夜な夜なシネマ

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『人間爆弾「桜花」 特攻を命じた兵士の遺言』

2017年08月19日 | 映画(な行)
『人間爆弾「桜花」 特攻を命じた兵士の遺言』(原題:Parole de Kamikaze)
監督:澤田正道

久しぶりに十三の第七藝術劇場へ。
朝9時過ぎだというのに、ワンカップ酒やらビール缶やらを持って、
ふらふらと歩くおっちゃん数名。
パチンコ屋の前には開店待ちの老若男女、女は若干少なめだけど、多数。
お盆のさなかでもやっぱりみんな酔っぱらってパチンコするのね。十三だなぁ。

日本人監督なのになぜにフランス作品かと思ったら、
澤田正道監督は1985年に渡仏、映画製作会社を設立した人なのだそうです。
設立当時は主にプロデュースにまわり、これが初監督作。

「桜花」とは、太平洋戦争末期に日本海軍が開発した特攻専門兵器。
母機から吊される形で敵艦の至近距離まで運ばれ、発射されます。
大量の爆弾を搭載し、敵艦に激突させることだけを目標としたこの桜花は、
操縦する人間ももちろん死ぬこと前提。なんと恐ろしい兵器なのか。

本作でインタビューを受けるのは、海軍兵学校出身のエリート士官だった林冨士夫さん。
22歳のときに桜花作戦の第一志願兵となり、23歳で分隊長に。
その日その日に出撃する隊員を選出する役目を担った林さんは、
死ぬ覚悟で志願したにもかかわらず、同志を死へと送り出す立場に。

カメラに映るのは林さんのみ。
時折インタビューの場所が変わるだけで、ただ訥々と語る75分。
林さんにとっては毎日が慰霊祭。
亡くなった人たちに毎日、心で話しかけているのだと言います。

林さんが出征するとき、お国のために立派な戦死を遂げなさいと送り出したご両親。
お母様はそのようにお百度を踏んでいたけれど、
あるとき、神様に「嘘をついていました」と告白したそうです。
息子がどんな手柄を立てなくてもいい、名誉ある戦死など要らない、
どうか無事で帰ってきてくれますように。
そう願ってお母様はまたお百度を踏んだらしいと、林さん。

滑らかに話されるわけでもないし、沈黙も長い。
だから、その間、観ているこちらも耐えねばならず、眠気にも襲われます。
が、あの沈黙こそが、林さんの心情を表している。
観終わってから、ふと林さんの言葉を思い返している自分に気づきます。

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