MIRO ITO発メディア=アート+メッセージ "The Medium is the message"

写真・映像作家、著述家、本物の日本遺産イニシアティブ+メディアアートリーグ代表。日本の1400年の精神文化を世界発信

人々こころごころの花:「心の器」としての能 (伊藤みろ Miro Ito)

2012-01-09 10:48:01 | 伝統芸能
人々こころごころの花

 新年あけましておめでとうございます。

 悲しみに溢れた2011年が過ぎ去り、新しい年が始まりました。

 日本の悲しみが世界の悲しみともなった昨年、皆が苦しみを分かち合い、克服していこうという気持ちが広がりました。重い苦しみも、尽きぬ悲しみも皆で乗り越えていこう、という暖かな連帯の輪が広がりました。
 反面、すべてははかなく脆く、常ならぬもの、失われていくものであることに気づかされた一年でした。
 自然に対して謙虚になり、生かされていることに感謝を感じた年だったのではないでしょうか。
 こうした悲しみの果てには、大いなる恵がやってくることを信じたい年明けです。

 さて、「アサヒカメラ」新年号(2012年1月号)に、「能」を撮った作品を10ページで発表いたしました。NYリンカーンセンターでの個展『Men at Dance:from Noh to Butoh』のために、シテ方金春流 金春穂高氏、観世流 武田志房(ゆきふさ)氏、武田友志(ともゆき)氏、武田文志(ふみゆき)氏にご協力いただき、スタジオで撮りおろした作品です。

 翁は、天下泰平の祈祷の舞いとして、新年に舞われます。
 金春流・金春穂高氏が世の安寧への願いを込めて、空を舞台に演じる翁は、咒師猿楽の流れを組む興福寺春日大社の薪能での「咒師(しゅし)走りの儀」の翁です。また世界共通の伝説である「羽衣」を舞っていただきました。
 一方、松の永遠性と夫婦和合を詠う「高砂」を観世流・武田志房氏に演じていだき、武田友志氏には天照大神(「絵馬」)を舞っていただきました。
 NYで「9.11」を体験した私は、世界の平和を願い、能に流れるこうした神々の「おめでたさ」をテーマにしています。
 
 また能における悟りを目指すこころの道も、大切なテーマです。
 武田文志氏には、敵と味方が生死を越えて、仏縁で友となる「敦盛」を演じていただきました。

 能には、人間世界の尽きぬ悲しみや重い苦しみが溢れています。
人間の心の様のすべてを語り尽くすのが能ならば、またそれを浄化し、救済するのも能です。
 
 こうした「心の器」のような能では、極限にまで抑制された役者の動きから、人の内面世界を象徴させます。
 抑制が効いているからこそ、その所作の一つ一つから滲み出る感情の深さと重さに感動を覚えます。

 能とは世阿弥のいうように「人々(にんにん)こころごごろの花」として、人の心の中で咲く花なのです。
 同時に想像力を仏や神々の世界へも飛翔させる、世界最高峰の象徴劇といえます。

 能について多くを教えてくださり、撮影にご協力くださった武田志房氏、友志氏、文志氏、金春穂高氏に改めて深く感謝いたしつつ、能の象徴される日本文化の伝統の重みへの感謝を込めさせていただきました。
 
 幸多き新年への願いをこめ、2012年が皆様にとってどうか素晴らしい一年となりますよう、ご祈念申し上げます。

 本年も引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

 2012年1月吉日

 伊藤みろ メディアアートリーグ

 写真:「翁」シテ方 金春流 金春穂高 
 撮影:伊藤みろ
 撮影協力:イイノ・メディアプロ
 Photo & Text by Miro Ito/Media Art League. All rights reserved.

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