドに来るのは2回目だが、やはり圧倒される。
大きさのスケールも凄いが、石材の崩壊が現在進行形で現れた表層部の退廃的な美しさと、その崩壊部からチラリと覗く精密機械のように整然と積み上げられた構造物の対比の妖しさ。神秘的としか言い様がない。
ぼったくり前提の物売りや「ラクダに乗れよ」としつこいラクダ屋、怪しげな自称ガイドにはうんざりだが、今回もピラミッドに感動し満足した。
後は空港に戻ってチェックインすればいい。十数時間後には清潔な都市東京の心地良い冷房と冷えたビールが待っている筈だ。
その筈だったのだ。

再び冷房バスを乗り継いで空港に戻り、東京成田便の出るターミナル3行きの連絡バスに乗る前にEチケットの控えとパスポートを確認しようとしたところ、パスポートを入れておいたズボンのポケットのボタンが空いているのに気が付いた。
慌ててポケットの中に手を突っ込む。
ポケットは空だった。

一瞬、僕は「あれ?パスポートはショルダーに移したんだっけ?」などと呑気に考えたが、「そんな筈はない!何しろ、さっきピラミッドのトイレでポケットにパスポートが入ってるのを確認したばかりじゃないか!」と思い当たると一瞬目の前がホワイトアウトした。
瞬時に、シリアの入国ビザ申請の為に在職証明書を書いてもらった勤め先のSさんの顔と
「本当に気をつけてね。」
「大丈夫ですよ!ご安心を」と大見得を切っている自分の姿を思い出した。
シリアは大丈夫でしたけど、エジプトでやっちゃいましたよ…
呼吸が荒くなり、そのまま気が遠くなりそうな感じがしたが、次の瞬間
「こうなったら後の事だけ考えろ!今成すべき事は、何とか日本に帰れるように動くことだろーが!!」
と冷静に叱咤する自分自身の声がした(気がした)。
僕は個人旅行で来ているので、誰も助けてはくれない。自分を救えるのは、自分自身だけである。そうだ、こうなったら仕方がない、自分で何とかしなくては!

先ずは、さっきバスを降りたバスターミナルまで歩いて戻ってみる。ひょっとしたら、道すがら落としたのかも知れない。
下を見ながら歩いていくが、ケースに入っていたパスポートはどこにも落ちていない。
次に、バスターミナルの事務所?みたいな小屋に行って、そこにいたおっちゃん達に事情を話す。
「アイ、ロスト、マイぱすぽーと!!」
気が動転してるので英語がスムーズに出て来ず酷い英会話だが、気合いで通じる。
おっちゃんから「そこにあるポリスのオフィスに行け」とアドバイスされ、バスターミナル横の派出所みたいなところへ。
ここでも「トラブル!アイ、ロスト、マイぱすぽーと!!」とやると、立番の若い警官から署長室に通される。
髭を蓄えたいかにもアラブのおっちゃんという雰囲気の署長は、「先ずは冷静になれ」と言わんばかりに僕を応接用ソファに座らせてから、分かりやすい英語で丁寧に事情を聞き始めた。
「どうしたんだって?パスポートを失くした?そうか、どこでだ?ピラミッドからここに来る途中?…そうか、時間は何時頃だ?」
「ちょ、ちょっと待って…スミマセンが、水か何か飲ませてもらえませんか?」
署長が自分用に持ってきたと思しき魔法瓶から注いでくれた冷たい水を飲ませてもらい、落ち着いた声で事情を聞かれているうちに、僕も段々冷静を取り戻してきた。
「ポケットにはボタンをかけていたから、落とすことは有り得ないな。ということは、やっぱり盗られたのか…しかし、一体いつの間に?凄腕のスリ師だな…」

署長はどこかに電話連絡しているが、「つながらん、困ったな」というような顔をしている。僕に受話器を渡すので聞いてみると、「こちらは在エジプト日本大使館です。毎週金曜日と土曜日は休日となっていますので、命にかかわるような緊急事態には以下の番号に電話を…」と日本語の留守番電話音声が聞こえてくる。
命にかかわるような急用以外は、日曜日に出直して来いということか。
結局、署長に洗いざらい状況を説明して、盗難届けを作成してもらった。僕の本名はアラビア語では非常に発音し難いらしく、途中から僕の名前のつづりと微妙に似ている?ミツビシ(三菱)が僕のニックネームになってしまったが。まぁ何はともあれ、誠実に対応してもらえたので良かった。
それに、万一に備えて手帳にパスポートの番号を書きとめておいたのも良かったようだ。番号がわかっているおかげで調書がスンナリ作成できたらしい(パスポートのコピーがあれば尚良かったでしょうが。僕も以前は旅行の度にコピーを作成していたんだが、最近は横着してコピーを持って行かなくなったからなぁ…要反省)。

それから若い警官に付き添われて空港ターミナルの中にある事務所に出頭する。
若いおまわりさんは僕に「君の名前は何ていうんだい?僕の名前はシャーム(そう聞こえた)だ。ヨロシク!」とか色々話しかけてくれる。きっと励まそうとしてくれてるんだろうな。非常時に感じる人情に思わずほろりとくる。
空港の事務所では盗難届けに何かのサインをしてもらって(何のサインなのかは結局よく分からなかったが)、これでとりあえず空港の警察での処理は完了。
あとは、警察の本庁?で盗難届けに判子を押してもらってから、日曜日になったら日本大使館に行くようにと指示された。

おまわりさん達と別れてから、携帯電話で勤め先に連絡。
生憎、既に日本は夜中になっているので守衛さんにしかつながらなかったので、事の次第を説明して総務課への緊急伝達をお願いする。
それから実家に電話。
電話に出た母に
「あのね、落ち着いて冷静に聞いて欲しいんだけど。今エジプトのカイロにいるんだけど、パスポートを盗まれて当分帰れなくなっちゃった」と伝えると
「あら、そう。頑張って帰って来なさいね。お勤め先に謝っておかなきゃ駄目よ。じゃあね」え?それだけ?

気を取り直して、空港の近くにあるNOVOTELホテルにチェックイン。日曜日まではここで待たないといけない。それにしても、貴重品は分散して持つようにしていたので現金とクレジットカードが無事だったのは不幸中の幸いだった。当座の滞在費はこれで賄える。
部屋に落ち着いてから、母はあてにならんと判ったので京都の妹mogmogに電話。事情を説明し、帰国の為に日曜日以降のカイロから日本までの航空券の手配を頼む。
それからターミナル3にあるエジプト航空オフィスに出向き、パスポートを失ったので今日の予約していたフライトには乗れなくなったことと、シリアのダマスカスから東京成田まで直行で荷物を預けているので今ここでピックアップできないかと伝える。
しかし、荷物はパスポートがないと引き渡せないとのこと。仕方がないので、日曜日以降に再発行してもらったパスポートを持ってまた来るので、それまで荷物を留め置いてくれるように頼む。やれやれ、せっかく高級ホテルに泊まってるのに日曜日まで着たきりか~

ホテルの部屋に戻って、再度勤め先に連絡。Sさんにパスポートを失った経過と帰国がまだ先になりそうだという状況を説明し、平謝りする。僕に今出来る事は謝ることだけである。
「ケガとかがなくて良かった。気をつけて帰って来なさい。」と優しく言って下さったSさんの優しさに、思わず涙が出そうになる。

ホッとするのと同時に疲れが一気に押し寄せてきた。
明日以降も大変な作業が続きそうだから、鋭気を養っておかないといけない。バスタブにたっぷりお湯を張ってゆっくり浸かり、そのままベッドに潜り込んで寝てしまった。

エジプトでパスポートを失ってから、帰国するまで 2日目に続きます


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