ミサロピシ

Missallopishii

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2018-02-22 00:09:32 | Weblog

三番目の洞窟に入ると、鉱石を掘削していた昔の面影はないが、広さなどから推測すると10人位は十分に寝起きができる造りになっている。かつては作業人たちの飯場だったにちがいない。壁や天井は煤けたままで往年のものか、それともその後のものかは分からないが黒く光っている。

洞窟内の片隅には茶畑の小屋などと同じ囲炉裏が掘られている。これは、多分、源夢じいさんが設えたものだろう。大きさは異なるが、その構造は一貫している。

洞窟の入り口横の壁には、どの洞窟も同様に、昼間は外からの明かりを取るための窓が刳り貫かれている、そこから明かりは入ってくる、また、囲炉裏で炊く火の煙もその窓から排出される仕組みをとっている。入口は半楕円や観音開きの木戸が設えてあったりする。

mは、杖などを身から外して洞窟の外から、再度、入口周りの石壁を見た。
草に隠れるように、「静心庵」と彫られている。
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missallopishii

2018-02-21 01:07:53 | Weblog

行く手の岩を刳り貫くしかないこの道。

ここに来て対岸も同じように切り立った岩肌で対峙している。
どちらにしろ、この山裾を抜けるには岩を刳り貫くしかなかったことは想像に難くない、であれば、既に鉱脈沿いに進んできた道を掘り進む方が賢明だ、と当時の人たちも考えたのだろう。

洞門は青銅色の岩盤を掘削した入り口から始まっていた。石壁を削った痕跡が縦横無尽に走っている、その薄明りの通路をmは進んだ。

明かりは谷川沿いに刳り貫かれた窓から入ってきた、そうした窓が間隔を置いて刳り貫かれている、それらの窓から通り抜ける風が岩に触れ、時折、人が囁いているかのように聞こえる。

最初の洞窟は洞門入り口から一キロほどの所に位置していた。周りは広く掘削されてそれなりに作業などが可能な広さで往年を偲ばせるに十分な雰囲気を未だに残していた。

源夢じいさんが話はじめていた洞門内の五つの洞窟に纏わる話、その話を途中で遮ってしまったmにしてみれば、これから先、自分の目で見て記憶を拾って進むしかなかった。それは老婆の後姿をみて歩くことでもあった。
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2018-02-20 03:04:33 | Weblog
老婆の声は夜明けのなかから聞こえて来た。
掴みどころのない自分、見ている風景と声が入り混じった感覚。

杖と木椀と仏像が体に触れていることを確かめてからmは歩き始めた。

対岸の樹の枝葉が左右に揺れて、その音に応えるように谷川の瀬音が聞こえてくる、その音の先に洞門の入り口が見える。
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2018-02-17 01:04:49 | Weblog

その日は歩き疲れて草叢に横たわった。
押し潰されそうな星の数と、流れてゆく星のなかで、mは途切れ途切れの夢をみていた。

そのなかに、母の亡骸の横に正座して死を頑なに拒否している自分がいた、夢を夢と思いながら、その母の記憶が蘇って、この道に繋がっている。

それは、夏の暑い日中を着物姿で傘も無しに歩いてゆく母の後ろ姿を眺めていた日の記憶と重なっていた。

夢が呼び戻した母の記憶とこの道が一つであることにmは気づこうとしている。

ミチユケバ
オモイダシテヨ

ナキガラヲ
ナキガラト

オモウナ
ユメノアトサキ
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2018-02-16 01:13:27 | Weblog

翌朝、mは小さな仏像を懐に仕舞こんで三番目の洞窟へ向かった。


瀬音しかないこの道


青い尖った石が足裏にある、その感触を道ずれに歩く、時折、急峻な山肌の威圧で谷川の懸崖へ落ちそうな恐怖に襲われる。

源夢じいさんが話していたように岩肌の上方に掘削した痕跡が見え隠れする。そういった箇所の道下には掘り出された石の残骸が谷川に向かって雪崩の跡のような様相で残っている。

青銅を使った時を時として、その頃からこの道を掘り進んだのかどうかを知る術はないが、この地に青い石を求めて入った人たちが居たことだけは確かだ、そして、その人たちが想い描いたものはどんな現象だったのだろうか?mはそんなことを思考しながら、正吾さん、源夢じいさんとこの青い鉱脈を重ねて歩いた。

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2018-02-15 00:29:23 | Weblog

源夢じいさんに済まない、mは後悔して自己嫌悪に陥った。そして、源夢じいさんの話を聞くのはこれが最後かもしれない、そんな予感が過った。

「ミサロピシ、あなたは昔のままだね。それで、私と五つの洞窟については、あなたがあなたの目で確かめればいい、それが一番いい方法だと思う、分からないことがあれば手紙を書き残して洞窟に置いていけばいい、その返事は必ずどこかの洞窟であなたが目にすることになる」

mに、言葉がない。mは、泣いていた。

「源夢じいさん、お願いがあります、あの小さな仏像を持たせてください」mは、懇願していた。
「いいとも、持つにはあなたが一番相応しい」源夢じいさんは仏像を棚から下ろしてmに手渡した、そして、「杖と一緒に、大切にしてください」そう言い終わると、洞窟を後にした。mは、その後姿が道の奥に消えるまで見送った。

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2018-02-14 01:09:07 | Weblog

「先ず、私は見ての通り木彫りの職人といったところですので鉱石等に関連しての学究的なことは判りません、話すことの殆どが伝承、知覚、感覚の類です」

「私も同じです」mは、そう答えた。

「ここから五キロほどで三番目の洞窟ですがその洞窟は洞門の中に位置しています、というより七番目の洞窟までの全てが洞門のなかに位置しています、洞門の長さは凡そですが、五キロ近くあると思われます、勿論、所々で外気、陽光を取り入れるため谷川に沿った壁が大きく刳り貫かれています・・・話を勝手に続けますので気になる箇所は指摘してください」

「わかりました、どうぞ続けてお願いします」

「この洞門の可なり手前から、山肌は急峻な岩盤で、その辺りから鉱石の掘削が始まっています、そして上方には横穴の坑道が幾つも見え隠れします、勿論、当時は手掘りの作業だったと言い伝えられています、また採掘した鉱石の配分で争いが絶えなかったとも聞いております、統治以前であれば採掘、精錬した青銅を売り捌く手段があったのでしょう、精錬の方法も火を使い工夫されていたようです」

「この谷川沿いの道が最終は地図にある鉱山へ繋がっているということですね?つまり、鉱脈が二つの山の向こうまで伸びている?そうですね?掘りっぱなしで・・・古の人たちが掘り進んだこの寂しい道を老婆が、一人で歩いて行ったということです」mは、源夢じいさんの話を遮った、もう、鉱脈、鉱石、精錬などの話は終わりにして、五つの洞窟のこと、そしてこれらの洞窟と源夢じいさんとの関わりを話していただくようにお願いした。そして、その話を聞き終わったら老婆の後姿をみながら歩くことに決めた。

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2018-02-13 00:57:17 | Weblog

洞窟の後片付けなどを終えて谷川沿いに出ると源夢じいさんが来るのが見えた。
昨日の今日で何か急ぎの用かとmは思ったが、ここは仕事場だし不思議はない。暫くして洞窟に着くや否や話を始めた。

「昨日は話の区切りが良かったので早めに帰りましたが、途中、色々と気になることが思い浮かんで引き返そうと思ったりもしたのですが、夕暮れ近くだったのでそのまま帰りました、帰ってももやもやとした想いが脳裏から離れず、昨夜はほとんど寝ていません、夜明け前に家を出て何とか間に合いました」そこまで話すとmに目配せして洞窟に入っていきました。mもその後ろについて洞窟に入っていった。

「随分と綺麗に片づけてくれましたね、助かります」そう言って源夢じいさんは作業台の椅子に腰を下ろした。椅子は丸太を切っただけのものだったが作業台と調和している。

「昨夜は私も色々と気になることが思い浮かんで寝られませんでした。そのなかに、三番目の洞窟から七番目の洞窟と洞門のことを尋ねようと思いながらそのままになっていることがあります」

「やはり、あなたも・・・実は、そのことがあったので夜明け前に家を出ました、地図に説明を加えるには少し長くなるのでお会いしたときに、と思っておりました。この五つの洞窟と洞門のいきさつを知ることは先々の旅で出会う風景等を解く鍵になります」

「そうでしたか、地図を見るかぎり、他の洞窟などとは極端に違った感じを受けます」

「いいところに気がつかれました、鉱脈、鉱石の探鉱、鉱石の掘削、精錬の方法、搬出、運搬などなど物と人の動きの原点がここにあると言っても過言ではないと思います、少し、長い話になるかもしれませんが、今後の参考にしてください」そこまで話して源夢じいさんは水を口にした。
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2018-02-12 04:24:46 | Weblog

木くずを囲炉裏にくべながら明かりをつなぐ。

mは囲炉裏端で地図を広げ、三番目から七番目の連続した洞窟について源夢じいさんに尋ねることをすっかり忘れていた自分を悔いている。
これらの洞窟は他と比較すると間隔が極端に寄り添っているうえに長い洞門の中に位置していることも他と異なる。

色々な憶測が憶測を呼んで眠れない、源夢じいさんが彫った小さな仏像を手に取って眺めると、その顔かたちがなんとなく夢静さんに似ている。気になっていた夢静さんのことにこんな形で触れたことがmを更に眠れなくさせた。

結局、眠れないままに洞窟の入り口が明るくなった。
何故か不安な朝だった。
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2018-02-11 00:33:04 | Weblog

そんな源夢じいさんの気持を汲んでmも沈黙を保った。暫くして源夢じいさんが再び、話の口火を切った。
「あなたは正吾さんの手紙をそのまま預けましたね、私が今、正吾さんのことで、あなたにしてあげられることはその確認だけです、それ以外のことについては、あなたが、あの手紙に目を通してからのことです」源夢じいさんはそこまで言ってmを見た。

「私にも同じようにあの手紙を今、読むことができない訳があるのです、それは、源夢じいさん、あなたから頂いた手紙と地図に依るところがほとんどです、源定さんに申し上げた内容です、そして老婆の言葉に依るのです」mは、そう言い終えて、今まで源夢じいさんに対して持っていたもやもやした気持が晴れるように感じた。

「よく話してくれました、私があなたに書き残した手紙と地図は、私一人の思いだけで認めたものではありません。旅の途上で、失われた記憶の片鱗にあなたが触れたとき、私たちも其処にいます」

源夢じいさんとmが二番目の洞窟で交わした会話は終わった、その後、源夢じいさんは洞窟内での過ごし方についてmに懇切丁寧に説明してから「源夢」へ帰っていった。


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2018-02-10 08:54:35 | Weblog

話を受け止めたまま沈黙したから源夢じいさんの話はそこで終わった。

源夢じいさんのように記憶が鮮明に蘇らない、漠然として、だから源定さんのように沈黙していてくれれば釣合いがとれるし、会話が可能になる、mは、そんなことを思いながら、ゆっくりと凝視した姿勢から意識を戻していった。

洞窟のなかは想ったより広く整理整頓された彫刻が棚に並んでいる、それらは仏像のほかに魚、木の葉、木椀、梵字など色とりどりの姿形をしている。

「これらの彫刻はここから何処へ運ばれて行くのですか?」mはゆっくりと尋ねてみた。
「檀家へ引き取られて行くもの、入仏のもの、洞窟へ安置するもの、色々です」
「檀家ですか・・・ところで彫刻の材は何処で入手されるのです?」mは、谷川に架かっていた橋が原木を探しにいくためのものではないかと推測して聞いてみた。すると、やはりそれは間違いなかった、あの橋は対岸の山深くに原木を探しに行くためのものだった。

「手付かずの原木は私一人で勝手に頂くことができません・・・」
「他の人たちというのは、老婆と正吾さんですか?・・・」mが咄嗟にきくと、今度は源夢じいさんが黙って、彫りかけの木片に目を落としている。
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2018-02-09 02:21:42 | Weblog

入口を入った所でmは聞こえていた木を割る音の主を見た。

源夢じいさんが黙々と気を削っている、そして傍らに割られた木片が横たわっている。
聞こえていた音はこの木を割っていたときの音だったのだろう。

「足元に気をつけてください、いろんなものが落ちていますから・・・」薄明りのなかで源夢じいさんが発した洞窟での最初の言葉だった。
「久しいですね、ここだったのですね、途中で木を割る音を聞きました・・・」源夢じいさんの言葉に久しぶりに応えたmの声はなんとなく安堵するような声だった。

此処にも、あの囲炉裏と同じものが掘られていた、その灰の中では削った木くずが煙って源夢じいさんの顔を照らしている。
「源定に遭われましたね、それと夢静にも・・・子供のころから一緒でまるで兄弟のような関係です、寺の思い出は一緒で、今もそのことが縁で繋がっています・・・あなたも同じです・・・」
mは黙ったまま源夢じいさんが削る木片とノミを見つめていた。
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2018-02-08 05:55:48 | Weblog

さよならと聞こえる瀬音に秋風

二人と別れてmは数軒の建物を目にした。然し、何れも道からは遠く、山の斜面に屋根を僅かに見せているだけだった。それら一つ一つが記憶のなかを過ってゆく。

暫く歩いたところで木を割る音を耳にしたが人影はない、昨日の源定さんの話のなかで源夢じいさんが仏師であることに触れたことをmは不図思い出した。それと、「源夢」で木片を削っていた源夢じいさんの姿が重なるように浮かび上がった。貰った木椀にしても歪なその形は仏像の一部を彷彿とさせる雰囲気をもっている。聞こえてくるその音は、源夢じいさんが木彫のための木を割っているのかもしれない、mはそんなことを想像しながら二番目の洞窟へ向かった。

二番目の洞窟は日当たりの良い道辺に位置していた。入口周辺の風通しの良い場所に、日差しを避けるかのようにして大小様々な木が立て掛けられている。それらの中には既に仏像の形を想わせる粗削りを終えて木の中ほどを刳り貫いたものもある。然し、それらがどのように生まれ変わっていくのかmにはわからない。

石壁を掘削した洞窟の入り口は一部が研磨されて其処に一文字が刻まれている。「源」

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2018-02-07 00:24:33 | Weblog

正吾さんからの手紙は封を切らず、源定さんに預かってもらった。


旅立つ朝が晴れている。


夢静さんが用意してくれた炒り米と茶葉、それと木椀を風呂敷に包んで背中に掛け、杖を手にして二人にお礼を述べてから延命寺を後にした。

竹の根が階段のように地面を横切っている、その根を踏みつけて下の道まで下りる、見上げると源定さんと夢静さんがまだ手を振っている、お世話になった二人に頭を下げてから先を急いだ。

昨夜のうちに調べておいた源夢じいさんの地図ではこの先10キロほどの場所に二番目の洞窟がある、そして三番目から七番目までの洞窟が短い距離で連続している、その訳は地図に書かれていない。
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2018-02-06 02:01:57 | Weblog

源定さんは驚く表情も見せずmを見ていた、そして、mがそれ以上話をしないとわかると静かに応えた。
「それでいいです、またここへ帰ってくることがあります、いや帰ってこなければなりません」そう言うと夢静さんを呼んで膳をひいて床を用意するに伝えた。
外はもうすっかり暗くなっていた。

床に就いて目を閉じると、様々なことが脳裏を過っていった。
その一つ一つが掴みどころのない夢の様でもあり、また動かし難い人との繋がりの様であった、そして、源夢じいさんが書き残してくれた言葉の節々を反芻しながら眠りについた。

翌朝、mは一人で寺まで歩いた。
見上げる山門と石積みの青さを心に仕舞こんでから本堂を訪ね、それから33の石段を下った。
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