水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

・シャーロック第2シリーズ第1話「A Scandal in Belgravia」を観てクスクス

2012-07-22 23:30:00 | BBC「SHERLOCK」&Benedict Cumberbatch

以下、ネタバレだらけです! ご注意!

しかも、やたらとアーサー・コナン・ドイルの原作と比較したりしてます。すみません!

……ということで、今年1月に書いた、「シャーロック」第2シリーズ第1話「A Scandal in Belgravia」の感想文の和訳です。といっても、あんまり厳密には訳してません(これは国会事故調の報告書じゃないので)。はしょったり、当時知らなかったことを追記してます(あとDVDコメンタリーの内容にも少し触れてます)。(以下、colourとcollarのくだりの間違いを直しました)(モリアーティとシャーロックの口パク会話について、追記しました)

 

・わははははははは! 第1シリーズのUK放送をリアルタイムで観ていた人なら、クリフハンガーで1年半も延々待たされた挙句の顛末が、これ! ビージーズ! Stayin' Alive! (しかもスティーブン・モファットは「わはは! ビージーズ、最高だろ!」って大笑いしててさ)。「生き続ける」って、これがモリアーティのモットーか? (……じゃないってのは後からわかるんだけど、これを最初に書いた時点ではそのことは知らないので)

・コメンタリーによると、クリフハンガーの顛末として電話が鳴るってのはみんなで考えたらしいけど、Stayin' Aliveにしたのは、プロデューサーのスー・ヴァーチュー(スティーブ・モファットの奥さんでもある)の提案と。誰かお葬式でいきなり誰かの携帯が鳴り始めて、着信音がStayin' Aliveだったっていうことがあったのだとか。

・モリアーティが電話をとってからのやりとり。@guruguru_gouldさんに教えていただいたんですが、英語版ではモリアーティとシャーロックが声を出さずに口パクでやりとりする箇所に、NHKの吹替版は声をあてていたんですってね。

 オリジナルでは「(Sorry)」「(It's all right)」と声なしでやりとりしているところに、吹替版では「悪いね」「気にするな」と台詞を口に出していたと。まあ……、意味はそうだし、確かに二人の口の動きだけでは日本語では何言ってるかわからないだろうけど……。あそこは、あんな状態の場面なのに、あんな敵対関係にある二人なのに、妙にリラックスした感じで(片方は銃を構えてるのに)、気心の知れた様子で通じ合っちゃってるのが面白いやりとりなんだけど……。吹替って難しいね。

・モリアーティ「Wrong day to die(今日は死ねない)」。「ブレードランナー」のロイの「Time...to...die」を連想。

・「Have you been wicked, your Highness」と言われてたアイリーンの顧客は誰? 「おいたをなさったんですか? 姫様」くらいかな、訳は。UK貴族うんちくしますが、「Highness」は「Royal Highness」の略で、その呼称がつくのは、王家の王子か姫のみです。たとえばハリー王子とか。ベアトリス王女とか。これのUK放送当時、「ピッパ・ミドルトン?」とか悪い冗談が飛び交ったけど、「Royal Highness」の呼称が本物でアイリーンの皮肉でなければ、それはあり得ません(ああ、ただしキャサリン妃はあり得るか……なんて。彼女はHer Royal Highness the Duchess of Cambridgeだから)。 UK貴族でない相手への尊称としての「Highness」だったら、対象は無限大。

・いかにもホームズものらしい、ほかの色々な事件のモンタージュ。これ書いてる時点でNHK版は未見なのでどう処理するのか知らないけど、それはともかくとして画面に浮かび上がる「The Geek Interpreter」の文字にひたすらクスクスクスクススクスススス……(BBC版のジョンのブログに詳細あり)。原作の「The Greek Interpreter(ギリシャ語通訳)」のもじりです。「geek」とは「ギーク」のことで、えーと、解説不要かな? ちなみに原作「The Greek Interpreter」は、マイクロフト・ホームズ初登場の回。

・同じく「ほかの事件」。「The Speckled Blonde!」とシャーロックがトーストかじりながらモグモグ。「まだらのブロンド!」。これもまさに番組中にジョンが書いてるブログ(BBC版、以下全て同)に詳細あり。これは原作の「The Speckled Band(まだらの紐)」のもじり。

 コメンタリーでベネディクトはここで、「ああ、ものを食べるんじゃなかった!」と後悔。グラナダ版のホームズがいっさい食べ物を口にしないのが、彼の中に強い印象を残してるみたい。

・もひとつ「ほかの事件」。劇場でシャーロックの皮肉炸裂。「じゃあ今度のこれは何て呼ぶんだ? Belly button murders? (おへそ殺人事件?)」。返す刀のジョンの台詞は翻訳不可能なので、NHKの担当の人に同情。「The Navel Treatment?」というのがジョンの代案の事件名。そして「navel=おへそ」です。シャーロックが先に言った「belly button」を言い換えてる。お前は落語家か。しかも「navel」は発音が「naval」と全く同じなので、よって「The Naval Treaty(海軍条約事件)」という原作の題名のもじりにもなってる。この回の脚本はモファットさん担当ってことだけど、このくだりを誰が考えたにせよ、冴え渡りすぎ! さらに、 「The Naval Treaty」は第1シリーズ第3話「The Great Game」が取り入れていた原作のひとつ。

・この劇場舞台裏で、シャーロックは誰かの衣裳のディアストーカーを拝借。顔を隠そうとしたのね。この時とられた写真のせいで「あの帽子の探偵」って世評がついて回ってしまってプンスカするわけだけど、自分のせいじゃん!

・ここで次々に映るいろんな新聞記事、止めて見てみると、ジョンのことを「37歳」と書いてる。

・ちなみに「ディアストーカー=ホームズ」というトレードマークがそもそも、この「シャーロック」の世界には存在していない不思議。原作でホームズがディアストーカーをかぶるのはシドニー・パジェットの挿絵でのみ。しかもロンドンでは絶対にかぶりません。ビクトリア時代の「紳士」の服装ルールはきわめて厳密。都会と田舎では着るものがまったく違う。

・舞台裏の通路にかかってた蛍光色の警察コートも、もしかしてこの時、失敬した? 後でアイリーンとの初対面のため「戦闘服」をあれこれ自室でとっかえひっかえしてる時に、着てる。劇場でパクったんじゃなければ、別の機会に? 警察の制服あれこれ常備してたら、やだわー。

・暖炉の上に「Cluedo」のボードがぶらさがってて、クスクスクス。CluedoとはUKの超定番なミステリーボードゲーム。お屋敷で起きた殺人事件を解くゲームが超定番というあたり、ミステリー好きのイギリスらしい。「ミス・スカーレット」や「ミセス・ピーコック」など登場人物の名前は、それだけを何のレファレンスなくして使っても、「ああ、クルードね」と誰もが分かる。これをジョンとシャーロックが暇つぶしでやったのね。そしてジョンは、もう二度とお前とはやりたくないと。

・221Bの日常風景。冷蔵庫に親指入りジップロック。技師のもの? 原作に「The Engineer's Thumb(技師の親指)」というエピソードあり。

・ハドソンさんが2人を「Boys!」と叫んで呼ぶのが大好き。一番最初の「A Study in Pink」から比べて、なんて気安く親密になったことか。

・ロンドンを出て。えーーーー? あんな原っぱにWiFi???? そして要するに凶器はブーメランだったわけですが、もともと原作には「オーストラリア」が頻出する。そもそも大英帝国の最盛期(つまり衰退直前)が描かれているので、原作を読むとロンドンはあらゆる国の人々が行き交う巨大国際都市として描かれてるし、植民地がらみの話もとても多い。オーストラリアは非常にエキゾチックな場所として描かれていて、人々はそこへ移住し巨万の富を得たり、決して許されない悪行を犯した末に過去を隠してイギリスに戻り、復讐に怯えながら暮らしたりしている。「The Boscombe Valley Mystery(ボスコム谷の謎)」とかがそうだったかな。

・この回に出てくるいろんな言葉遊びが大好きです。翻訳者泣かせだろうけど。
「It's for you (あなたにです、と電話を手にしながら)」
「ああ、ありがとう(電話に手を伸ばす)」
「いえ、ヘリの方です」

・謎のメッセンジャーをシャーロックが検分。「Three small dogs」。つまりは女王のコーギー犬ですかね?

・「バッキンガム宮殿」での場面はもう、抱腹絶倒ですね。ジョンがしゃべってる間、シャーロックがクックックッと笑い続けるのが好きだ。メソッド演技か、それともベネディクトが笑ってるのかw

・この回で一番好きなギャグ。
"What are we doing here?" (ここで僕たち、なにしてるんだ?)
"I don't know." (さあね)
"Here to see the Queen?" (女王を見に来たとか?)
"Oh, there he is." (ああ、そこにいるぞ)

ゲラゲラゲラゲラ。説明が必要かな。「Queen」は「女王」だけじゃなくて、「女王みたいに気取った奴」とか、「すごく気取ったオカマ」の意味も。言われてる相手が相手だけに(くすくすくすくす)。

(言われた側のマークはDVDのコメンタリーで「The implications... (深読みをするとね……)」と。クスクスクススス。

・「And my client is?(それで僕の依頼人は?)」
「Illustrious.(高名ですよ)」
はいこれは原作の「The Illustrious Client(高名な依頼人)」のもじりですね。原作で恋愛騒ぎのスキャンダルに巻き込まれてる「高名な依頼人」とは、エドワード7世だったのでは説がかねてから。

・もひとつ「他の事件」。「The Case of the Aluminium Crutch(アルミの松葉杖事件)」。詳細はジョンのブログに。もとは原作の「The Musgrave Ritual」に事件名だけ出てくる、いわゆる「語られない事件」のひとつ。ちなみにこのジョンのブログ記事に登場する「シドニー・パジェット」とはもちろん、原作の挿絵画家へのオマージュ。

・「Get off my sheet!(シーツから降りろ!)」 よく使う表現「get of my back!」の言葉遊びかな。「get off my back」は文字通りの「背中から降りろ」ではなく、「ほっとけ! 構うな!」とかの意味。

・ちなみにベネディクトが演技で全裸になるのは初めてでもなければ、二度目ですらなく。というかイギリスの俳優って、全裸と女装とゲイ役が必須項目の登竜門。

・これの放送後に出たインタビューでアイリーン役のララ・パルヴァーは「Benedict is always naked(ベネディクトはいつも裸だから)」。確かに。

・「宮殿」場面のロケ地はこちら

・映画『Tinker Tailor Soldier Spy』をご覧の方は、ベネディクトことシャーロックことピーター・グィラムが「You do have a marginally secret service(あなたたちには、辛うじて秘密っていえる情報機関があるじゃないですか)」と言うのを聞いて「へへっ」と笑ったかも。

・この回のテーマのひとつ。「シャーロックはバージンか」。
「Sex doesn't alarm me.(僕はセックスを警戒したりしない)」
「(ふふん) How would you know.(そんなこと、君にどうして分かる)」

……いいんだけどさ、兄ちゃんあんただって、似たようなもんじゃないんか……。

・いやはやしかし、この脚本を訳すのが仕事じゃなくて良かった良かった(あのぶどうは酸っぱかったんだい!)。だってシャーロックの「I'm not the Commonwealth」なんて、どう訳したらいいのものやら。
 「高名な依頼人」が喫煙者だというのは徹底的に国民には知られないようにしてきた、という前振りがあって、そこに「I'm not the Commonwealth」とシャーロックが返すんだけど、その訳が「僕は英連邦じゃない」じゃあ、意味通じない。「common wealth」ってのはあまねく公共の幅広い利益のための共同体=republic=共和国、みたいな意味がそもそもだけど、「common wealth」は「一般大衆」みたいな意味にもとれなくもなくて。「民草(たみくさ)」的な。そこらへんを含意にしての言葉遊びだと思います、これは。だからシャーロックが言いたいのは、「僕をそこら辺の連中と一緒にするな」なのかもしれないけど、それじゃあわざわざ「Commonwealth」を持ってきた面白さが消滅。いやあ、これは翻訳者泣かせだ。

・この宮殿場面を受けて、私が大っっ好きなファンgifアニメ。おお、女王陛下まで!

・アイリーンが引いてる、あのターコイズブルーのアイラインはいいなあ。

・宮殿からの帰路、車内でシャーロックは原作で最も有名な台詞のひとつを。「You see, but you do not observe(君は見ているけれども、視ていないんだよ)」。これは『ボヘミアの醜聞』に出てくるので、この回に登場するのはとても正しい(第1シリーズの「The Great Game」にも出て来ました)。

・互いに対面するため、基本的には同じことをやってるシャーロックとアイリーンの行動を対比させていく、ここから先の画面づくりはうまいねえ。

・シャーロックが何か言ってる時、ジョンはいつもその言外に「Punch me in the face(顔を殴れ)」って、暗喩的に聞こえてるって? わははははははははは。

・アイリーンは言葉遊びがお好き。要するに彼女は「ゲーム、遊び」が好きなのね。後半でシャーロックも言う、「She loves to play games」。

SMプレイがらみの言葉遊びが、このあとずっと最後まで何かと出てきます。ここではまず「Know when you are beaten」→「自分が負けたと自覚しなさい」が一義的な意味だけど、「are beaten」は「負けた」だけでなく、「打たれた、ぶたれた」の意味でもある。

・(この↓「colour」と「collar」をひっかけたシャーロックの台詞を、アイリーンのと間違えて書いてたので、直しました。@Lisianthus2012さん、ご指摘ありがとうございます!)

それからこれはSM関係ないけど、アイリーンのところに乗り込もうっていう割には「着替えてないじゃないか」とジョンに言われたシャーロック、「Now it's time to add a splash of colour (collar)」と。

「そろそろパシャッと色を足そうか」っていうのが一義的な意味だけど、次に、聖職者カラーをつけて登場するわけで、つまり「colour」と同じ音の「collar」とひっかけてる。つまり、ジョンに殴ってもらって傷=出血=色の「colour」に加えて、「add a collar」=聖職者のカラーを襟元に足そう、というダブルミーニング。

(釈明。なぜ間違えたかというと、1月に書いたこれを今回日本語にする際、改めて見直してひとつひとつ確認していなかったので。1月に書いた際は誰の台詞とか状況を説明してなかったので。言いわけ言いわけ)

・ちなみにホームズがアイリーンの家に侵入するため、負傷した牧師に扮するのは、まったく原作どおり。ニセの「火事だ!」騒ぎも原作どおり。CIAは原作には出てこない。

・シャーロックは牧師に扮してる(って、全然そうは見えないけど)。そしてアイリーンがシャーロックの襟カラーを外して言う「We're both defrocked」もまた、言葉遊び。聖職者を「defrock」するというのは「de+frock」、つまりその僧服を脱がせ聖性を奪い、資格を失わせるという意味。なので象徴的なカラーを外すのは分かり易い「俗化」の行為。と同時に「defrock」とは「frock=衣服」を脱がせるという意味にもなるので、全裸のアイリーンがシャーロックの襟を外したことで「私たち二人とも、脱いでしまったのね」という意味に。うまいなあ。そして翻訳者泣かせだなあ。

・全裸のアイリーンをシャーロックが読み取れないっていうのは、女視点からすると興味深い。シャーロック並みの観察眼のある女性ならもしかして、アイリーンのお肌の様子とか、メイクとかから何か読み取れたのでは? 私だって「ああルブタン履いてるな」ってのはすぐに気づいたし。ルブタンを履いてるってのはつまり、えーと、ルブタンが買えて、高級ブランドものが好きで、えーと……。

・アイリーンが「Brainy's the new sexy」といい、ジョンが彼女をみつめてニッコリ。そこでシャーロックが「schshshdh」と言い損ねて二人の注目を集めるのは、コメンタリーのベネディクトによると「わざと」だと。ジョンがアイリーンに色目というかモーションをかけはじめたのを察して(Watson starting to turn on the charm)と。

・北アメリカの外で北アメリカのアクセントを聞いたら、「アメリカ人ですか?」と尋ねるより「カナダ人ですか?」って尋ねた方がいいよ、とかつてカナダ人の友人に教わったことが。なぜならカナダ人の方が圧倒的に少なくて、かつアメリカ人に間違えられるのに飽き飽きしてるから。アメリカ人は逆にカナダ人とめったに間違えられないから、「いいえ、あはは」で済むからと。ほんとかしら(笑)。

・32-24-34。インチ。センチで言うと、81-61-86。まあステキ。

・DVDコメンタリーでマーク・ゲイティス「この撮影のあと、ララは実際、完全なヌーディストになったんだ。24時間いつでも。実を言うと、今僕たちもヌードで話してるんだ」と。

・「Vatican Cameos!」とシャーロックが叫ぶとジョンが伏せるんだけど、なにこれ? 最初はまるっきり意味がわからなかったですよ。今にしてみればこれは二人の間の符牒か何かなのかとも思うけど、(知る限り)説明されてない。本国放送後、マーク・ゲイティスがこれは原作『バスカービルの犬』でワトソンが並べる「未解決事件」だってツイートしてたけど、それじゃあ説明になってないっての。

・そしてこの場面から急速に、アイリーンのイヴリン・ソルト化が加速していく。

・拳銃にスマホに。ベネディクトはコメンタリーで、「ああもう、やたら小道具くるくるしてるなあ。癖なんだ。小道具大好きで。次から控えなきゃ」と(笑)。後の方では、お掃除用品のスプレー缶も。

・注射針は原作のホームズでおなじみですが、注射針をつきたてられて一服盛られてふらふらと倒れ込むシャーロックは、パイロット版『A Study in Pink』に。

・ここからまたいくつかSM言葉遊びが。
「The woman who beat you」=「あなたを負かせた女」=「あなたを叩いた女」
「Our hands are tied」=「僕たちにはなす術がない」=「僕たちの手は縛られてる」
「He was a bit tied up at the time」=「彼はそのとき少し、忙しかった」=「彼はその時、ちょっと縛られていた」

・シャーロックの寝室。ベッドの上にかかってるお免状、日本語です(これを放送直後に見つけたイギリスのファンたちのオタクビームときたら)。いったい何のお免状? ホームズで日本語と言えば「バリツ」というか柔道しかないじゃんと思っていたら、@lutenist_koideさんからこのページの情報をいただきました。わはは。これは、昭和40年に日本の講道館で初段の認定を受けた、実在する米空軍兵士、Jeffrey D. Beishさんの免状のようです。

シャーロックの美術スタッフはこれをネットで見つけるかなにかして、加工したんですかね? それにしてもオタクの調査力ってすごいわ。

・まだ薬の影響が切れていないのに無理やり起き上がろうとするシャーロック。「フランケンシュタイン」のクリーチャーみたいだねと、コメンタリーでマークに言われて、「そういうつもりじゃないんだけど……」とボソボソ恥ずかしがるベネディクト。でも後には自分でも「あれはちょっと似ちゃった」と認めてる。

・ちなみにベネディクトはこの時の「The woman woman(女の女だよ!)」が大好きな台詞だそうだ。私も好きだ(笑)。

・221Bで。大好きな場面のひとつ。


Mrs Hudson: "A disgrace! Sending your little brother into danger like that. Family is all we have in the end, Mycroft Holmes."
(なんてこと! 弟をあんな危険な目に遭わせるなんて。誰でも最後に頼れるのは家族しかいないんですよ、マイクロフト・ホームズ)
Mycroft: "Oh, shut up, Mrs Hudson." (もうハドソンさん、黙れよ)
Sherlock/John: "Mycroft!!!!"

この、マイクロフトがハドソンさんに無礼かつ親しげに「Oh, shut up」って言うのが可愛くて。そしてその無礼を「マイクロフト!!!」と叱責するシャーロックとジョンが可愛くて。続けて「でもまあ、黙れよ」と続ける失礼きわまりないシャーロックも。

可愛い可愛いばかり言っててもアレなんで、このやりとりについてちょっと私の解釈を。まず、腐っても<紳士の国イギリス>な感じが出てていいな~と。男性が女性に対して「shut up」などというのは、本当にあり得ない、見下げ果てたふるまいだ——っていう価値観がここで出てていいな~と(実際にこういうやりとり、見たことあります)。

……にも関わらず、よりによってマイクロフトが、しかもハドソンさん相手にこれを言ったっていうのが面白い。さらにあの言い方が面白い。すごく親密な感じがするんですよ。家族みたいな。家族ではないかもしれないけど、もう長年のつきあいがあるみたいな。「ああもう、うるさいよバアヤ」みたいな。

何が言いたいかっていうと、ここなんですけどね。そんなこと公式にはだーれも言ってないので単なる私の妄想ですが。マイクロフトともあろう男が、弟の家政婦ではない大家というだけの関係性の年長の女性に向かって、「shut up」ってあんな気安い感じで言うとはとても思えないので。もっと長年の、子供の頃からのつきあいだったら、あり得ますけどね。たとえば、ええ、ハドソンさんがかつてホームズ家のハウスキーパーだったり、兄弟二人のナニー(乳母や)だったりしたとかなら、全くあり得るでしょうが。

・コメンタリーによると、ララはアイリーンの「ア~ン」演技を電話で吹き込んだそうだ。わはははは。

・「ああ、弓使いの間違いがひとつひとつ見える……」とベネディクトin the コメンタリー。「来年までにもっとバイオリン練習する」とも。がんばれ。

・さて、クリスマス・パーティ。最初観たとき、シャーロックのモリーに対する態度があまりにあんまりで「うわあああ」となってたんだけど、何度も見返すうちに、ああそうか、彼はほんとの本当に、自分の態度が失礼で人を傷つけるものだと分かってないんだと気づいた。この辺をジョンが受け入れて補っていく感じが、今後の展開に関わってくる。「アスペルガー」という単語も、後の脚本に登場する。

・役者トリビア。これは後にBBCの「The Hour」(アンドリュー・スコットが少し出演)を観ていて気づいたんだけど、ジョンのこの時の彼女を演じているのはOona Chaplin、あのチャップリンの孫娘。OonaはThe Hourではドミニク・ウエストの奥さん役。

・それにしてもこの場面でのジョンのセーター!

・コメンタリーでマークたちが言ってて気づいた。シャーロックに奥さんは「体育教師と寝てるよ」と言われたレストラード。目の動きと表情に注目。考えて……考えて……ゲッ……て気づいてる(爆笑)。

・ああモリー大好き!!!!

・死体安置所での兄弟のやりとりを観ながらベネディクトがコメンタリーで、シャーロックの「humanisation(人間化)」もしくは人間らしくなっていくシャーロックについて。人間らしさを獲得していくことでシャーロックは弱点が増えていく、モリアーティに対して弱くなっていく、なのでシャーロックはやがて「自分の人間らしさを犠牲にして、孤高の戦士のようになっていく。それはなかなか素晴らしいことだと思う」って。

・ちなみに煙草を吸う場面は何度も何度も何度も何度も撮り直しで、もともとスモーカーなベネディクトもニコチンの過剰摂取で眠れなくなってしまい、なのに翌朝にはあの、座席表の推理場面を撮らなきゃならなくて、それは大変だったと。

・マイクロフトにまたしても変なところに連れ込まれたと勘違いするジョン。「Mycroft could just phone me, if he didn't have this bloody, stupid, power complex」という台詞の次のカットは、バターシー発電所。これも翻訳難しいなあ。「マイクロフトはただ電話すればそれで済むのに、なんとも馬鹿げた権力コンプレックスを抱えててね」というジョンの台詞の「power complex」は「権力コンプレックス」という心理学的な意味合いだけでなく、「エネルギー施設」という意味にも。つまりは発電所。

・死んでなかったアイリーンにジョン、「You were dead on a slab(台の上で死んでたじゃないか)」。でもジョン、あなた自身はそれ見てないでしょ。

・シャーロックを傷つけもてあそぶアイリーンに対するジョンの怒り、いいねえ。

・はいはい、ゲイじゃないしカップルじゃないのね。はいはい。

・アイリーンは自分はゲイなんだって言う。バイじゃなくて? ゲイだったんだけど、初めて惚れた異性がま、まさかシャーロック??? え、そういう話?

・221Bに戻ったシャーロック。ハドソンさんのお掃除道具にカメラが。あとで役に立ちます。

・ハドソンさんのしたたかさが素晴らしい。そして本当に家族みたいに勝手に冷蔵庫あけてなんかモグモグ食べるシャーロック(家に帰るなり足をドアマットで拭いてすぐ台所の冷蔵庫開けるのは、自分がいつもやってることとベネディクト・笑)。

・ハドソンさんがベイカー街からいなくなる?とんでもない。England would fall! (イギリスは滅びる!) モリーにしろハドソンさんにしろ、女たちが優しくて賢くて強い。いいねえ。

・目と目で語り合い、挑発し合うシャーロックとアイリーン。なぜ二人のアイコンタクトに割って入ろうと思ったのか分からないけど、ジョンがいきなり「Hamish. John Hamish Watson. If you're looking for baby names.(ヘイミッシュ。ジョン・ヘイミッシュ・ワトソンだ。もし赤ちゃんの名前を考えてるなら)」。

さて、Hamish。これは原作由来ではないけれども、もうほぼ定説というか多数説として受け入れられてると言っていいんじゃないかな。John H. Watsonの「H」が何か、初期のシャーロッキアンたちはにぎやかに論争していたのだけど、そこに推理作家ドロシー・セイヤーズ(Dorothy Sayers)が「Hamish」を提案。なぜかというと正典の「ねじれた唇の男」でメアリー・ワトソン夫人がよりによって夫のことを「James」と呼んだから(本当にコナン・ドイルはこういうのいい加減な作家だった)。

いったいなんで、ジョンであるはずの夫を「ジェイムズ」と呼んだんだ!と、初期のシャーロッキアンたちは楽しげに侃々諤々。そこで「H」問題と「James」問題を一気に解決するスーパーアンサーを提案したのがセイヤーズ。いわく、Jamesのスコティッシュ版はHamishだと。そして妻メアリーは、夫のミドルネームをイングランド風に言い換えて、愛称にしていたんじゃないかと。ゆえに「H」はHamishで、だからメアリーは夫を「James」と呼んだじゃないかと。

このものすごい強引な説明がなぜか受けて、以来「Hamish」がワトソンのミドルネームとして、ファンの間で定着。そしてもちろん、スーパーオタなスティーブン・モファットとマーク・ゲイティスはこれをいつか使おう使おうとワクワクしてたんじゃないかと。

・この場面のコメンタリーでモファット/ゲイティスはさらにシャーロッキアンおたくばなしを。ジョンのブログのカウンターが「1895」でずっと止まってるのは、それがホームズの世界における最高の年だから。初期の著名シャーロッキアン、ヴィンセント・スターレットの有名な「221B」という詩があるのです。ホームズの素晴らしい世界は「常に1895年なのだ」と結ばれている。カウンターは、この詩へのオマージュだと。ああなんて素晴らしきオタクたち。

・「I've never begged for mercy in my life (情けを乞うなんて一度もしたことがない)」とカッコ良く言い切るシャーロックだけど、次の回では早々に……。

・モリアーティがテキストに向かって「brrrrrrrr」ってやって吹き飛ばすあの仕草、blow a raspberryと言います。あっかんべー、みたいな。この演出、大好き。

・さて、マイクロフトがじっくりじわじわと仕掛けていた「死者の飛行(Flight of the Dead)」、正直言って良くわかってません。すごい手間がかかってるのは分かるけど、んん? テロリストをだますだけなら死体必要? 空の飛行機を墜落させるんじゃダメなの? 墜落現場に遺体がないと困るから? でもきちんと検死すれば、遺体のケガに生前反応がないってバレちゃうかもよ? それにパイロットはどうなるの? パラシュートで脱出? それとも747って遠隔操作できるの? なんか、派手な割に色々と言いたいことが……。

・正確にどれって言えないんだけど、正典にも、死体だらけの謎の船って出て来ませんでしたっけ? ワトソンが思わせぶりに触れる「他の事件」で謎の船っていうと、「マティルダ・ブリグス号事件」があるけど、ジョンのブログではなぜか「Tilly Briggs Cruise of Terror」への言及が。詳細はないけど。ちなみに「マティルダ・ブリグス号事件」というのは、実際にあった「メアリー・セレステ号事件」(乗員が1人もいない状態で漂流しているのを発見された)にドイルが目配せしたものじゃないかと言われてます。

・マイクロフトのダークな言葉遊び。
「That's the deceased for you. Late」翻訳不可能。前半は「さすがは死者だ」とか「やっぱり死人だ」とか。「Late」は「故人」という意味もあり、かつ「遅い」という意味もあり。「故藤原頼長」という時に使う「故」と同じ感じで「late」を使います。The late Yorinaga Fujiwara、という風に。

・「Sherlock, dear」とアイリーンが呼びかける。私のスマホをレントゲンで調べたら、どうだった?と。この「dear」とつけてるのが、すごい上から目線でpatronizing。バカにしてる感じがよく出てる。

・それだけに、いきなり「全部は私の手柄じゃないから。手伝ってくれた人がいたのよ」と彼女が言った瞬間、何かが変わりますね。なんかアイリーンがガクッと安っぽくなる気が…………。

・えええ、脈拍上昇と瞳孔拡大だけで、イコール「僕に惚れたねベイベー」って、ちょっと無理がない? はいはい言ってなさい、って感じなんですけど。恋や愛じゃない性的興奮だってあるだろうし、単に状況に興奮してるだけって可能性もあるだろうし、獲物を追いつめる興奮だってあるだろうし。

・シャーロック「Sentiment is a chemical defect found on the losing side(情など、負ける側に見られる化学的欠陥にすぎない)」。おやまあ、若くて青くて未経験なヴァルカン人みたいなことを言うのね、それでも実際、映画「スター・トレック6」でスポックは「かつて先祖がこう言った」と前置きして、ホームズの有名な台詞を口にしていたしね(Eliminate the impossible, and whatever remains, however improbable, must be the truth、という)——————と、今年1月に書いた時点ではまだ、ベネディクトの「スター・トレック」映画出演は発表されていなかったし、次の回でシャーロックがあんなことを言うとは(待て次号)。

・アラビアのロレンスならぬカンバーバッチのロレンス(確かゲイティス談)。あの姿で私が連想したのはむしろ、ドラマ「Fortysomething」でベネディクトのパパ役だったヒュー・ローリーのこちら

・「The woman」。もちろん原作由来。ただしこの「the」をどう発音するのかが、けっこうかねてから議論に。なのでここでは、両方。「thuh (ザ)」と「thee(ジ)」両方。

・このA Scandal in Belgraviaがイギリスで放送された元旦夜、映画スター・トレックの新スコッティことサイモン・ペッグが、「シャーロックすごかった! 続く2回を見られないなんて、勇敢に突き進んでいかなきゃならないから!」ってツイートしていたのだ。サイモンがこれからスタートレック撮影のためロスに行くんだっていうのはここで分かって、こんなことが居ながらにして見られるツイッターって改めてすげえや!と思ってたんだけど、まさかその数日後に、ベネディクトのスタトレ出演が発表されるなんて、なんなの新年早々ネットに広がるこのオタク異空間は!状態でした。

・そして最後に(やれやれ)、この「A Scandal in Belgravia」のもうひとつの原作といっていいだろう映画について。スティーブン・モファットもマーク・ゲイティスもオマージュだったと認めてる、彼らの大好きなホームズ映画とは、ビリー・ワイルダー監督の「The Private Life of Sherlock Holmes(シャーロック・ホームズの冒険)」です。

今年1月にこの「A Scandal in Belgravia」を観たとき映画の方はまだ未見だったので、私はつい自分が好きなホームズ映画「The Seven-Per-Cent Solution」との比較をたくさんしていたのですが、その後、ワイルダー映画の方を観るに至って、「ああ、こっちだわ」と。マイクロフトの造形しかり。マイクロフトが弟を騙してでも国の安全保障のために仕掛けた壮大な、かつかなり無茶苦茶な作戦しかり、どちらもこの映画をヒントにしていると、モファット/ゲイティスが自ら認めてます。

未見の方のために映画のネタバレはしませんが(英語感想はこちら)、「シャーロック」のアイリーンのあんな場面やこんな場面も、映画からヒントを得てるよねと言えるし、何よりラストが! 「シャーロック」のアイリーンが最後にああなったのは、映画のアイリーンの結末が前提としてあって、その逆をやりたかったからだと、これもモファット/ゲイティスが話してました。

それ以外にもこのワイルダー映画は、「ホームズとワトソンはええと、つまりはカップル?」というネタを真正面からギャグとして扱ってるという意味でも、やはりモファット/ゲイティスに多大なる影響を与えているみたいです。

さらにちなみに、この映画にはホームズのお風呂場面もあります。どうぞ、その辺もぜひ影響を受けて第3シリーズで真似してください、プリーズ。