My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

日本や欧州にシリコンバレーが出来ない理由とその対策 (1/2)

2010-03-17 09:25:08 | 3. 起業家社会論

せっかく起業話が盛り上がってるので、続けてみたい。

前回の記事「どんだけマッチョじゃないと起業できないんだ、日本は- My Life in MIT Sloan」にも書いたが、
私のスタンスは、日本人の文化や性質という解けない問題ではなく、
仕組みやシステムを作るという解きやすいところから解決していこう、というものだ。

そもそも、日本人は多少アメリカ人より保守的かもしれないが、一般的には心優しい。
(だから「小町」で見知らぬ大学生にアレだけ説教が来るのだ。)
しかし、その人たちは、金出してくれるVCを知ってるわけでも、技術を持ってる人を紹介できるわけでも、
優秀な人材を紹介できるわけではない。

ところがボストンやシリコンバレーでは、企業を支援できるスキル、知識、ネットワークを持った人がたくさんおり、
「起業したい!」と言うと、こういう具体的な方法で助けてあげられるひとがたくさんいる。
こういう仕組み・システムが違う。
そして、そういうのが普通だから、人々が起業に前向きになりやすく、文化や性質も変わってくるわけである。
シリコンバレーだって、一日にしてあの文化が出来たわけではない。

ではどうやって、うちの国に「シリコンバレー」を作るか?
と、苦労しているのは、別に日本だけではない。
ヨーロッパの各国も、シンガポールも、マレーシアも、中国も、理由は少しずつ違うけど、同じ悩みを抱えている。

「何故ヨーロッパや日本にはシリコンバレーが出来ず、アメリカには出来たのか」ということが書かれた、
有名な論文があるので紹介したい。
別に、「どうやってシリコンバレーを作ればいいのか」という解はどこにも書いておらず、
寧ろ「出来ない理由」なので、悲しくなるが、
めげずに考える上でひとつの参考にしていきたい。

Why startups condense in America (Paul Graham)
何故スタートアップはアメリカに集まるのか (ポール・グレイアム)

そしてその非常に良く出来た日本語訳はこちら→
「ポール・グレアム「ベンチャーがアメリカに集中する理由」-Lionfan
この方はポール・グレイアムの関係者の方の様子。他にもグレイアム関連のコンテンツが色々ありました。

内容も一部紹介しつつ、「日本にシリコンバレーをどうやって作ればいいか」の考察を進めてみる。

1. 移民に寛容であること→日本は今のところ×

シリコンバレーは移民が非常に多いところだ。
彼も指摘してるように、半分の人には他国出身者だと分かる訛りがある。
しかし、その移民の人で成功している人が多い。

昨年、私がシリコンバレーのベンチャーで仕事をしていて感じたのもこれだ。
まず完璧な英語を話す人があまりいない。
起業して成功してる人にも、インド人とか、移民がいっぱいいる。
で、実際に私も、英語の能力と関係なく、仕事でちゃんと評価されて、
「別に英語がそんなにうまくなくても、中身があれば、ここでは評価されて、チャンスがあるんだ!」
と本当に思って、将来アメリカで働いていくことに自信が付いた。

(実はこれが白人社会のボストンでは余りない要素。シリコンバレーの方が敷居が低い)

そして、いきなり「これが日本にシリコンバレーが出来ない理由」と述べている。

I doubt it would be possible to reproduce Silicon Valley in Japan, because one of Silicon Valley's most distinctive features is immigration.Half the people there speak with accents. And the Japanese don't like immigration. When they think about how to make a Japanese silicon valley, I suspect they unconsciously frame it as how to make one consisting only of Japanese people.

「日本人にシリコンバレーを作らせたら、無意識に日本人だけにするだろう。」と言う。
そうすると、他国からの優秀な人材が集まりにくくなってしまうのだ。

しかし、最近はアメリカの移民政策が非常に厳しい。
せっかくアメリカで修士を取り、就職した優秀なインド人が、ビザが取れずに帰国するとか結構耳にした。
ポール・グレイアムも「ここが最近のアメリカの問題点で、他国がアメリカを越えられる点だ」と指摘している。

ヨーロッパは、英語教育とEU統合で、人材の流動性を高めているところであるが、日本はどうするか?

ひとつの解決方法としては恐らく、
アメリカやシンガポールのように、職能を限って(エンジニアリングの修士などを持ってるなど)、
高機能人材の移民が進むようにしていくしかないんじゃないか、と思う。

2. 豊かな国であること→日本は○

すなわち、豊かで、様々なインフラが整っているのが大切だ、ということだ。
道路や交通機関がちゃんとしていて、インターネットなどの技術インフラもしっかりある。

そういう意味では、日本のインフラの整備度は、シリコンバレー以上である。
もっと言うと、信頼できる物流の仕組みとか、サービスインフラなど、はっきり言って日本は世界一だと思う。
(例えば宅急便がこんなに便利で信頼できる国は日本以外にない)
多少経済が低迷しているが、豊かな国であることは間違えないのだ。

日本に唯一足りないのは、ベンチャーキャピタルなどの金融インフラだ。
これはもう、外資VCの参入を許したり、中小のVCを作りながら、既存の金融システムを破壊していくしかない。

3.Police state(警察が権力を持った国)ではないこと→日本は・・・?

作者は中国を例に挙げて、この国でシリコンバレーを作るのは難しい、と言う。
同様の理由でシンガポールも困難だ、と。
何故か?
技術に関して変わった視野を持ってる人は、政治に関しても変わった視野を持つ人が多い。
そういう人がすぐにつかまっちゃうようなところでは、起業家は育たない、って話だ。

アメリカも警察国家ではないか?という意見もあるだろう。
実際、州によってはそうで、正直テキサスなんて、移民も起業家も生きにくい州だと個人的には思う。
(私は絶対に住みたくない)
移民や起業家などのはみ出し者が、多少大きな顔をすると、捕まりそうな州ってのは、まあ実際にはある。

日本はどうか?

考えるネタとしては、アメリカでビル・ゲイツがAnti-trustで「ちょっとあんた調子に乗りすぎよ」
と捕まりそうになるのは、マイクロソフトが巨大企業に成長し、国を支えるレベルの産業になった後である。

解決方法は、国家が起業家を、本当に国を支えるレベルの産業に育てていく、という明確な方針を掲げ、警察その他まで浸透させていくことだろう。

4.大学が優れていること→日本は△

アメリカは高校教育までは腐っているが、大学は非常に素晴らしいところが多い。
一方、アメリカ以外の国は(ヨーロッパも日本も)高校教育までが素晴らしく、大学がダメ、とポール・グレイアムは指摘する。

結局、ボストン(MITやハーバード中心)やシリコンバレー(スタンフォード)などは、
大学から出てきた技術と、大学から出てきた優秀な人材を元手に、ベンチャーが育っている。
起業家コミュニティを作るとしたら、どうしてもこういう大学を中心としたものになるだろう。

そのときに、大学が、起業家コミュニティにアイディアや技術や人材(それも起業家と技術者の両方)を提供できることが非常に重要なのだ。

日本はどうか。
どこの大学も頑張っているが、MITやスタンフォードのようなコミュニティを作るまでは至っていない、というところか。

解決のレバーとして、私がMITを見ながら思い立つのは
-大学の教授が積極的に、学生、事業家、金融家などをつなげ、「産学連携の生態系」を作る。
  ひとりの先生でなく、複数の先生が共同戦線を張りながら、独自のネットワークを築くことが重要。

-学生がビジネスコンテストなどを主催して、積極的に、大企業や金融家などを結び付けていく。
  とくに大企業は優秀な学生が欲しいので、ちゃんとスポンサーとしてカネを出してもらい、
  あわよくば技術も人も少しずつ出してもらい、積極的に関わらせる。
 (ここに世間ずれしたビジネススクールなどの社会人学生が噛むのは超重要。
   MIT$100Kがうまく行ってるのはそこが違う)

日本の大学にもこういう産学連携やビジネスコンテストの試みは既にあるだろう。
ただ、まだ関わっている人の数も小さく、意識レベルが低いから、
「いずれシリコンバレーを作るためのものだ」と高い意識を持って、拡大していくしかないと思う。

5.人を解雇できること→日本は×

これはアメリカの利点で、ヨーロッパ、そして日本の問題点である。
何故なら、企業が
人を解雇しないで雇いっぱなしにしておくから、優秀な人材が外に流出しない。
そして、人々は解雇されないから、駆り立てられて、起業しなきゃ、と思うことが無い。

日本の問題については、以前の記事
一流企業の正社員も流動化できる社会へ-My Life in MIT Sloan
で指摘したが、ヨーロッパでもこれと同様の問題を抱えているのだ。

大企業や公共機関が人を解雇するのが先か、起業しやすい世の中を作るのが先か、というのは鶏と卵で、私にはまだ解は無い。
個人的には、まずは国家レベルでの起業家促進の戦略を明らかにすることしか無いようにおもう。

この記事の続き→ 日本や欧州にシリコンバレーが出来ない理由とその対策 (2/2) -My Life in MIT Sloan

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21 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
王国の到来を (Kalessin)
2010-03-17 10:06:10
企業されるのかと思っていたら、"Lilac Kingdom"を画策しておられるのですね。僕は商売系は全く駄目なので僕なりの生き方を模索していくことになると思うのですが、社会の欠点をあげるだけなら簡単ですよね。問題は、どう変えていくか、どう対処していくかで、こればっかりはやってみないと分かりませんから。日本と距離を置くと見えてくるものもいっぱいありますが、実際の行動にどう反映させるかは僕も試行錯誤することになりそうです。


>Police state(警察が権力を持った国)ではないこと→日本は・・・?

本当は"はてな"ではないのでしょうが、結論はだされないほうがいいでしょうね(笑)。なまなましい具体例を割と最近みましたから。

…縁はないと思いますが、王国の到来を心待ちにしております。
帝国? (Lilac)
2010-03-17 10:48:05
@Kalessinさん
>企業されるのかと思っていたら、"Lilac Kingdom"を画策しておられるのですね

ハハハ(爆笑)そう来ましたか。
本当に王国を建設しようと思っていたら、こんなブログに中途半端な文章を載せないで、秘密裏に進めていくことでしょう(笑)

ちなみに私を良く知る友人なら「王国」じゃなくて「帝国」じゃないの?とか言いそうですが(爆笑)、
私本人は参謀・教育者タイプであって(ちなみにMBTIはENFJ)、帝王タイプではないことをよく自覚しています。

そう。社会の欠点を挙げるのは簡単で、どうやって変えていくかですよね。
何がベストで可能なレバーなのか、よく見て生きたいです。
Unknown (ken)
2010-03-17 12:04:03
面白いですね~
問題点が見えれば半分は解決したようなものじゃないですか?

ただ、日本がムリにシリコンバレーと同じモノを作る必要があるのかな?とも思います。
シリコンバレーを見習いつつ日本独自の良い文化ができれば一番ですよね。

でも、中国に追いつかれているから近いうちに何かしらの革新が起こらなければ没落しちゃいそうですね。
Unknown (shiro)
2010-03-17 16:13:33
日本でPaul GrahamのY Combinatorみたいなことをやりたいと考えている大学教授の方や経営者の方は何人か知っているのですが、具体的に進めようとするとやはりアーリーステージの投資をどう引っ張ってくるかってとこで詰まっちゃうみたいです。日本だとexitのプランがうまく描けないようで。YCがやってるような$10K程度の最低限のブートストラップならともかく、その次の、エンジェルに$100Kくらい投資してもらいました、というステージが苦しい。ベンチャーキャピタルが入ってくる規模になればまた違う事情があるみたいですが。

国も起業奨励だと言って色々予算を組むことはありますが、何といいますか、身銭を切ってるわけじゃないせいか「何としてもexitまで持っていかせる。そのために惜しまずノウハウをつぎ込みネットワークで支援する」みたいなアクティブな感じにならないんじゃないかなと思います。
小アメリカ? (Yoshi)
2010-03-17 18:38:48
Lilacさま、

ここで、1から5にあげられていることは、視点として、まずシリコンバレーを生み出したアメリカの文化をスタンダードとして、他の国ではどの程度それに達しているかいないかを見ていると思います。しかし、その発想では、基本的にアメリカの後追い、二番煎じのアメリカではありませんか? 例えばシンガポールは、極度に管理の行き届いた警察国家かも知れません。しかし、多民族による国家として政治を安定させ、政情の安定を前提にしてある程度の民主主義を根付かせ、しかもあれだけ豊かな国を長年維持できる産業を育てている、それだけでもかなり成功しているように見えます。それぞれの国は、自国の文化の持つ強みに根ざし、かつ社会の安定や国民多数の福利を遂げられる道を模索する必要があり、アメリカの二番煎じをして、アメリカのかかえる大問題も導入してしまったのでは話にならないのでは? 日本が小アメリカになれば良い、という国ならそれでも構いませんが。

>私のスタンスは、日本人の文化や性質という解けない問題ではなく、
>仕組みやシステムを作るという解きやすいところから解決していこう、というものだ。

でも産業の問題も結局、民族の伝統や文化に根ざした視点でなければ解決しないように思います。

畑違いの分野についてえらそうな事を書いてしまい、恐縮です。 Yoshi
面白いです (MJ)
2010-03-17 19:51:24
考えるのは仕組み、そこ賛成です。そしてそれは民族性とのすりあわせで考えると面白そうですし、手掛りになりそうな気もしますが如何でしょうか?民族性の壁は「越えられない壁」ではなく「飛び越えるハードル」いや「越えるための足掛かり」になるかもしれないとLilacさんのお言葉を拝見していて思いました。
これからの展開、楽しみに拝見させていただきます。
シリコンアイランド、シリコンロード(笑) (野田一丁目。)
2010-03-17 20:17:09
1980年代は九州をシリコンアイランド、東北をシリコンロードと呼んでいたんですけどね。(笑)川崎市の南武線沿線は半導体関連の会社が多かったから電車の中で聞き耳を立てると同じ業界の人の会話が聞こえてきて、面白かったですよ。
日本にシリコンバレーを作るなら川崎がいいな。アジアの若い人を集めて大企業で倉庫番しているようなリタイア寸前の中年半導体技術者(ほんと勿体ない人多いんだよなあ)と組ませて、損得抜きで世の中がびっくりするような新しいもの作りたいですな。
私も組み立て屋さんで参加したいですね。(笑)
後半をお待ちしております。 (takayosi)
2010-03-17 21:05:43
シンガポールのビジネス事情はわかりませんが、この国にはマフィアもいないこと及び国民性が真面目かつフレンドリーなので、ちょっと期待したいところです。訛はひどいですが、アジアの中では数少ない英語圏ですからね。

後半を楽しみにしております。
一攫千金 (ピタゴラス)
2010-03-17 23:35:41
「一攫千金」、アメリカのベンチャーキャピタリストは全神経を研ぎ澄まして、金の卵を探しまくっていると本には書いてありました。

また優秀なキャピタリストが声をかけると忽ちお金が集まるとか。経営者も専門職となっていてすぐ獲得できる。


良いアイデアを上手くプレゼンテーションすれば、どっと先ほどの人たちが群がってくる。


日本も冷戦時代の国家社会主義体制がやっと崩壊しそうなので、新しい社会が到来するんですかね。
コメント返信その1 (Lilac)
2010-03-18 03:56:37
@Kenさん
コメント有難うです!

>問題点が見えれば半分は解決したようなものじゃないですか?
そうですね、見える問題点が真の問題なら。
通常は表層の問題しか見えないから、解決策に至らないんですよ。
例:日本人が保守的だから悪いんだ!→日本人、保守的になるな、と言っても解決にならない。
解決しそうな問題に絞って、Whyを掘り下げるのが重要。

シリコンバレーと全く同じものを作る必要は無いと思います。
日本は今までそうしてきたように、最初は真似しても徐々に日本テイストを加えていくでしょうから。
参考にすればいいと思ってます。

@Shiroさん
なるほどねぇ。
逆に魅力的なExitがたくさんあれば、Early stage VCも引っ張ってこれるのであれば、それは解になりますね。米国にはStage AのVC結構ありますからね。
何故魅力的じゃないかというと、
-IPOでそこまで値がつかない
-日本の大企業が買ってくれない
-海外の大企業に買ってもらおうにも、日本がそもそも成長市場じゃないから、日本市場のみ向けのものは買わない
の3つかな。

IPOはどうしようもないとして、2番目と3番目は対処の仕方がありそうなんですよね。
やっぱり環境技術とかかな。

@Yoshiさん
新しい仕組みを設計する上では、慣性の大きい(文化・歴史など)を考慮する必要がある、というのは賛成です。

私のポイントは、そこを考慮するな、ということではなく、そこを変えようというのは有効な解にはならない、ということです。
どうでしょう?

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