いろはにほへと

ちりぬるを

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2017-04-19 23:20:06 | 日記

 

雉と桜

 

 

春草が刈りこまれた山肌の奥からその鳴き声は聞こえてくるのだった。

ケーンともゲーンとも聞こえるその鳴き声は時に朝陽の奥から聞こえてくることもあった。

桜の蕾が膨らみ始めた頃、その鳴き声は何かを威嚇しているかのようにも聞こえた。

 

降雨の翌日、陽だまりで羽を震わせてあの独特の鳴き声を張り上げる。

山肌の草むら寄りの坂道をゆっくりと下りながら空を舞う烏にむかって声を張り上げる。

それは紛れもない烏への威嚇であった。

 

四月、桜は狂ったように咲き乱れ雉の姿が見えなくなるほど草むらを覆った。

その頃、やっと雉の雌が草むらのどこかで抱卵していることに気づいた。

そして、執拗に烏がやってくることの意味を理解した。

 

毎日、雉の雄は羽を震わせながら声を張り上げ、烏は執拗に空を舞う。

 

桜が散り始めたある日、一羽の烏が木立を抜けて草むらの中へ消え、深い沈黙のなかで桜は散っていった。

 

そんなある日、雉の番が草むらの片隅で海の方を眺めているのに気づいた、しかし、雉はもうケーンともゲーンとも鳴くことをしなかった。

 

 

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