サカキバラ警部がウエイターを呼んで、私はアイスコーヒーを頼んだ。机の上には飲みかけのコーヒーカップがふたつ置いてあった。
私はまず、今日呼ばれた理由を聞いた。
「サカキバラさん、ぼくは今日、何を話したらいいのでしょうか?」
警部は人懐っこい顔をしながら言った。
「ヨウコさんは明らかに自殺と思われるのですが、理由がわからんのですよ。遺書もないし、両親に聞いてもそれらしい原因はわからない。それでヨウコさんのまわりの人にいろいろと聞いているわけですよ。まあ、すべての自殺者の理由がわかるわけではないのですが」
私は警部の丸い顔を見ながら、また聞いた。
「その―、こんなことを聞いていいのかよくわからないのですが、ヨウコさんはどんな感じで、その、発見されたと言うか―、その時の状況と言うかー」
私は言葉の最後の方がしどろもどろになってしまった。
「ミツヤさん、ヨウコさんの家に行ったことがありますか?」
私はヨウコさんと初めて出会ったあの日のことを思い出し、少し恥ずかしくなった。
「一度だけ行ったことがありますが、ちょっと立ち寄ったくらいでして」
サカキバラ警部は私の顔を見て、何故か頷いた。
「ヨウコさんが亡くなったのは、6月3日の未明だと思われます。発見されたのは朝6時半くらい。いつもの朝食の時間にヨウコさんが来ない。母親はキッチンで何回かヨウコさんを呼んだが、返事がないため、まだ寝ているのだと思い、2階にあるヨウコさんの部屋に起こしに行った」
サカキバラ警部はまるで何かの調書を読んでいるように、唐突に話し出した。
「母親はドアをノックして、何回か呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった。ヨウコさんの部屋は内側から鍵がかかって開かなかった。母親が鍵がキッチンの戸棚にあることを思い出して、キッチンにもどり戸棚を調べたが、鍵はそこになかった」
その時、ウエイターがアイスコーヒーを運んできた。少し乱暴にテーブルの上にコップを置くと、無言で立ち去った。
「ヨウコさんの部屋には鍵がついていたんですか?」
私はそう聞いてみた。
「ええ、鍵がついていました。しかし、母親に聞いたところ、ほとんど鍵をかけたことはなかったそうです」
私はアイスコーヒーをストローで少し飲んだ。
「ヨウコさんの母親は心配になって、父親を呼んだ。父親は前の日、会社の仕事を持ち帰って、夜、書斎で仕事をしていた。それでそのまま書斎で寝ていたそうです」
私がヨウコさんの家に行ったのは、初めて出会ったあの夜だけだ。まだ新しい2階建ての家だった。その時はリビングだけしか見ていない。書斎なんてものがあったのは気づかなかった。
「それで、父親が起きてきて、ヨウコさんの部屋のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて、やはり開かない。何度かノックして、呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった」
私は無言でサカキバラ警部の次の言葉を待つ。
「ここまできて、ヨウコさんの両親は、ちょっと尋常ではない、娘に何かあったのかと不安になり、父親はドアに体当たりをして、強引にドアを開けたのです」
サカキバラ警部はここまで言って、コーヒーを一口のんだ。クワタ刑事は興味のなさそうな顔をしながら、髪をいじっていた。
「ヨウコさんの部屋は6畳のフローリング。ベッドと本棚、そして小さなテーブルがある。ヨウコさんはテーブルの横に横向けに倒れていました。机の上には大量の睡眠薬とブランデーのボトルが置いてありました」
私は、気になっていた質問をサカキバラ警部に向けた。
「その、ヨウコさんの死因は睡眠薬の飲みすぎなんでしょうか?」
警部はまたコーヒーを飲む。クワタ刑事はちょうど2本目のタバコに火をつけたところだった。
「睡眠薬はおそらく、かなり大量に飲んでいたでしょう。アルコールもかなり飲んでいたようです。しかし直接の原因は嘔吐した時に、気管を嘔吐物がふさいでしまったための窒息死。これが検死の結果です」
私は、いつか聞いたサンタの言葉を思いだしていた。睡眠薬では死ねない。ヨウコさんの死因はサンタの想像通りだった。
「その睡眠薬なんですが、普通の薬局には売っていません。医師に処方されなければ、手に入れることができないものなんです。しかし、ヨウコさんは最近、医師にかかった記録がない」
サカキバラ警部は私の瞳を覗き込んで、そう言った。
「ミツヤさん、状況は自殺なんですが、原因がわからない。どこからヨウコさんが睡眠薬を手に入れたか、それもわからないんです」
クワタ刑事がタバコを吹かしながら、突然、割り込んできた。
「ミツヤさん、ヨウコさんと付き合っていたんでしょ。彼女が何を悩んでいたか、どこから睡眠薬を手に入れたか、そんなことを知っていたら言って欲しいんだけど」
彼女の大きな瞳が私を見つめていた。その刺すような視線を感じて、私は思わず目をそらした。
「いや、ミツヤさん、些細なことでもいいんです。何かありましたら、お願いします」
サカキバラ警部は引きつった顔でクワタ刑事を一瞥して、その後、私の方には笑顔を見せた。
私はまず、今日呼ばれた理由を聞いた。
「サカキバラさん、ぼくは今日、何を話したらいいのでしょうか?」
警部は人懐っこい顔をしながら言った。
「ヨウコさんは明らかに自殺と思われるのですが、理由がわからんのですよ。遺書もないし、両親に聞いてもそれらしい原因はわからない。それでヨウコさんのまわりの人にいろいろと聞いているわけですよ。まあ、すべての自殺者の理由がわかるわけではないのですが」
私は警部の丸い顔を見ながら、また聞いた。
「その―、こんなことを聞いていいのかよくわからないのですが、ヨウコさんはどんな感じで、その、発見されたと言うか―、その時の状況と言うかー」
私は言葉の最後の方がしどろもどろになってしまった。
「ミツヤさん、ヨウコさんの家に行ったことがありますか?」
私はヨウコさんと初めて出会ったあの日のことを思い出し、少し恥ずかしくなった。
「一度だけ行ったことがありますが、ちょっと立ち寄ったくらいでして」
サカキバラ警部は私の顔を見て、何故か頷いた。
「ヨウコさんが亡くなったのは、6月3日の未明だと思われます。発見されたのは朝6時半くらい。いつもの朝食の時間にヨウコさんが来ない。母親はキッチンで何回かヨウコさんを呼んだが、返事がないため、まだ寝ているのだと思い、2階にあるヨウコさんの部屋に起こしに行った」
サカキバラ警部はまるで何かの調書を読んでいるように、唐突に話し出した。
「母親はドアをノックして、何回か呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった。ヨウコさんの部屋は内側から鍵がかかって開かなかった。母親が鍵がキッチンの戸棚にあることを思い出して、キッチンにもどり戸棚を調べたが、鍵はそこになかった」
その時、ウエイターがアイスコーヒーを運んできた。少し乱暴にテーブルの上にコップを置くと、無言で立ち去った。
「ヨウコさんの部屋には鍵がついていたんですか?」
私はそう聞いてみた。
「ええ、鍵がついていました。しかし、母親に聞いたところ、ほとんど鍵をかけたことはなかったそうです」
私はアイスコーヒーをストローで少し飲んだ。
「ヨウコさんの母親は心配になって、父親を呼んだ。父親は前の日、会社の仕事を持ち帰って、夜、書斎で仕事をしていた。それでそのまま書斎で寝ていたそうです」
私がヨウコさんの家に行ったのは、初めて出会ったあの夜だけだ。まだ新しい2階建ての家だった。その時はリビングだけしか見ていない。書斎なんてものがあったのは気づかなかった。
「それで、父親が起きてきて、ヨウコさんの部屋のドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて、やはり開かない。何度かノックして、呼びかけたが、ヨウコさんは出てこなかった」
私は無言でサカキバラ警部の次の言葉を待つ。
「ここまできて、ヨウコさんの両親は、ちょっと尋常ではない、娘に何かあったのかと不安になり、父親はドアに体当たりをして、強引にドアを開けたのです」
サカキバラ警部はここまで言って、コーヒーを一口のんだ。クワタ刑事は興味のなさそうな顔をしながら、髪をいじっていた。
「ヨウコさんの部屋は6畳のフローリング。ベッドと本棚、そして小さなテーブルがある。ヨウコさんはテーブルの横に横向けに倒れていました。机の上には大量の睡眠薬とブランデーのボトルが置いてありました」
私は、気になっていた質問をサカキバラ警部に向けた。
「その、ヨウコさんの死因は睡眠薬の飲みすぎなんでしょうか?」
警部はまたコーヒーを飲む。クワタ刑事はちょうど2本目のタバコに火をつけたところだった。
「睡眠薬はおそらく、かなり大量に飲んでいたでしょう。アルコールもかなり飲んでいたようです。しかし直接の原因は嘔吐した時に、気管を嘔吐物がふさいでしまったための窒息死。これが検死の結果です」
私は、いつか聞いたサンタの言葉を思いだしていた。睡眠薬では死ねない。ヨウコさんの死因はサンタの想像通りだった。
「その睡眠薬なんですが、普通の薬局には売っていません。医師に処方されなければ、手に入れることができないものなんです。しかし、ヨウコさんは最近、医師にかかった記録がない」
サカキバラ警部は私の瞳を覗き込んで、そう言った。
「ミツヤさん、状況は自殺なんですが、原因がわからない。どこからヨウコさんが睡眠薬を手に入れたか、それもわからないんです」
クワタ刑事がタバコを吹かしながら、突然、割り込んできた。
「ミツヤさん、ヨウコさんと付き合っていたんでしょ。彼女が何を悩んでいたか、どこから睡眠薬を手に入れたか、そんなことを知っていたら言って欲しいんだけど」
彼女の大きな瞳が私を見つめていた。その刺すような視線を感じて、私は思わず目をそらした。
「いや、ミツヤさん、些細なことでもいいんです。何かありましたら、お願いします」
サカキバラ警部は引きつった顔でクワタ刑事を一瞥して、その後、私の方には笑顔を見せた。