自由人の歌

時と言葉のつながり

MIXIのニュースのコピペ

2010-01-06 04:31:13 | 言葉
子どもをしつける上で、時に必要とされる“愛のムチ”。家庭内でも学校でも、昨今はあまり子どもに手を上げる行動は社会的に認められにくく、そうした環境の中でいかに子どもを正しい道に導いていくか、子育てや教育の方法に頭を悩ます大人は少なくない。そうした中、米国の心理学者が「最後に叩かれたのはいくつのときだったか」という調査を実施。現在の環境と比べ、「叩かれる」ことと成長の関連性を調べる研究を行った。

この研究を行ったのは、ミシガン州にあるカルヴィンカレッジのマージョリー・グノエ教授。英紙タイムズによると、グノエ教授は179人の10代を含む 2.600人に質問を行い、特に10代の人には「どのくらい叩かれた経験があるか」など、具体的な聞き取りも実施した。また、対象者には性格的傾向や進学度合いに関する質問も行い、「叩かれたことによる、その後の行動に与えた影響」があるかを調べた。

その結果、全体の4分の1は「全く叩かれた経験がない」ことが判明。そして、全く叩かれたことがない人は、叩かれた経験のある人に比べ「あらゆるポイントで、ほかのグループより悪い結果になった」そうだ。具体的には「反社会的行動や早めの性交渉、暴力やうつ」など、何らかの精神的な問題を抱えやすい傾向が見られたという。

最も良い結果になったのは「2歳から6歳までに叩かれた人」で、次いで「7歳から11歳までに叩かれた人」。ここでの違いは、7歳から11歳までの経験者の方が「よりケンカをしやすい」傾向があったものの、叩かれた経験のない人よりは「進学では成功している」そうだ。

また、英紙デイリー・メールでは、叩かれた経験のある人は「将来設計や生活力、大学での向上心やボランティア作業など、多くの能力に信頼が見られた」と伝えている。ただ、「12歳を過ぎても叩かれた人だけ、否定的な影響を受けると分かった」ともあり、子どもが大きくなってから手を出す場合は、充分な注意も必要らしい。

グノエ教授はタイムズ紙に「私も叩くのは物騒だと思う。しつけのためとしてすぐ子どもを叩くべきではないが、大きな間違いをした場合には必要になるときもある」と、時には子どもに手をあげる必要性があると主張している。

大人が子どもを叩くことを、一概に善し悪しの二元論で決めつけるのは難しいが、今回の調査・研究結果が正しいと仮定するならば、後々の子どものことを考えれば、時には手をあげることも必要なのかもしれない。

鴉王子

2009-09-12 22:57:09 | フォトグラフ

もののけ姫と僕の恋

2009-09-12 22:53:08 | フォトグラフ

小説:自由人の歌イントロ

2009-06-10 05:25:25 | 言葉
三年ぐらい前に初めて書いた小説を手直ししました。今読み返すと、時代設定が10年以上前に感じます。ということは、3年前の僕は10年以上前の世界観の中で生きていたわけですね。自分の未熟さに笑ってしまいます。今はちゃんと現代を見ることができているのでしょうか・・・。

さてさて、これが僕が初めてちゃんと書いた小説(終わってないけど)のわけですが、女性視点です(笑)なぜそんなマニアックな事を最初からしたのか定かではありませんが、小説としてはいいのですが、僕が書いたと思って読むとちょっと気持ちが悪いです。

「求められるって気持ちがいい」とか書いてますから(笑)

感想、ダメだし、もしよければ書いてください。


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     自由人の歌。


1.

    「夕紀、知っているか、本当の自由って言うのは、砂漠のど真ん中にほっぽり出されるぐらい厳しいものなんだ。そして、神様に言われるんだ「さぁ、あなたは自由だ、自分の選択で右にだって左にだって進める。どこにだって好きなところへ行くがよい。」しかし、実際には砂漠のど真ん中に右も左もあったもんじゃない。上下左右、東南西北、そして、他人からも突き放される、それが本当の自由なんだ。後は自分の頭で考え、自分の足で進んでいかなければならない。なかなかいないよ、その状態を好む人間なんて。」

    久しぶりに会った晃どこを見るともなくそう言った。

    私と晃と浩一は小さな頃からの幼馴染で幼稚園、小学校、中学校と同じ学校へ通った。晃はいつも無鉄砲なことをしたり、突拍子もないことをいいだす男の子だったが、とても誠実で、嘘は絶対につかなかった。そんなところが好きで私たちはよく遊び、夏休みには私の親戚のところへ遊びにいったりもした。しかし、浩一が受験し進学校へ入り、私は女子高へ入学し、そして、晃が数ヶ月で高校をやめたあたりから晃と浩一の関係は悪くなり、私も学校の勉強が忙しくなって、少しづつ晃とは疎遠になってしまっていた。ある夜、晃から電話があり「俺、旅に出るから」と簡単な報告があった後、気がついたら晃はもう日本にはいなかった。まさか海外に行くとは知らなかったとは言え、別れの挨拶もろくにできなかった自分に嫌気が差したのを覚えている。その後、晃は数年に一回日本へ帰ってきた。私は高校を卒業し、大学生になり、いつしかゆるりとした最後の学生時代も終わり、OLになった。私はいつもちがうファッション・スタイルやちがうメイクアップ、ちがう自分で晃と会っていた、写真を見ればわかる。その時は、「変わること」が成長することだと思っていたのだ。しかし晃はいつも晃だった。私が大学に入り化粧が濃くなったときも、仕事を始めてニキビが気になっていた時期もいつも笑って私の話を聞いてくれた。そして今回、私の29歳の誕生日を前に帰ってきてくれた晃に、私と浩一との婚約の話をしたときも小さくわらって「よかったね」と言ってくれた。私はその瞬間晃がどこか遠くへ私の手の届かないところへ行ってしまったような気がした。婚約という言葉が出た瞬間に、もう昔の純粋な三人組ではいられなくなってしまったような気がしたのだ。

    でも、だからといって私に何ができただろう。晃は日本にいなかったし、私も私で自分のやるべきことに忙しかった。そして、一番つらい時にそばにいてくれたのは浩一だったのだ。「しかし、こんなに焦って婚約してもよかったのではないだろうか?」そんな疑問がふと頭に浮かぶ。くだらない。考えを打ち消すように、小さく口に出してみる。もう十分考えてきたことじゃないか。32歳で子供を生むとしても30歳には結婚していたい、ということは今のうちに婚約しておかないと次がいつになるかわからない。あぁ、不自由だなと思った。生きるために私は今までたくさんのことを失ってきたような気がする。私が生きる前に私の人生は先に決まっている。そうだった、そして、私が「本当の意味で自由になりたい」という話をした時、晃がそう言ったのだ。「自由」、それは本当に厳しいものなのだろうか?私にはもっと、晴天の日に誰もいない野原を走り回るような清々しいものだと感じていた。晃の意見は一見突拍子もないもののように聞こえる。でも、そう感じるのは、私が変わり、晃が変わらなかったかもしれないな。そんな、思いが一瞬頭をよぎった。

    「もし、自由を感じたいんだったら、結婚する前にどっか海外に旅に出ればいいんだよ。今、俺はけっこう収入あるからシアトルに来るんだったら色々と遊びにつれてってやるよ。」

    「収入って、シアトルで仕事見つけたの?」

    「まぁね、一時的な仕事は見つけたよ。」

    晃は現在、シアトルの雑誌を作っている小さな会社でアートディレクターとして働いているらしい。元々、ペインターとしてその会社に自分を売り込みに行っていたらしいが、いつの間にか社員と知り合いになり、創作活動の合間にその会社で仕事をし始めて、気がついたらアート・ディレクターになっていたらしいのだ。晃には「行雲流水」という言葉がよく似合う。中学卒業後に新潟へ自転車旅行をすると出かけた時も、旅先で大阪在住のトラックのドライバーに拾われ、運転席で大阪の良さについて数時間も聞かされたらしい。出発してから10日後、旅先からの初めての電話で「大阪で二日酔いになって寝てる」と聞いたときは、晃の両親が心配する顔を尻目に、浩一と二人で笑ったものだ。晃はいつもそうやって、思いもよらないところへ、まるで流れる雲のように行ってしまうのだ。

    「シアトルから20分ぐらい車で走ったところに、アルカイビーチって言うところがあるんだ。そこの海辺の道を夏に散歩するのが最高に気持ちいいんだよ。冬には雨しか降らない分、夏のシアトルは毎日晴れてるんだ。それでいて、日本みたいに湿気が高くないからすごく過しやすい。そんな日に、アルカイビーチを散歩してみ!やばいぜ!!入り江の向こうにシアトルの町並みが見えて、その町の上にある太陽の光に反射して、水がキラキラ輝いてるんだ。ふと、前を見てみるとベンチでカップルがくつろいでいる、老夫婦が手をつないで散歩を楽しんでいる。そして、太陽の光がやさしく包んでいてくれる。いつか夕紀も遊びに来いよ、絶対気に入るから。」

    私はハワイやグァムには行ったことがある、でも、アメリカ本土には行ったことがない。飛行機代が高いし、飛行時間も長い、なによりも英語圏に行くのは怖いと思う。ハワイやグァムは有名観光地のため日本語を話せる人はいくらでもいるし、設備がそろっているため、海外の雰囲気を味わって羽目をはずすのは簡単なのだ。でも、見たこともない海外の話を晃から聞くと心の中の「リアルな海外を見たいという願望」がどんどん強くなっていくのがわかる。マイアミのホステルで会った小人の見えるアラブ人の話、モロッコで人間不信になった話、ニューヨークのドラッグディーラー兼アーティストの話。そんな想像も及ばないような話が私の心に火をつけるのだ。

「ほんとに行っていいの?私ぜんぜん英語で話せないけど、ちゃんと面倒みてくれるの?」

「もちろん!平日は仕事があるけど、6時にはあがれるからその後飲みに行ってもいいし、休日にはアルカイビーチを散歩しに行こうよ。コーヒーがうまい店を知ってるんだ。」

「本当に!次のお盆時期には時間が取れそうだから、日にちが決まったら絶対連絡するよ!」

晃の話を聞くと私は毎回こう言う、でも未だに実際に行動に移したことはない。その時期になるとなんだかんだ忙しくなってしまったり、外せないイベントが入ってしまったりするのだ。日常に飲み込まれて、新しい世界が見たいという情熱が冷めていってしまったというのもあるだろう。

     その夜は本当に楽しかった。三年間のブランクは話しても、話しても埋まることなく、気がついたら終電間近となっていて、ちゃんとした別れの挨拶も済ませずに走り出した晃の姿を見送った。私は少しフラフラする体を線路下の落書きが描きなぐられた壁に持たれかけ、明日は二日酔いだなと思った。でも、こんなに楽しんだのだから、多少の二日酔いだって許すことができるだろう。下北沢は12時を過ぎても活気で溢れていた。私がこの町を住む場所と決めたのは、下北に集まる人種が好きだったからだ。ここの人々は自分に無理をしている人が少ない。厚化粧をして背伸びをしている高校生や、10センチ以上もあるハイヒールをはくOLや、自分をよく見せようと強がるホストもいない。毎日少し無理をして生きている私は住む場所ぐらい気取らなくていい場所がいいなと思い、下北沢に決めたのだ。5月を迎えるなま暖かい夜風が夕紀の長い髪を揺らせた。少しずつあの蒸し暑い夏へ向かっているのだなと気づき、そして、想像上の蒸し暑くない、太陽光に輝くシアトルのことを想った。





2.

    コーヒーを一口飲み、化粧台の上に戻した。まさか、今日に限って寝坊するとは思ってもみなかった。今日は毎週日曜日の浩一とのデートの日。慌ただしく自慢の長い髪にブローを掛け始める。現在10時、六本木での浩一との食事まで、後2時間。朝ごはんを食べている時間はない。TVをつける暇もない。どうにか、化粧とブローを完璧にしなくてはならない。ブローに約一時間、化粧もブローの合間にやればそんなに時間は掛からないだろう。服ももう決まっている。誕生日に買ってもらったCHLOEの黒いタイトなワンピースに、太目のベルト。金縁の入ったヒールにカーディガンを羽織っていこう。浩一の前では「いい女」でいなければならない

    六本木に着いたのがちょうど10時だった。レストランまで歩く時間遅刻してしまう。連絡しなくても浩一は怒ることはないが、念のため、メールで遅刻を伝えておく。これで、今夜の駄目だしが一つ増えた。私は浩一とのデートの後に、自分の反省点をみつける癖がある。今までいくつもの反省点を見つけて直してきた。しかし、いまだに、反省点が見つからない完璧な日が訪れたことはない。「いい女」になるにはまだまだ道が長そうだ。今朝、慌ただしかった分だけ自分の化粧と服装が気になり始める。しかし、その答えは六本木の男たちの視線が教えてくれる。大丈夫、今日もいつも通り視線を感じる。

    エレベーターを降りてレストランへ入ったとき、浩一はテラスでコーヒーを飲んでいた。時計を見ると10時10分を指していた。

「ごめんね。遅れちゃった。」

    浩一が顔を上げてこちらを見る。

    「おせーなー。」

    浩一は笑って答えた。そして、何気なく顔から下へ視線が降りていく。これが一つ目の関門だ。浩一には人の身なりをチェックする癖がある。本人は気づいていないかもしれないが、気に入らない箇所があると、そこで一度目線が止まる。目線が止まらずに普通に会話が始まれば関門突破というわけだ。


    「そうそう、昨日ね、晃に会ってきたんだよ。」

    「へー、あいつ帰ってきてるんだ。」
    そっけなく答えた。

    「まだ帰ってきて間もないらしい。雑誌の打ち合わせで日本に戻ってきたんだって」

    「雑誌の打ち合わせ?あいつちゃんと仕事してんの?」
    そう、晃は長い間、定職についたことがなかったらしい。前に日本に帰ってきたとき、晃は似顔絵屋をやって生き延びていたなんて言って笑っていた。

    浩一はちらっと、時計を見て、自分の質問した答えを待つことなく続けた。

    「なんか食べよっか?」

    「うん。私カルボーナーラと白ワイン」

    イタリアン料理の店「パロルーン。」どこかの民族の言葉で「幸せ」という意味らしい。浩一に行きつけの店として数年前に連れて来てくれて、それ以来、ここのモチモチしたスパゲティーに嵌ってしまい、浩一と昼間に食事をする時はよくここへ来ている。 

    「昼真っからワイン?」

    「だって、浩ちゃんが「二日酔いに一番利く薬は、お酒だって」教えてくれたんじゃない」

    「とは言ったって、日曜の昼真っからお酒飲むなんて、廃人になっちゃうぞ。」
    そう言って、手を上げてウェイターを呼んだ。なんだかんだ言っても、お酒が好きな浩一はペペロンチーノと白ワインを頼んで、夕紀に笑いかけた。

    「廃人にカンパーイ。」

    東京の白みがかった青空の下、二人は白ワインに口をつけた。8階ある「パロルーン」のテラスからは、空が広く見えてとても気持ちがよかった。

    「そうそれでね、晃ちゃんの話なんだけど。」

    「ああ、仕事してるんだっけ?」

    「そうなの、シアトルで雑誌作ってるらしいよ。」
    
    ワインが喉を通って、胸を熱くさせる。昼間に飲むお酒はよく回る。何も入っていない胃の中でお酒が回っているのがわかる。

    「へー、雑誌か。どんな雑誌なの?」

    「なんか、ファッションとアート雑誌らしいよ。そこで、アート・ディレクターしてるんだって。日本で言ったら編集長みたいなもんだよ。すごくない!?」

    浩一の表情が曇ったのがすぐにわかった。

    「編集長といっても、会社の大きさによってさまざまだからね。お金をもらうためだったら、雑誌を作るよりも、雑誌を取り扱う会社で上に立ったほうが儲かると思うけどな。それに、その仕事って一時的なものでしょ?この時代、海外で仕事の経験を持っている人なんていくらでもいるから、シアトルの小さな会社で編集長務めても、キャリアとしては弱いし、日本では通用しないよ。」

    しまった、と思った。何年も晃の話をしないので忘れていたけれども、浩一は晃のことが嫌いだったのだ。中学時代あんなに仲良くしていたのにもかかわらず、晃が高校を中退した後のある日から、二人は遊ばなくなってしまった。そして、気がつくと晃はまともな別れの挨拶もないまま日本からいなくなっていた。受験がひと段落して、大学に入学したすぐ後に浩一に何があったのか聞いてみたが、「別に何もないよ」と言われ、それで、会話が終わってしまったことがあった。浩一の機嫌は損ねたくなかった、でも、少しお酒も入り増幅された好奇心が私の背中を押した。

    「なんで、そんなに晃ちゃんのことが嫌いなの?」

    「別に嫌いじゃないよ。」

    「だって、晃ちゃんの話すると、浩ちゃんすぐ機嫌悪くなるじゃん。」

    「別に機嫌悪くないよ。」
    沈黙が続き、そして、浩一がまた話し始めた。

    「ただ、あいつは間違った道へ進んでしまったんだ。それも自信満々にだ。この世の中、楽して生きていけるほど簡単じゃない。ちゃんとした道を通らないと、自分の理想の人生は得られないんだ。落とし穴だってたくさんある。早稲田の卒業間近になってバイクで事故を起こして死んでしまった奴だっている。麻薬に手を出して捕まってしまった奴だっている。一度間違えたら、後戻りはできない世界なんだよ、ここは。俺は若い頃あいつに言って聞かせたんだよ、だけどあいつは聞く耳を持とうとしなかった。ただ、それが悲しいだけだよ・・・。」

    「でも、俺は・・・・。」
    何かを言いかけた。

    そこで、二人の頼んだスパゲティーが運ばれてきた。いつの間にか、底をついていた私のワイングラスを見て、ウェイターは新しいグラスについて尋ねた。私は断った。きちんとアイロンのかけられた服を着たウェイターは軽く会釈をして下がって行った。夕紀は浩一と目が合ったが、なんとなく目を逸らして、空を見た。空には薄い雲がかかり始めていた。晃の顔が思い浮かんだ。無精髭の生えた顎、後ろで縛られた長い髪、擦り切れたジーパンにTシャツ、確かに普通ではない。でも、間違った道へ進んでいるのだろうか?間違った道へ進んだ人間があんなに楽しそうな笑顔を浮かべることができるのだろうか?

    「さぁ、食べようか?」
    浩一はいつの間にか、いつもの顔に戻っていた。

    私たちはいつものように会話を始めた。しかし、私の頭の中では晃と浩一の変わってしまった関係について考えていた。同じ場所から歩き始めた二人は今、まったく別の次元にいるのだ。その事が、とてもひどい神様の仕打ちのように思えた。浩一は「それが、悲しいだけだよ。」と言った。でもそれは違うような気がする。浩一は悲しんでなんかいないと思う。じゃあ何なのかと聞かれても答えることはできないが、ウェイターが来る前に言いかけた言葉の中にきっとその答えを知る鍵があったのだろうな、と思った。



3.

    「大人になるって、何だろうね。僕は大人になるのが怖いんだ。」

    晃が呟いた時、私は川上から流れてきた草を眺めていた。遠目から見ると、まったく動いていないように見える多摩川の水は予想より速く草を流していった。


    「怖くなんかないさ。大人になったらもっと楽しいことがいっぱいできる。」
    浩一は川の流れを見たまま、答える。

    「晃ちゃんはなんで、大人になるのが怖いの?」
    私は晃のほうを向いて尋ねた。晃は向こう岸の上に広がる南の空の奥を見ていた。そういえば、中学時代の晃の目はいつも遠くばかり見ていた。

    とても遠くの車の音。魚が跳ねる水の音、子供たちの歓声。風のそよぐ音。それ以外は何も聞こえない。都会の雑踏から遠く離れ、そこだけは時間が止まっているのかの様に感じられた。ただ夏の多摩川の流れは速い。気がつけばさっき目の前までやってきた草は川下へ流れてしまって、もうすぐ見えなくなってしまうだろう。それでも、私は目を凝らして小さくなった草を追っている。とても暑い日だった。しかし、遊歩道から少し降りたコンクリートの上に座っている三人は日ざしで汗が頬をつたっても誰も動こうとはしなかった。

    「わからない。大人になれば、いっぱい知識も増えて、友達も増えて。楽しいこともいっぱいあると思う。でも、何かを無くしてしまうような気がするんだ。今僕たちがもっている大事な何か・・・。」
    晃はうつむく。

    「それが、大人なになるってことだよ。晃は見えない将来を怖がってるだけさ。ちゃんと目的を持っていれば、何も怖いことなんてない。」
    浩一は相変わらず、川のほうを見ている。
    私は何も言わない。

    「浩ちゃんはいいよね。頭もいいし、友達もいっぱいいる、ちゃんとした目的もある。でも、僕にはないんだ。・・・・。」
    こんなことを言う晃はあまり見たことがなかった。いつも貪欲に楽しいことを探している晃にはいつも笑っているイメージがあった。

    「大人になりたくないな・・・・。きっと大人になったって頭ごなしに命令されるのは変わらない。もう、うんざりだ・・・・。」


    私たちはあの時代、息もつかぬ速さで「大人」と言うものになっていった。しかし、規制するための言葉が「子供」から「大人」へ変わっただけで、確かに私たちは何も変わらずに規則に縛られ続けていた。浩一は言った「力を持たない俺たちが命令されるのはしかたがない、だから、俺が大人になった時には誰にも何も言わせないぐらい力を持ってやるんだ。それが俺の目的なんだ。」あの頃から浩一は自分の道が見えていたのだろうか?浩一は今、その頃描いた道の上を進んでいるのだろうか?私の目的ってなんだったのだろうか?きっと、そのときの私はこう答えるだろう「ピアノの先生になるのが私の目的。」

    夕日の光が目にしみて目を開けたとき、私は泣いていた。シャワーを浴び終わった浩一が驚いた顔で私を見ている。

    「どうしたの?」

    私はベッドに横になったまま、夢の続きを求めるようにどことなく天井を眺めていた。天井の花柄の模様は太陽の光を失って黒ずみ始めていた。

    「夢を見たの。三人で多摩川を見ていたの。」

    「俺と晃と夕紀でよく行った狛江の近くの多摩川?」

    私は頷く。

    「それでね、晃ちゃんがとてもかなしそうに言うのよ。「俺には何もない」って。私は浩ちゃんの背中を見て、同じ道を走ってきた。でも、晃ちゃんはずっと一人だったのかな、自分の道を見つけられたのかな?」

    時計を見ると4時半を回っていた。大きな窓から入ってくる夕日がMYUMYUの大きな紙袋を照らしている。

    私たちは「パロルーン」でスパゲティーを食べた後、前からねだっていたMYUMYUのバックを見に行った。みんなが欲しがっている好評のバックだった。でも、ブランド物のバックともなるとそう簡単には手が出せる値段ではない。だからこそ欲しかった。そして、それを手に入れるのが私のポジションだと信じていた。

    あんなにねだって浩一に買ってもらったMYUMYUのバック。みんなが欲しがっていたバック。絶対に自慢してやろうと思っていた。あんなにうれしかったのに。夢に出てきた晃の言葉が気になって、自分が誰だかわからなくなってしまった。何を求めているのが私なのだろう。怖くなって浩一の首に腕をまわし、キスを求める。浩一の薄い唇がふれる。なぜだかとても悲しい。浩一の手が腰へまわり、力強く引き寄せた。求められるのって気持ちがいい。こんな悲しい気分の時に誰にも求められなかったら、私は壊れてしまうかもしれない。

    (もっと、求めて。もっと、もっと。)

    私も浩一の頭へ手をまわし何度もキスをした。キスを重ねるごとに心の温かさ戻ってきたような気がした。浩一の手が胸に触る。私は耳元で大きく吐息をつく。こういう時は抱かれるに限る。SEXはなにもかもを忘れさせてくれる。次に起きた時にはいつもの自分に戻っていることを願い、身をゆだねた。


短編小説:「蟷螂と召使」

2009-06-05 07:39:25 | 言葉



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先週、アメリカで会った黒人の友達レイと再会し、小説家のジェイの話を聞いた。

実は、彼らは故郷が同じで、アメリカ中部の貧しい町で生まれた。若者のほとんどはアーミーに行くその町では、学校の設備も十分に整っていなく、まともな勉強もできなかったと彼は、そんな深刻な問題を「10年以上も前の事だ」と笑いながら話した。僕たちはカーナビーストリートから一本隣の道にある、地下のパブで話していた。ロンドンでは珍しく静かで落着けるパブだ。彼はパイントのギネスビールを片手に身を乗り出して話し、僕はゴールデン・バージニアの巻きタバコを巻きながら聞いていた。彼とジェイは高校のときに初めて会った。教育とは言えないような悲惨な学校生活を中学まで体験したレイは勉強に飢えていて、毎日のように図書館にこもって勉強をしていたらしい。

「授業中に先生が言うんだよ「「いつか俺たちは、この国を白人から取り戻さなくっちゃいけいないんだ、そのために俺はお前たちの前にこうして立っているんだ!」」ってね。この時代にだぜ。まったく嫌になっちまうぜ。そんな油を吸ったキッチンの壁みたいにベトベトのドロドロの心を持った先生がいっぱいいるんだよ。それで、授業中彼らの話を聞くとわかるんだよ、そのベトベト加減がさ。いつの間にか、自分の心もそんな風にベトベトになってしまうんじゃないかって、怖がったもんだね。そんな中学校に比べたら、高校は素晴らしかったよ。制服もあるし、女の子もいるし、体育館も図書館もあるんだぜ。」
僕が学校のことについて聞くと彼はそう答えた。

ジェイも同じように図書館に籠もっていたらしい。彼が図書館へ行くとジェイはいつもの窓際のソファで淡々と本を読みふけってた。彼らはいつしか、挨拶するようになり、話すようになり、夢を語るようになっていた。

僕は5本目の巻きタバコを巻き終えて、彼を一服に誘った。ビールを片手に裏手のドアを出て地上に上がる。5月にしては肌寒い風が通り過ぎて、僕は帽子を少し深くかぶる。

「ジェイと俺はいつでも一緒だったよ。本を読みつかれたらバスケットをしにいくんだ。あいつもなかなかうまいんだけどね、俺には敵わなかったな。」

「いや、それだけの身長があって、負けたら恥だろ。」
僕は横槍を入れる。

「俺はタッパだけじゃないぜ。おれのすごさはジャンプ力と、俊敏なドリブルにある。」
レイは笑いながら黒い口からゆっくりと煙を吐き出す、煙は春風に撒かれて無言で姿を消す。

アメリカ中部の農場も作れない場所には、今にも枯れそうな草が生えた野原が永遠と続く。街頭もない、雲が流れる音が聞こえてきそうな野原だ。高校卒業の日、彼らは親の古びた車を借りてその野原までやってきた。その頃には他の友達は軍隊へ入り、みな高校からいなくなっていた。二人は地平線を眺め、友情を確かめ合い、夢を語り合った。

「その時話した夢は、俺が科学者になるで、ジェイは小説家になるだった。そうれでどうだ、あいつは今じゃベストセラー作家だぜ。アメリカじゃ、ほとんどの人間がやつの名前を知っているだろう。別荘も二、三件も持ってるし、故郷に住んでいた親のために一軒家をサンフランシスコに建ててやったらしいよ。すげーよなー。若い頃に見た夢を本当に現実にしちまうんだからなー。数年前、本当にたまたまジェイに会ったんだよ、ニューヨークでさ。俺はいとこのばーちゃんが亡くなったんで、旅行ついでに葬式に顔を出してきた帰りだったよ。マックでランチを食って、ワールドトレードセンタービル跡でも見に行こうと思って歩いてたら、タクシーから顔を出して声を掛けてくるやつがいるだよ、見るからに金持ちそうな奴がさ。はっきりいって俺には金持ちの友達は一人もいねーんだ、だから、人違いだろうと思って、すぐに目を逸らしたよ。そしたら、奴は言うんだ。“Yo- Nigger. I came to this far out man!”その瞬間にやっと気づいたよ。俺のことをニガーって呼ぶやつは一人しかいないってね。ジェイはその後、なんとかって言うお偉いさんと食事があるから、明日の9時に泊まってるホテルに来いっていうんだ。俺は「明日はマイケル・ジャクソンとのアポを断って、お前のために少し時間を空けてやるよ」って言ってやったよ。」

僕たちはパブへ戻り、レイのために一杯おごってあげた。パブは日本人の誕生日会が行われるらしく、アジア系の人間で込み合い始めていた。

「ジェイは高校のときからなんも変わっていなかったよ、それどころか、もっと子供に戻ってるんだ。目をこんなに輝かせて次の小説のストーリーを話してくれたよ。俺はちょっと感動しちまってさ。なんつーかな、こんな世界でこいつは誰よりも楽しんで生きてるんだなって思ったらさ。金もあるし、綺麗なワイフもいるのにきどったところが少しもなかったよ。話も盛り上がってさ3時間なんてあっという間に過ぎちまったよ。11時を過ぎて演奏者も片づけをし始めた頃に俺はジェイに聞いたんだよ。「お前はすげーよ。ガキの頃の夢を本当に叶えちまうんだもんな。いったいどうやったら、叶えられるんだよ?」ってね。そうしたら、ジェイの奴なんていったと思う?」

僕は黙って首を振った。-まったく想像もつかない―

「あいつはなんと「あたりまえじゃねーか」って答えたんだ。「あれから十年もたつんだぜ、十年もあったら、何でもできるし、何にでもなれるよ!」俺はおったまげたね。確かに十年は長かった。俺はこの十年ですげーいっぱいのことをしてきたけど、同時にさ、何もしてきていないような気がするよ。」

ふと、沈黙が僕たち二人を包んだ。レイが作り出した沈黙だ。僕は底をついたパイントを持ち上げ、なめる程度のギネスで飲み、時間を確認した。10時を回っていた。誕生日会で集まった日本人の何人かがトイレに集まっている。どうやら、主役の女性がトイレから出てきていないらしい。そんな会話が遠くから聞こえた。そして、彼が10年を振り返るには十分すぎる時間が流れた時、おもむろに口を開いた。

「でもな、人間なんて平等にはできていないんだよ。同じように10年を過ごしても、夢を叶えられる奴も、叶えられない奴もいる。いや、時間だって、きっと、平等に流れていないんだ。5年間で10年分の経験をする奴もいれば、30歳を過ぎたって今だにガキの奴もいる。知ってるとは思うけど、俺だって大学までは優秀だった。奨学金でシアトル大学を出た。でも、大学院まではいけなかった。行く金もなかったし、黒んぼはいつでも損な役回りなんだよ。そんで今はこれだよ。」

レイはモップをかけるしぐさをした。彼は僕が通っていたコミュニティーカレッジの清掃員なのだ。

「この仕事だってわるかーない。十分な生活費だって稼げるし、安く学校のレクチャーにも出席でいる。でも、俺は科学者にはなれなかった。」また、沈黙がレイを包む。「そう、ジェイは特別なんだ。あいつは普通とは・・・・俺らとはちがうんだよ。ガキのころからあいつだけは違うもんを見ていた。あの頃から10年後の自分だって見えてきたかもしれない。」

「普通の奴とはちがう」レイは自分で確認するように一人呟いた。そして、ギネスビールから視線を上げて僕を見た。

「なぁ、お前はどう思うよ?」


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実はこの話には続きがある。
その問いに僕はこう答えている。
「俺だったら5年で夢を叶えられるね。」
そして、レイは少し悲しい顔をした。

しかし、あえてその部分は省かせていただいた。小説という形式を取ったこの文章は(読者に直接的に問いかける)疑問文で終わったほうがより僕の言いたいことが伝わると思ったからだ。

さてさて、みなさんはどう思いますか?