水川青話 by Yuko Kato

時事ネタやエンタテインメントなどの話題を。タイトルは勝海舟の「氷川清話」のもじりです。

BBCの「QI」が日本の二重被爆者を取り上げたことについて私が思ったこと

2011-01-22 17:05:41 | BBCの「QI」問題
(以下は、日本人がBBCの「QI」を怒っている件について日本語で連続ツイートした後、英語でブログに書いた内容を、日本語にしたものです。英語で書いた段階で、番組司会のコメディアン、Stephen FryにTwitterでメッセージしたところ、本人からたちまち返事をもらったので驚きました。私は彼の大ファンなだけに。内容はあくまでも日本人でない英語読者に向けたものなので、お含みおき下さい。英コメディひいきを強調しているのも、「私は、あなたたちが何を面白いと感じるか多少は分かってますよ」とイギリス人読者に分かって貰いたいがためです。なお,追記ですが、番組の聞き取り・訳出はこちらに掲載しました。彼らが本当は何を言ったのか把握してから、これが「被爆者への嘲笑」かそうでないか判断してください。加藤祐子)

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以下は、BBCのコメディークイズ番組「QI」が広島と長崎の二重被爆者をネタにしたことで日本大使館が抗議しBBCが謝罪し、日本のメディアが激怒している(ふだんはむっつり地味な日経)まで)ことについて。イギリスで勉強したことのある日本人で、モンティ・パイソンを観て育ち、「Blackadder」や「A Bit of Fry & Laurie」や「Jeeves and Wooster」や「The Office」が(どれもDVDボックスを持ってるほど)大好きな人間として、これを書いています。

よりによってBBCともあろうものが、広島と長崎の両方で被爆した「二重被爆者」について、ネタにしてからかったと、日本人の多くが激怒している。まず最初に言っておきたいのは、多くの日本人はBBCを好意的に思っているということだ。それだけに多くの日本人は、BBCに裏切られたとがっかりしている。BBCよ、お前もか。

なぜ多くの日本人がこういうある種の片思い的な感情をイギリスに抱き続けているのかというのは、歴史的な背景があるので、ここでは説明しない。ただ、そういう感情があるのだとだけ書いておく。そしてBBCはそのイギリスの公共放送なのだから、必ず常に完璧にお行儀よいまともな放送局であるはずだと、多くの日本人が思っている(実を言えば多くの日本人は、イギリス人というのはみんな礼儀正しいまともな人たちだという印象をぼんやりと抱いている。イギリス紳士の神話ってやつは、まったく!)。要するに、ほとんどの日本人はイギリスのことをあまりよく知らないのだ。

その一方で、私が思うに、多くのイギリス人も日本人や日本人の感覚についてほとんど何も知らない。特に、私たちが原爆についていかにヒリヒリするほど敏感か、イギリス人はほとんど知らない。

ゆえに「QI」のあの放送について私はこう思う。番組に悪意はない。しかしこのYouTube時代に日本人が自分たちの番組を見て不快に思うかもしれないという可能性について、番組は鈍感だったのだと。

加えて、さらにもう一方で、日本人の大半は、イギリスのコメディについてほとんど何も知らない。イギリスのコメディがどういうものなのかも、ほとんど何も知らない。ほとんどの日本人はモンティ・パイソンや「Blackadder」といった傑作について、観たことはおろか聞いたこともない(「Blackadder」と主演が同じ「Mr. Bean」は知っていても)。ほとんどの日本人は「The Office」も「Little Britain」も、そして「A Bit of Fry & Laurie」についても知らない。ほとんどの日本人は「Dr. House」ことヒュー・ローリーが実はイギリス人で、かつて「Blackadder」で「(訳注・おつむの弱い)皇太子」を当たり役としていたことも、スティーブン・フライがイギリスの「国宝」と(愛情と皮肉をこめて)呼ばれていることも知らない。なのでこの件について私が目にした日本語記事は何一つ「スティーブン・フライ」の名前をあげず、ただ単に「アロハシャツを着た司会者」としか呼んでいない。

なのでこの一件は実に悲しくも残念な誤解と無理解による悲喜劇であって、知識不足と理解不足は日英の双方にまたがっている。BBCと「QI」の関係者は(私が大好きなスティーブン・フライも含めて)、日本人が不快感を示すだろうと前もって見越すことができなかったわけだ。もし予見していてそれでもあれを放送したなら、話はもっとひどい。というのも、いかにイギリス・コメディが大好きだといえども、日本人として、私はあの放送を見ていて居心地が悪かったからだ。特に、観客の笑い声が不快だった。

その一方で、日本人のほとんどはイギリス・ユーモアがどういうものか全く知らない。イギリス・ユーモアとは、世の中の現実をありのままに赤裸々に語ろうとする表現方法なのだと、ほとんどの日本人は知らない。ブリティッシュ・ユーモアとは、世の中のあらゆる「負」を、あらゆるバカバカしく奇妙でネガティブなものを、アイロニーを通じて浮き彫りにしようとする表現なのだ。もちろん、大手新聞のロンドン特派員や論説委員ではない日本人がこういったことを知っている必要はまったくない。しかしこの一件を記事にした日本メディア関係者が、スティーブン・フライが何者でどういう人で、コメディを通じて何をやろうとしている人なのか、少しでも承知しているという片鱗すら示してないのは、とても残念なことだと思う。

なのでまとめると、私は日本人として、「QI」が二重被爆者をああいう形で扱ったことは不快に思った(それは主に観客の笑い声に。ゲストのコメディアンたちはそれほどでもなく、スティーブンの言動はまるで不快ではなかった)。けれどもブリティッシュ・コメディを愛する者としては、彼らが何をしようとしているのか分かったし、「広島に原爆を落とされたその翌日にもう電車が動いてたなんてすごいじゃないか!」とスティーブンが繰り返し指摘し、感心していたのは、実のところかなり面白かったし、皮肉なアイロニーに満ちていて、「なかなか興味深い(quite interesting = QI)」ことで、そしてとてもスティーブンらしいと思った。

こうした日英の感覚のギャップ、日本人が何を不快に感じ、イギリス人は何を面白いと思うのかというギャップを、埋められる人があまりいないというのが、とても残念なことだ。

ついでに言うと、アメリカではこのところ、英コメディアンで「The Office」のリッキー・ジャーヴェイスがまったく予想通りにハリウッドのお歴々をこてんぱんにこき下ろしたせいで、大騒ぎになっている。「気まずいことでもありのままに言う」イギリス的ユーモアはやはり、万人に受け入れられるものではないのだ。

(とはいえゴールデン・グローブ授賞式については、リッキーを雇った時点でどうなるか主催者側は承知していたはずで、それを今さら騒ぐ方がおかしい。それにリッキーは、本人の言葉を借りるなら、「目の前にあってみんな分かってるのに誰もそれに触れない」ことについて言及したに過ぎないので、「QI」がやったこととは、質的にかなり違っている)


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これを書いた後、かねてからずっとフォローしているStephenにTwitter(の英語アカウントの方から)で初メッセージ。まとめると、「前からファンです、大好きです、尊敬してます、Fry and LaurieのDVDボックスも持ってます。そんな私が、QIが日本で騒ぎになっているため、いてもたってもいられず意見を書きました。日本の人たちはよく分からずに怒っていて、それがとても悲しいので。日本のメディア記事は誤解を解く役に立っていないし。なので、少しでも誤解の溝が埋まりますように」と。

そうしたらスティーブンからあっという間に返事が!(スティーブンはものすごい量のTwittererとして有名) 「@YukoAndHerCats Thank you for your blog. I think you put it amazingly well. Much appreciated. And sorrow for the upset...」 
(ブログをありがとう。よくまとめてあると思います。とても感謝しています」と。最後の「sorrow for the upset」をどう訳すか,迷います。「不快な思いをさせてしまって悲しいです」とも訳せるし、「騒ぎになってしまって悲しいです」とも訳せるし。両方の意味が含まれているのだと思っています。
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