夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

今年観た映画50音順〈は行〉

2014年12月27日 | 映画(は行)
《は》
『ハンナ・アーレント』(原題:Hannah Arendt)
2012年のドイツ/ルクセンブルク/フランス作品。
ホロコーストを生き延びたユダヤ人哲学者のハンナ・アーレントは、
1960年代初頭、ナチスの重要戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、
その手記をニューヨーカー誌に掲載することに。
極悪非道な人間を想像していたのに、実際に目にしたアイヒマンは凡庸な小役人。
ハンナがそのようにアイヒマンを評し、
また、ユダヤ人自治組織の指導者がアイヒマンに協力していたことにも言及したところ、
ユダヤ人社会から激しいバッシングに晒される。
彼女が受けたバッシングの様子と、それでも彼女が訴えつづけた信念。
“思考の風”がもたらすのは知識ではなく、善悪を区別する能力であり、
美醜を見分ける力なのだということ。
考えることが人間を強くするのだという彼女の信念に心が動かされました。

《ひ》
『非金属の夜』
昨年6月に公開された2012年の作品。
渋谷でボーッとしていたナツは、ミヅキという同年代の女性から声をかけられる。
放っておいてほしいと言ったのに、どうせ行くところないんでしょうと、
ミヅキはナツを強引に引っ張って、行きつけの店数軒に連れてゆく。
空が白みはじめた頃、つきあってくれたことにミヅキは礼を言い、ナツと別れる。
その直後、ミヅキが自殺したことを偶然知ったナツは、
ミヅキについて知りたいと思い、昨晩訪れた店を回ってみるが、誰も何も知らない。
その途中、公衆トイレに寄った折りに、拳銃を見つけて……。
ナツ役はKAT-TUNの田中聖の従姉妹で、塚本愛梨という大型新人モデルなのだそうな。
その他、ナツに殺してくれと頼む青年役に劇団EXILEの秋山真太郎。
モノクロの冷たい雰囲気が希薄な人間関係を示しているかのようですが、
ものすごく嘘っぽくてそらぞらしくて、「で?」と言いたくなります。
同じ渋谷を舞台にした作品では、『渋谷』(2009)のほうが何倍も良し。

《ふ》
『フィルス』(原題:Filth)
イギリス作品。
腹黒刑事ブルースは、同僚や友人を陥れる裏工作に余念がない。
人種差別主義者かつセックス&アルコール&ドラッグ中毒のろくでなし。
担当することになった日本人留学生殺人事件で手柄を挙げれば、
同僚たちを出し抜いて昇進できるにちがいないと意気込むのだが……。
しばしば映し出される、ブルースを昂揚させる妻の姿。
しかしこれ、実は妻に逃げられたブルースの妄想で、
妻の気持ちに近づきたいブルースは、女装して徘徊していました。
最後は錯乱状態にある女装のブルースが犯人と対決、事件は解決するものの、
ブルースに精神疾患があることがバレて昇進は見送りに。
首を括るシーンで終わるという、とんでもない後味の悪さ。
だけど、正気ではいられない男の様子がよくわかり、おもしろい1本でした。

《へ》
『変身 Metamorphosis』
市民投稿型ニュースサイト“8bitNews”を主宰する、
元NHKのアナウンサーでジャーナリストの堀潤が監督・編集・撮影・脚本・ナレーションすべてを担当。
2011年の福島第一原発事故、1979年のスリーマイル島原発事故、
1959年のサンタスサーナ原子炉実験場事故を取材して、
半世紀の間に起きたメルトダウン事故の真相に迫るドキュメンタリー作品。
福島では、多重下請ピンハネ構造の事実を調査すべく、
一般の投稿者だった林哲哉氏がそれまでの会社を辞めてまで現場に乗り込み、
作業員として採用されるさいの驚愕の実態を伝えています。
原発監視団体“スリーマイルアイランド・アラート(TMIA)”のスタッフが、
「どんな事故であろうと、忘れ去られる。忘れ去られても、終わることはない。
忘れ去られるから、せめて事故が起きた日のことは覚えておかなくては」と話していたのが印象に残りました。

《ほ》
『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(英題:White Tiger)
地味ながら非常に見応えのある2012年のロシア作品。
第85回アカデミー賞外国語映画賞ロシア代表作品です。
第二次世界大戦末期、砲撃を受けたソ連軍の戦車内で発見された黒焦げの戦車兵。
体の9割以上に火傷を負い、記憶を喪失していながら、驚くべき快復を見せたその男を、
みんなが“イワン・ナイジョノフ(=「発見されし者」の意)と呼ぶように。
記憶は失っても戦車手としての腕前は変わらず、素晴らしいのひと言。
ドイツ軍の重量戦車で神出鬼没の“ホワイトタイガー”を仕留めるべく、
フェドトフ少佐はイワンを車長に抜擢するのだが……。
ホワイトタイガーの出没の仕方はまるで幽霊で、ホラー並みに怖い。
戦車と話ができるようになったイワンの姿もちょっとしたファンタジーです。
だけど、戦争とはこういうものなのかもしれません。
戦場にいた者は、いつまでもその姿に取り憑かれ、
自分で敵を焼き払わないかぎり、20年後、50年後、100年経とうがまた目の前に現れる。
戦車オタクもそうでない人も一見の価値ありの優れた戦争映画だと思います。
『フューリー』と併せてぜひどうぞ。

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