ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

11月の鑑賞会レポートその①「カラカラ帝」(2017,11,11開催)

2017-11-26 10:51:45 | 対話型鑑賞
 たいへんご無沙汰しておりました。みるみるの会ブログ、久しぶりの更新です。

 みるみるの会の金谷です。11月11日に浜田市世界こども美術館にて、鑑賞会のナビゲーター(ナビ)をしました。その様子をレポートします。

日時:平成29年11月11日 14:40~15:05
場所:浜田市世界こども美術館 図書室
作品名:「カラカラ帝」(頭部像)作者不明 紀元217~230年頃 メトロポリタン美術館蔵(画像を映写して鑑賞)
参加者:4名(内みるみる会員3名)

 前回の月例鑑賞会と美術館のコレクション室の作品が同じということから、久しぶりに画像を持ち込んでの鑑賞会となりました。私がこの「カラカラ帝」を選んだのは、頭部像という情報が少ない作品ですが、丁寧にみて考え、対話することで、初見とは違った印象をもったり、彫られている人の人となりについてまで考えたりすることができる、豊かで対話型鑑賞にピッタリな作品だと思ったからです。そこで、鑑賞者の思いと作品を行き来しながら鑑賞をすすめていけるように、「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」を大切にしたナビを心がけました。

 はじめに、「顔の造りや頭の感じなどから、アフリカ系の人ではないか」「首が太いところから、格闘技をする人ではないか」という意見が出ました。そこから首の太さや、顔や目の向きなどから、首から下の身体つきやポーズにまで話が膨らみました。見上げるような目付きから、「何か目標をもってやり遂げようとしているのではないか」「目線とともに、高いところを指さすようなポーズをとっているのではないか」等、リーダー的な立場にいる人のイメージが共有されていきました。首部分の形や変色、鼻や耳が欠けた様子から、この作品は古いもので風化したのではないか、壊されたり焼かれたりしたのではという意見がありました。
 また、「唇につやがあり、若々しさや色っぽさがある」といった意見から、この人は何歳位だろうか考えることができました。よくみると唇だけではなく、肌もつるつるできれいなことから20代、30代という意見をいただきました。私はこの作品を初めて見たとき「この人は50歳くらいかな」と思ったので、「パッと見」と「よくみて考えること」にはギャップがあって、やはりそれが面白いなぁと思いました。顔をよくみていくと「ひげが整えられている」ことからも、「若いが人に見られる立場にある人ではないか」「力強く見せるために、ひげを生やしているのでは」等の意見をいただきました。
リーダー的な立場の人ではないかという意見が重ねられたことから、この作品は「カラカラ帝」という皇帝の頭像であること、200年頃に作られたものであることを伝えました。
 その後、年齢の割に老けてみえることや、力強さと悩ましさ(眉間のしわなどから)等、一人の人の中に相反するものがみられたり、頭像ですが身体まで想像したりすることができたことを伝えて締めくくりました。ナビを終えた後、「もみあげの彫りがとても細かい」ことから「腕のよい職人に作らせたのでは」「それだけ強力な権力をもっていたのでは」など話がつきませんでした。

 鑑賞会後に自分のナビを振り返ったとき、反省点が大きく二つありました。一つ目は情報をもっとしっかり把握しておけばよかったことです。例えば、カラカラ帝は「軍人皇帝」でもありました。ナビをする中でそのことを伝えられたら「格闘家のようだ」「ひげで力強く見せる」等の意見を後押しし、それらを踏まえてもう一度作品をみたときに新たな気づきなども生まれたのではないかと思いました。ナビとして情報を出すかどうかは、鑑賞会の流れによりますが、情報としてもっていることは改めて大切であることを感じました。
 二つ目は、もっと焦点化してナビを進めればよかったです。「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」と問いかけていましたが、その後は漠然とした「ほかに発見・意見はありませんか」ということが多かったように思います。例えば、「顔の中でも目のあたりを集中してみてみましょう」等と、みるところを焦点化したり、「〇〇について考えてみませんか」と話題になっていることをより深めることができるように提案したりすることもナビの大切な役割だと思いました。また、反省会でみるみるメンバーからもらった「この人がもし〇〇だったらどうします?」といった、ユーモアを交えながらも鑑賞者と作品をつなぎ合わせるような言葉かけも、鑑賞会の流れに合わせながらやってみたいと思いました。
 
 みるみるの会の「てっぱん作品」の一つでもある「カラカラ帝」をナビすることで、対話型鑑賞のナビの基本を改めて意識することができました。作品としての「カラカラ帝」(頭部像)が以前よりもっと好きになりました(歴史的には、かなりの暴君だったようですが)。自分の聴く力と話をつなぎ深める力を日々鍛えて、またナビゲートしたい作品となりました。


 次回のみるみるの会鑑賞会は、島根県立石見美術館コレクション展「あなたはどう見る?‐よくみて話そう美術について」の会場で行います(コレクション展のチケット又はパスポートが必要となります)。
 第1回目は12月17日(日)14:00からです。ご来場をお待ちしております。

 

追伸 
 先日、姪っ子がうちに遊びに来ました。その時、何を思い出したのか急に「前、おばちゃんとみたあの絵は、あのおじさんが描いたん?」と言い出しました。そういえば約1年前に姪がいる小学校に出前授業に行き、ルソーの「風景の中の自画像」で対話型鑑賞をしたのです。「あのパレットを持ったおじさんの絵?」ときくと「そうそう。あれには、おじさんと旗と、船と家と川と橋と…」と描かれていたものをどんどん話し始めました。私が「あの絵は、あのおじさんが描いたんよ」というと、姪は「あ、やっぱり!」と言ってとても満足気でした。たった1回、それも短時間の鑑賞会でしたが、姪っ子のなかにあの作品がしっかりと刻みこまれていたようです。

 さあ、みなさんも、そんなすてきな(忘れられない?)鑑賞体験をしてみませんか?
みるみるメンバーとともに楽しい時を過ごしましょう!
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10月の鑑賞会レポート「夕日... | トップ | 11月の鑑賞会レポートその②「... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

対話型鑑賞」カテゴリの最新記事